激化する中東情勢 日本経済への影響は
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国際政治学者 和田 大樹
日本のエネルギー安全保障の中核である中東で再び軍事的緊張が高まっている。パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが10月7日、イスラエル領内へ数千発のロケット弾を発射するなど、空、陸、海からの攻勢を仕掛けて以降、戦闘がエスカレートしている。イスラエル領内からは130人あまりの民間人らが人質となってガザ地区に連行され、イスラエル軍が空爆を強化したことから、外国人を含む一部の人質はすでに殺害されたともいわれる。今日、戦闘の激化、長期化は避けられない状況だ。
諸外国もそれぞれの立場を明確にしている。米国など欧米諸国はイスラエル支援の立場を明確にする一方、中国はイスラエル、ハマス双方に暴力の自制を呼び掛けているが、王毅共産党政治局員兼外相が12日、「この問題の本質はパレスチナ人民に正義が果たされ続けていないことにある」と発言してイスラエルを批判し、イスラエルとパレスチナの2国家共存による解決を模索すべきとの認識を示した。ロシアは今回の悲劇は米国の中東政策の失敗によるものだと批判するとともに、イスラエルに対しては過剰な軍事攻撃を控えるよう自制を求め、双方の間で停戦を仲裁する用意があると表明した。アラブ諸国の間でもパレスチナ支持の動きが広がっている。イスラエルとの関係正常化を目指してきたサウジアラビアは、今回の件を受けてイスラエルとの国交正常化交渉を中断すると発表した。
日本への影響
周知の通り、日本は石油の9割を中東に依存しており、中東情勢の緊張は日本のエネルギー安全保障を脅かす。今後の行方によっては、日本の石油事情にどのような影響が考えられるのだろうか。
まず、現時点で大きな影響が出ることはないと思われる。イスラエル軍とハマスの軍事力の差は歴然としており、今回ハマスによる大規模な奇襲攻撃を許したとの批判も上がっているが、中東全体で見ると戦闘範囲は極地的なもので、それがサウジアラビアやUAE、カタールなど日本がとくに石油を依存する国々に影響が波及することは考えにくい。ペルシャ湾を出発点とする日本の経済シーレーンにも影響はないと思われる。武器供与などでサウジアラビアやUAEが今回の衝突に関与することも考えにくい。
だが、今後のポイントとなるのはイランの存在だ。ハマスを長年支援するイランとイスラエルは犬猿の仲で、イランはイスラエルがガザ地区への攻撃を継続すれば介入せざるを得ないとの見方を示している。具体的にどのような介入なのかは分からないが、今後イスラエルとイランの緊張が強まることはすでに避けられない状況で、それによって軍事的緊張が中東全体に拡大する恐れもある。
また、イスラエルと国境を接するレバノン南部には親イランの武装勢力ヒズボラが活動し、すでにイスラエル領内への攻撃を加えているが、シリアやイラク、バーレーンやイエメンなど各地に親イランの武装勢力が存在し、今回の件を受けイスラエルへの敵意を強めている。イラクやイエメンの親イランの武装勢力は、米国がイスラエルに協力すれば米国権益も攻撃対象になると警告しており、イランとそのネットワークの動向が今後のポイントになる。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
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