2024年11月21日( 木 )

【業界を読む】転換期を迎えるパチンコ業界 加速する市場からの撤退

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 改正風営法の施行(2018年2月施行)により、パチンコホール(以下、ホール)は新たな規制に対応した新基準機(パチンコ・スロット台)の購入を余儀なくされ、続く改正健康増進法(20年4月施行)によって、分煙環境整備も不可避となった。費用負担が先行するなか、コロナ禍で風評被害を受け客離れが加速。市場規模の縮小が進むなか、24年には新紙幣への対応が待ち構えている。

8,000店舗を割り込んだホール

 ホールの減少に歯止めがかからない。警察庁公表データによれば、2022年末時点でのホール数は7,665店舗(「令和4年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯の取締り状況等について」参照)で、8,000店舗を割り込んでいる。かつては国民的娯楽として親しまれ、約30兆円の市場規模を誇っていたパチンコ業界だが、その規模は現在約14兆円まで縮小。規制強化に端を発した客離れを抑えることができないまま、先行投資も回収できず、電気代の高騰(九州は玄海原発再稼働により免れた)やスマスロ・スマパチの購入など、費用負担だけが重くなり、ホール経営を苦しめている状況だ。

 スマスロ・スマパチは22年11月以降にホールへの導入が始まった次世代機。メダルやパチンコ玉(以下、銀玉)の貸出数・獲得数を電子データ化することで、直接メダルや銀玉に触れることなく遊技可能となっている。直接触れずに済むため衛生面に優れるほか、獲得したメダルや銀玉を箱に盛り、計数機まで持ち運んで計測する手間も省ける。ホールにとってはメダルや銀玉の存在に係る諸々の作業・設備投資(メダルや銀玉の補充・洗浄、計数機などの導入)を軽減・抑制できるメリットがある。また、スマスロに関しては“貫きスペック”に代表される、規制緩和によるゲーム性の向上が図れており、休眠顧客の掘り起こしといった点でも効果が期待されている。

 ただ、スマスロ・スマパチには電子データのやり取りを行うための専用ユニットが必要となるため、1台あたりの導入費用が60万円を下回ることはない。24年には新紙幣の発行も控えている。ホールは各台の間に紙幣識別機を設置し、客が投入した紙幣の額に応じてメダル・銀玉を貸し出している。新紙幣に対応した識別機の導入は避けられず、相応額の設備投資を要するため、資本力のない中小規模のホールを中心に廃業、事業譲渡が続いている。22~23年11月(入稿時点)までに確認できた、福岡県下の閉店ホール数は約50店舗。このうち、福岡市内の主な閉店ホール情報をまとめた(【表1】参照)。

好立地ホールは跡地利用進む

 福岡市地下鉄・赤坂駅から徒歩10分圏内に位置するプラザ赤坂跡地は、JR九州へと売却され、その後一部が(株)長谷工不動産へと売却された。両社は今後共同でマンション開発を進めていくものと推察される。

 福岡市内ではマンション用地需要が堅調に推移していることもあり、商業地、住宅地ともに地価が上昇を続けている。プラザ赤坂のような好立地ホールであれば、業界内外を問わず買い手を募り、売却することでまとまった資金を得ることもできる。

城南学園通り沿いのアウトバーンプラッツ
城南学園通り沿いのアウトバーンプラッツ

    今年9月に閉店したばかりのアウトバーンプラッツは、城南区のシンボルロード・城南学園通り沿いで、福岡市地下鉄七隈線・七隈駅まで徒歩5分程度。周囲には福岡大学に通う学生向けの飲食店や、普段使いしやすいスーパー・サニー七隈店もあり、生活利便性は高い。土地はホール経営を行う(株)セイコーニーズライフが所有している。

 市内の閉店ホールで目立つのがラッキーランドだ。経営を手がける(株)新洋は、長崎の戸町店も今年9月に閉店させており、残された店舗は須恵・和白丘・和白Ⅱ・宇美・那珂川の5店舗のみとなっている。このうち須恵店に関しては「土地の買い手がつき次第閉店するようだ」(ホール経営A社)との話も聞かれる。今春閉店した友丘店跡地は、マリングループの1社で貸しビル業などを行う(株)トレジャーカムが取得しており、どのように利活用されるのか気になるところだ。

 このほか、地下鉄空港線・JR姪浜駅北口を出てすぐの場所で営業していたニューひかりの後には、ドラッグストアモリ姪浜駅前店がオープンしており、解体せずに転用するケースも散見される。ドラッグストアのほかには、ジムや高い換気能力を生かせる焼肉店への転用も見受けられ、なかには自動車販売店へと転生したホールもある。

閉店後間もなく2年が経とうとしているニュークラウン
閉店後間もなく2年が経とうとしている
ニュークラウン

    無論、好立地でも捨て置かれるホールはある。たとえば、地下鉄七隈線・六本松駅まで徒歩5分圏内の場所にあるニュークラウンは、閉店から2年が経過しようとしているが、依然動きが見られない。博多駅まで直通となった七隈線沿線では開発熱が高まっているだけに、動向が注目される。

大手ホールも苦境に立たされる

 矢継ぎ早の設備投資に耐えかねた中小規模のホールが姿を消し、大手ホールによる市場の寡占化が進むパチンコ業界。しかし、市場環境の目まぐるしい変化がもらした淘汰の波は、中小・大手の垣根を越えて、ホール経営に襲いかかる。その象徴となったのが、 (株)ガイアの倒産だった。

 ガイアはマルハン、ダイナムとともに、業界の御三家として存在感を発揮していたホール経営大手。06年5月期には5,800億円超の売上高を計上していたが、近年は利益確保に苦戦し、不採算店舗の閉店や店舗経営に関する権利義務の譲渡を断行。23年5月期の売上高は1,895億円まで減少し、65億円の最終赤字を計上していた。今年10月頭には業界内でガイアが不渡りを出したとの話が出回り、それを裏付けるかのようにメーカーらが各ホールに対して「未納品の台(ガイアに納入予定だったパチンコ・スロット台)を買ってもらえないか」との打診を始める。最終的にはメインバンクの三井住友銀行が回収に走ったことがトリガーとなり、同月30日、ガイアはグループ会社6社とともに東京地裁に民事再生法の適用を申請し、同日、保全・監督命令を受けた。

 この約1カ月間、業界関係者はガイアの一挙手一投足から目が離せなかった。ホール経営大手が倒れれば、ほかのホール経営業者に対する与信判断に影響が出る可能性が高い。営業エリアの拡大に積極的な同業者や、出店用地や開発用地を探している事業者からすれば、ガイアが全国に展開する90店舗超の行方を知りたい。不安や思惑が渦巻くなか、ガイアおよびグループ各社は再建を目指し、Jトラスト(株)(東証スタンダード)の支援を受け再生手続きを進めている。ガイアに対する債権額が最も大きいのはメインバンクの三井住友銀行だが、九州の地銀や主要取引先である各メーカー・販売会社も少なからず痛手を負っている(【表2】参照)。

 今回の民事再生に際して、ガイアのオーナー一族は排除されたようだが、スポンサーとなったJトラストの大株主には、かつて同一族の人間が名を連ねていた時期もあるだけに、再建を目指すガイアへの関与を危惧する声も聞かれる。また、店舗に関しては「(パチンコ・スロットの)設置台数500台以上じゃないと経営は難しいのではないか」(ホール経営B社)との声もあることから、500台未満の店舗は整理が進むかもしれない。

 ガイア倒産の陰で、九州でも(株)ネクスト(宮崎)が破産手続き申請の準備に入ったほか(負債総額は約5億円が見込まれる)、大分のホールAに対して、資金繰りを不安視したメーカーが納品を見合わせたとの話が出るなど、さらなる統廃合を予期させる動きが出てきている。

遊技再興に向けて情報発信を

 若年層を中心に、遊びの舞台はスマホやゲーム機などのオンライン端末を介した、ネット空間へと移動している。娯楽が多様化していくなかで、相対的に遊技人口は減少し、市場から撤退するホールも増えている。一方で、体験や経験を重視するコト消費も若年層を中心に旺盛であり、パチンコやスロットを実際にホールで打ってみたいという声も少なくない。23年に入り、ホール営業にともなう広告宣伝規制が10年ぶりに見直された。これまで封じられていた宣伝活動ができるようになったことは、新規顧客獲得の一助となるはずだ。コロナ禍では風評被害払拭に向けて、業界が一丸となって情報発信を行った。同様に、まずは情報発信によるホールへの動線確保に取り組むことが求められる。縮小傾向にあるとはいえ、依然約14兆円の市場規模を誇るパチンコ業界。遊技再興への挑戦は、決して無駄ではない。

【代 源太朗】

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