離婚時の子どもの親権と面会交流の法律論~課題と解決はどこにあるのか~
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明倫国際法律事務所
弁護士 小栁 美佳 氏離婚を選択する夫婦の間に子どもがいるとき、その子がどちらと暮らすのかは大きな問題だ。そして別居後は、別居した親と子どもの面会交流が重要な問題となる。だが、これらの問題を法律が常に円満に解決するとは限らない。子どもの親権と面会交流は法律のもとでどのように扱われるのか、また現状の課題と解決はどこにあるのか、専門家の弁護士に話を聞いた。
親権者の決定と誰が子育てしていたか
──離婚する夫婦のどちらが親権者となるかは、どのような基準で判断されるのでしょうか。
小栁美佳氏(以下、小栁) 裁判所は、夫婦どちらが親権者として適格かを判断する基準として、子どもの年齢によっては母性優先の原則などとともに、同居期間中は夫婦どちらが主に子どもの養育を担っていたか、別居後はどちらが子どもの養育を担っているかを重視します。離婚する夫婦の間で親権が争いになり裁判所に持ち込まれた場合、原則として裁判所は、子どもの食事は誰がつくっていたか、子どもが通っている学校や幼稚園と誰が連絡のやり取りをしていたかなど、いわゆる子どもの身辺監護を誰がしていたかを調査します。すでに別居している場合は、別居後の子どもの監護状況についても調べます。そして、裁判所は、そのような調査結果を踏まえて父母いずれを子どもの親権者とするかを判断します。
──継続性の原則とは、どのようなものですか。
小栁 別居した夫婦の子どもが、別居後すでに一定期間どちらかの親と同居して安定した生活を送っている場合は、あえて状況を変更する必要がない限り現状を維持した方が子どもの福祉にとって望ましいと考える、裁判所が親権者を決定する際の基準の1つです。
──同居時には子育てをあまりしていなかった親が、別居後は子どもと同居して一定期間子育てすれば、継続性の原則に基づいて親権が認められることもあるのでしょうか。
小栁 長期におよんだ場合、認められる可能性もあると思います。ですので、別居時に子どもを一方的に連れ去られ、自身のほうが親権者として適格であると考える別居親は、たとえ同居中に主に子どもの養育を担っていたのが自身であったとしても、速やかに裁判所に対して、親権者が決まるまでの期間の監護者(実際に子どもと一緒に暮らして養育を担う者)を自分に指定するよう求める調停もしくは審判を申し立てる必要があります。もしその申し立てを行わずに、しばらく経った後の離婚調停や離婚裁判のなかで自分が親権者としてふさわしいと主張しても、連れ去った同居親による子どもの養育環境に問題がなければ、継続性の原則により、連れ去った者が親権者となる可能性が高くなります。裁判所は、同居時の子育てだけでなく別居後の子育ての状況も重視することはたしかですので、異議がある場合は、速やかに法的な対応が必要です。
別居親と子の面会交流は重視されているのか
──法律上の面会交流の位置づけについて教えてください。
小栁 夫婦が別居、離婚するとき、どちらかは子どもと別居しなければなりません。別居親は面会交流などによって子どもの養育に部分的に参加します。面会交流は、子どもの健全な生育にとって重要ですから、裁判所は面会交流を重視しています。
──しかし、裁判所が別居親との面会交流を決定したにもかかわらず、同居親がさまざまな理由をつけて面会交流が実施されないこともあるようです。
小栁 これはとても大きな問題です。裁判所で成立した調停などで定められた面会交流について同居親が実施の約束に応じない場合、裁判所は別居親からの申立に基づいて、同居親に対して履行勧告をしたり、場合によっては間接強制という制裁金のような金銭の支払を命じます。間接強制は、義務が履行されない場合に金銭の支払いを課すことによって、同居親に自発的に面会交流義務の履行を促す制度です。また、同居親が面会交流に応じないことに対して慰謝料請求なども検討することはできます。しかし、たとえ間接強制や慰謝料が認められても、面会交流を実施させる強制力はなく、現行の制度には面会交流を実施する強制力はないのが現実です。
──この状況は何とかならないのでしょうか?
小栁 別居親としてできる法的な主張としては、正当な理由なく面会交流を阻止する同居親の親権適格性に異議を申し立てることが考えられます。別居親との面会が子どもの不利益となるものでない限り、子どもの面会交流を同居親の一存で阻止することは、子どもの別居親と会う権利を侵害する行為であり、子どもの人権侵害にあたり、同居親は親権者として適格ではないという主張です。
──その主張を裁判所は認めますか?
小栁 裁判所がどう判断するかは一概にいえませんが、面会交流ができないことだけを理由に同居親が親権者として不適格との主張を認めてもらうのは厳しい現実があります。同居親側も面会交流ができない理由として、「自分が子どもを別居親に面会させたくないから」とは言わず、多くの場合「子どもが望んでいない」ことを理由にします。このような主張がなされ別居親が争う場合は裁判所が子どもの意向調査などをしますが、その調査のなかでも子ども自身が別居親との面会を望んでいないという話をした場合は、子どもが望まない面会交流は子どもの不利益になるから実施されないこともやむを得ない、といった結論になりがちです。もちろん、同居期間中に別居親が子どもに暴行していたなど、子どもが本当に別居親に会うことを望まない場合もあることは否定できません。
しかし一般論としては、子どもが同居親に対し「別居親に会いたい」とはいえない状況があることを踏まえると、子どもに「別居親と会いたくない」と言わせるような子育てをしている同居親の親権者としての適格性を否定することまで、裁判所には踏み込んでもらいたいところですが、多くの場合、裁判所はそこまで踏み込めないのが実情です(ただし調査により、子どもが、同居親から指示されて別居親に会いたくないと述べたことが明らかになったような場合は別です)。このような実情は、裁判所は面会交流を重視すると言いながら、相対的には面会交流の重要性が下がってしまうような状況をつくり出しているといえるのではないかと思います。
DVの訴えと連れ去りの告訴
──ほかにも別居親の主張として、虚偽のDVの訴えで不当に疑いをかけられ、子どもの居場所すらわからないという別居親もいます。
小栁 これも大きな問題です。別居時にDVの嫌疑をかけられると、離婚裁判などにおいてDVがあったかどうかの事実認定がされる前に、同居親と子どもの居場所に関する情報がシャットアウトされてしまうので、別居親は子どもが居なくなったと同時に子どもの居場所を探す手立ても絶たれる状態になり、精神的な打撃は大きいものです。ただその一方で、DV被害が事実である場合は、居場所が知れたときに重大な事態につながる可能性があるため、裁判所が面会交流の実施に対してより慎重にならざるを得ないのはたしかです。子どもが面会交流時に別居親に対して同居親と暮らしている居場所を教えてしまうことがあり、重大なDV被害の再発につながる可能性があるためです。
──一方的な子どもの連れ去りを未成年者略取誘拐で告訴しようとする別居親がいます。この方法は問題の解決につながると思いますか。
小栁 有罪判決が出れば、一方的な子どもの連れ去りをいったん抑止する効果はあるかもしれません。夫婦関係に耐えられない夫婦の一方が、もう家を出たいという気持ちになる。しかし、自分だけ先に家を出ても、あとから子どもを引き渡してもらえない可能性がある(継続性の原則)。その結果、思い余って一方的に連れ去ってしまう。連れ去りの犯罪化は、いったんそれを抑止する可能性はあるでしょうが、犯罪化されれば、今度は何とかして子どもの連れ去りがやむを得ない行為だった、という事情(たとえばDV嫌疑など)をつくり出そうとする親も出てくるかもしれず、結果、子どもと面会できない状況が長く続いてしまうかもしれません。よって連れ去りの犯罪化が、連れ去り問題の解決につながるかどうかは別問題だと考えています。
国際的に問題視される日本人の越境連れ去り
──日本人による海外からの子どもの連れ去りが国際的に問題視される場合があります。
小栁 日本はハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に加盟しています。ハーグ条約は、親権者等の一方が出国する場合に他方の親権者等の同意なく子どもを連れて出国することは子どもの利益に反すること、親権者等のどちらが子どもを養育すべきかの判断は子どもの元の居住国で行われるべきであること等の理念のもと、一定の返還拒否事由などがある場合を除き、原則として子どもを元の居住国へ返還することを義務付けています。同意なく子どもを出国させられた親権者などが裁判所に対し子どもの返還手続を申し立てた場合、申し立てから6週間以内に返還の可否を決定することが想定されているため、裁判所は早急に判断を下します。
──では、なぜ日本は諸外国から子の連れ去りについて批判されるのでしょうか?
小栁 いろいろあるとは思いますが、結局は日本においては親が他方親の承諾なく子どもを連れ去ることが大きく問題視されないような風土があることなどが根本的な理由ではないでしょうか。
問題を解決できる制度改正はあるか
──単独親権から共同親権に変われば、問題は解決するでしょうか。
小栁 共同親権になっても、父母いずれが子どもと同居するかという問題は残ります。よって子どもをめぐる争いはなくならないと考えています。問題を解決するための現実的な方策は、十分な面会交流の実効性を確保することではないでしょうか。それが子どもの福祉にとっても、別居親の気持ちの面においても、解決策として最も有効だと考えます。そのほかにも考えられる制度として、問題となっている連れ去りを防ぐには、たとえば、ハーグ条約のように、別居親の承諾なく子どもを連れ去った場合には、別居前の状況に戻すことに強制力をもたせることも考えられます。また、裁判所が面会交流をより重視した判断を下すようになるために、法律の条文として、たとえば、原則、別居親との面会交流は毎週実施させなくてはいけないなどと盛り込めば、面会交流をめぐる現状も変わる可能性があります。
私が期待しているのは、今年発足した「こども家庭庁」です。子どもを中心とした課題解決のために動く機関として、両親の別居、離婚に際して別居親と子どもとの面会交流の調整や実効性を確保するなど、子どもの人権を守る機能をはたしてくれることを期待しています。
問題解決のカギは配慮ある面会交流の実施
──一連の問題に対して法律あるいは司法が抱えている課題は何だと思いますか。
小栁 すでに申し上げた通り、裁判所が面会交流を重視するといいながら、実際には相対的に重視しない判断を下している現状に大きな問題があると考えます。面会交流がないがしろにされると、別居親は同居親を信頼できません。そして、別居親は、子どもを別居親と一切会わせようとしない親と暮らすことは子どもにとって相応しい環境ではないと考えてしまい、それが子どもをめぐる紛争を悪化させる大きな要因となっています。子どもと十分な面会交流ができれば、別居親は安心し、同居親の子育てを信用できるようになって、子どもをめぐる紛争が減るのではないかと思います。
──法律論にとどまらず、問題の解決のために必要なことは何だと思いますか。
小栁 面会交流がうまくいかない理由は、法律上の強制力の問題もありますが、一番の原因は、別れた夫婦の気持ちの問題です。親権や面会交流で争えば争うほど、元夫婦はお互いに非協力的になります。たとえば、同居親は、別居親から自身の子育てを否定されると攻撃されているように感じ、面会させると別居親から子育ての状況を責められるのではないかと不安を感じて、子どもと別居親を会わせなくなりがちです。一方、別居親はさまざまな不安を抱える同居親に面会交流を要求し、同居親の養育を非難すればするほど、同居親の拒否反応を引き起こし、ますます面会交流が実現しなくなるというジレンマに陥ります。しかし、別居親からすると、面会できず子どもの状況がわからないから不安になるし、親子関係を一方的に断絶されている気持ちになって、同居親を非難する気持ちにもなるのです。同居親、別居親がお互いに相手の不安感に配慮のうえで面会交流が実施されることが、子どもをめぐる紛争の解決には必要です。
最終的に一番大切なことは、別居、離婚によって大きな変化に晒される子どもの立場で考えることです。子どもにとって、日常どちらの親とどこで暮らすか、そして別居親との面会交流がどのような意味をもつのか。夫婦は別れても子どもの親であることは変わりませんから、子どものことを中心に考えて、お互いに歩み寄ることが最終的には必要だと思います。
【寺村朋輝】
小栁美佳(こやなぎ・みか)
福岡県弁護士会所属。岡山大学法学部卒業。大阪大学大学院高等司法研究科(法科大学院)卒業。2011年12月、弁護士登録。同年同月、明倫国際法律事務所(旧・明倫法律事務所)入所。特集:愛する子どもを配偶者に連れ去られた~実子誘拐の無法地帯
NetIB-NEWSでは、実子連れ去り問題を取材し発信している。
下記のアドレスからご覧ください。
https://www.data-max.co.jp/series/jisshi-yuukai法人名
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