【トップインタビュー】異業種との共創で広がる博多織の可能性 次世代へと紡がれる伝統と革新~福商新規部会長に聞く(1)
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(株)サヌイ織物
代表取締役 讃井 勝彦 氏創業70年を超える博多織の老舗・(株)サヌイ織物では、博多帯に代わり、にわか面があしらわれたポーチや人気キャラクターとのコラボアイテムなど、多彩な製品を製造・販売している。同社の讃井勝彦代表は博多織をより身近に、そして、次世代へと継承するために、従来の伝統工芸の枠を超えた“共創”に取り組んでいる。
(聞き手:(株)データ・マックス 専務取締役 児玉 崇)メーカーとしての覚悟を決める
──博多織といえば着物の帯のイメージですが、近年では着物を身に着ける機会も少なくなりました。
讃井勝彦氏(以下、讃井) 昔は入学式や卒業式、授業参観と、学校行事だけでもそれなりに着物を着る機会がありましたが、今では七五三や成人式など、人生におけるライフイベントのなかで数える程度という人も少なくないでしょう。皇太子(現・上皇)さまのご成婚から1975(昭和50)年をピークに、着物ブームが断続的に続いたことで、一時市場規模は2兆円まで拡大しましたが、以降は縮小傾向が続いています。
──着物ブームの恩恵を感じられることはありましたか。
讃井 祖父が49年に博多区下呉服町で事業を興し、来年創業75年を迎えます。この間に着物ブームが起こったわけですが、祖父が亡くなり、父が事業を引き継いだタイミングで帯の生産を止めてしまったんです。問屋から柄などを指定され、注文を受けた本数分帯を織り納品する。博多織のつくり手でありながら、実態としては下請と変わりがない。父はそれが嫌だったみたいです。とはいえ、当時帯の販売による売上が全体の約8割を占めていましたので、帯を止めるという父の決断は死活問題でした。着物ブームと逆行するように、サヌイ織物は現上皇后さまにもご購入いただいたサヌイ袋織財布と、帯の代わりに始めたギフト製品の販売を主として活動を続けていくことになるわけですが、75年に山陽新幹線が博多駅まで開通したことが転機になりました。ギフト製品が、博多土産として重宝されるようになったんです。
──メーカーとして自社製品の直売に切り替えたことが功を奏したわけですね。
讃井 「お父さんには先見の明があったね」と言っていただくこともあるのですが、正直な話、当時の父はそこまで考えてなかったと思います(笑)。ただ、オリジナル製品が業績の牽引役へと成長したことで、ものづくりへの責任感を一層強くもつことができ、メーカーとしての自信にもつながったと思います。また、博多織は帯以外にも活用法があるということを業界内外に示すことができたことも、大きな成果といえるのではないでしょうか。
多彩な展開を見せるサヌイ織物
──御社の製品には伝統を感じさせながらも、普段使いできる身近さがあります。
讃井 私をはじめ従業員の皆さんのアイデアや、お客さまからいただいた声を基に製品開発に取り組んでいます。にわか面があしらわれた「にわかポーチ」は、マイングNo.1おみやげ決定戦の雑貨部門で1位に輝いたこともある人気製品です。
このほかにも、時代に応じて、さまざまな製品をつくり続けています。たとえば携帯電話が普及し始めたころは、学生を中心に携帯ストラップが流行したので、当社でも需要を掴もうと博多織のストラップを開発し、数百万本を販売しましたが、スマホが主流の現在では、肩から掛けられるサコッシュタイプの「IRERII(いれりい)」を販売しています。
ビジネスシーンで使えるネクタイや献上名刺入れ、博多織オーダースーツも取り扱っており、老若男女問わず、誰もが博多織を日常生活のなかで楽しめるように、日々ものづくりに励んでいます。
──種類が多いだけに、量産・販売体制を整えるのも大変そうです。
讃井 創業の地は博多区下呉服ですが、その後東区への移転を経て、2007年に今の西区小戸に拠点を置いてからは、ここ小戸の工場で製造を行っています。販売体制に関しては、本社でもある博多織工芸館でご購入いただけるほか、博多駅マイング店とららぽーと福岡店の2店舗を直営店として運営しています。オンラインショップもありますので、直接店舗へ出向くのが難しい方は、ぜひご活用いただければと思います。
製品に関しては、決して高単価というわけではありませんので、生産性の向上に向けて設備投資を積極的に行ってきました。工場では8台の自動織機が作成されたデザインデータに基づき稼働することで、量産化が図られています。卒業シーズンや周年を迎える学校、学会などの誘致を行うコンベンションビューローから記念品の製作を依頼されることも少なくなく、今後も業務効率化と合わせて、さらなる生産性の向上に取り組んでいきます。
──近年では異業種とのコラボも目立ちます。
讃井 これまで全国を飛び回って博多織の魅力を伝える講演会を無料で開催してきました。こうした普及活動と、自社製品の認知度向上が相乗効果を生んだ結果かなと考えています。世界的な人気を誇るゲームコンテンツ「ストリートファイター」や、人気漫画・アニメ作品の「北斗の拳」や「キン肉マン」「リラックマ」「Disney」「スタジオジブリ」などとのコラボのお話もいただくようになり、これまで博多織の存在を知らなかった層にも訴求効果を発揮しています。キャラクターなど複雑な造形のものも、原作者の方が納得のいく水準で表現できたことは、当社としても良い経験になりました。コラボに関しては、トヨタの高級車LEXUSのフロアマットに採用されるなど、これまで人気ブランドからもお声がけをいただいており、博多織は異業種との“共創”でそのポテンシャルをまだまだ高めることができるのだと、改めて気付かされました。
伝統と革新の連続で次世代へつなぐ
──従来の博多織のイメージからは想像できない製品展開に目を引かれますが、しっかり伝統も継承されています。
讃井 博多織は、人々に求められる最高の織物をつくり続けてきた先達の存在あっての伝統的工芸品です。その思いや価値を知ってもらおうと、先述の普及活動に加えて、教科書に掲載してもらえるようお願いも続けてきました。おかげさまで、地域資源の生かし方の一例として、小学校の教科書などにも掲載していただいています。次世代を担う若い人たちが、少しでも博多織に興味をもつきっかけになればと思います。
私は伝統とは、革新の連続のうえに成り立つものだと考えています。本当に受け継ぐべきものはしっかりと承継し、そのうえで革新を積み重ねていくことが、次の時代にも残り続けるために大切なことだと思います。当社では映画「るろうに剣心 最終章」の衣装デザインや、羽生結弦選手にもご紹介いただいた「ISUフィギュアスケートグランプリファイナル」のメダルリボン、地元福岡開催となった「世界水泳選手権2023福岡大会」のメダルリボンも手がけました。その一方で、皇室への献上品を織らせていただくなど、伝統的工芸品としての価値の維持にも努めています。
──どのような点が博多織の特徴といえるのでしょうか。
讃井 簡潔にいうと堅牢な生地、といえるでしょう。博多織は先染めの糸を使い、細い経糸(たていと)を多く用い、太い緯糸(よこいと)を筬で強く打ち込み、主に経糸を浮かせて柄を織り出します。そうすることで生地に厚みや張りが出て、締めたら緩まないということで、古くは重い刀を腰に差す武士の帯として重用されていました。
デザイン面でいうと、独鈷(どっこ)と華皿(はなざら)が有名ではないでしょうか。帝釈天が持つ独鈷に墨を付けて、紙の上をコロコロと転がすとでき上がる模様が独鈷文様。華皿は、仏の供養をするときに華を散布するのに用いる器の柄になります。また、細い縞を太い縞が挟むような柄は親子縞で、親が子を守るという意味が込められています。逆に両端が細い縞になると、子が親を慕うという意味合いになります。徳川幕府へ献上されるようになったことで、「博多献上」という名とともに知られるようになります。
当社では工場見学も受け入れており、こうしたデザインの成り立ちなどを学びながら、実際に織機で織体験ができ、博多工芸館で買い物もできるので好評です。平日でも多くの方にお越しいただいています。そこでしか購入できない、体験できないという稀少性を創出することが、博多織の付加価値をより高めるための一助になるのではないでしょうか。
──伝統的工芸品の日用品への転用は容易ではないでしょう。
讃井 昔ながらの織り方で昔ながらの柄をそのまま継承することが伝統を守ることになるとは限りません。生き残るために、柔軟に時勢にも対応していくことが、結果として次世代に博多織を残すことにつながると思っています。
名刺入れ1つとっても、そのまま博多織で加工すればよいわけではありません。名刺入れとして内ポケットから出し入れしたりする内に、擦り切れていくわけです。使用時の動作なども考慮し、適切な加工を施す必要があります。ワンポイントとして博多織が目を引くだけでなく、長く日常的に使うなかで不便に感じることがないように仕上げる技術が求められます。そうした技術の研鑽も含め、革新なんです。
紡いでいく博多織の伝統と革新
──これまでに多くの苦労があったと思います。
讃井 リーマン・ショックのときに父が会社を畳むと切り出しました。私自身結婚を控えた身で、従業員の生活もあるので、簡単にはその決断を受け入れることはできませんでした。なので、私が会社を引き継ぐことにし、今に至ります。当然将来に対して不安しかない状態でしたが、それでも付いてきてくれた妻や従業員の支えがあり、ここまでやってくることができました。
工場見学や買い物に来られたお客さまから、笑顔で「ありがとうございました」と言っていただけた瞬間が、事業を続けてきてよかったと思える瞬間です。最近ではコラボなどの効果もあり、若い人が当社で働きたいとやってきてくれるようになりました。せっかく来てくれた若い人たちが、最初に抱いた夢を叶えられるような企業へと成長させていかなければならないと思っています。
──どのような企業を目指していきますか。
讃井 子どもたちが将来なりたい職業のランキングに、博多織のメーカーとして名前があがるような企業を目指していきます。そのためにもまずは業界内で唯一無二の存在になれるように、さらに差別化を図っていきます。進行中の計画も複数あり、これが結実すれば博多織に対するブランドイメージをより高めることができます。来年以降順次表に出てくるでしょうから、その時を楽しみに待っていただければと思います。
【文・構成:代 源太朗】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:讃井 勝彦
所在地:福岡市西区小戸3-51-22
設 立:1969年2月
資本金:1,000万円
<プロフィール>
讃井 勝彦(さぬい・かつひこ)
1976年6月生まれ。西南学院大学卒。(株)サヌイ織物の3代目当主として企業経営に努めるかたわら、博多織の魅力を伝えるための広報活動にも尽力。「革新なくして伝統なし」を座右の銘に掲げ、博多織を使用した多彩な製品を製造・販売している。福岡商工会議所・部会長会会長、議員懇話会会長、福岡商工連盟幹事長を務める。
▼オンラインショップ
博多織のサヌイ織物 オンラインショップ法人名
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