「資本主義の断末魔」 国民の利益を追求する政権の樹立を(中)
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政治経済学者 植草 一秀 氏
日本に経済大国の表現はもはや似つかわしくない。「経済停滞大国」と言い換えるべきだろう。2012年に第2次安倍内閣が発足したとき、「成長戦略」が掲げられた。22年5月に英国を訪問した岸田首相は、講演で「日本経済はこれからも力強く成長を続ける」と述べた。しかし、日本経済が力強く成長した事実は過去30年に存在しない。為政者のこうした虚偽発言が日本に対する信用を低下させ続けてきたといえる。失われた30年によって国民経済は疲弊し続けた。そこに追い打ちをかけた23年のインフレ。実質賃金減少は加速した。ところが、物価安定を使命とする日本銀行がインフレ亢進下でのインフレ推進施策を継続。日本円は暴落し、日本は外国資本による乗っ取り危機に直面している。この危機を打開する方策を検討しなければならない。
断末魔のビジネスモデル
資本主義の根本原理は市場原理の不可侵性と私有財産制の神格化にある。2001年発足の小泉純一郎政権が市場原理に経済運営を委ねる新自由主義経済政策路線を日本に埋め込んだ。製造業での派遣労働解禁に象徴される弱肉強食奨励政策を推進したのだ。
結果における格差是正を重視するリベラリズム経済政策の根幹をなすのは所得再分配政策である。経済力の大きい経済主体の負担ですべての国民に保障する最低水準を引き上げる。前提に置かれるのは応能負担であり、財産権の一部制限である。
市場原理にすべてを委ね、結果における優勝劣敗を容認するリバタリアニズム(超自由主義)は財産権を侵害する所得再分配を否定する。自然界の弱肉強食を肯定し、人間社会においても結果における優勝劣敗は必然のものであると考え、それを人為的に補正することを嫌う。
しかしながら、自由主義を突き詰める延長線上に生じるのは際限のない格差拡大である。一握りの支配者が富と所得を独占し、大多数の無産労働者が生存ラインの境界線上で死線をさまようことになる。
新技術が次々に生み出されて生産性が上昇し続ける状況下では矛盾が深刻化しないが、世界経済の成長が限界に到達すれば資本の自己増殖メカニズムは壁にぶち当たる。このなかで飽くなき利潤拡大を追求する資本主義が断末魔の叫びを上げる。
年初に『資本主義の断末魔』(ビジネス社)を上梓した。成長の限界に直面する巨大資本が利潤を確保するために5つの新しいビジネスモデルを創出していることを指摘した。1.逆所得再分配、2.公的事業領域の簒奪、3.公衆衛生(パンデミック)ビジネス、4.世界特殊詐欺(フェイク)ビジネス、5.戦争である。
日本においても、巨大資本が追求する利潤拡大運動の一環としての5つのビジネスモデル構築が推進されている。圧倒的多数の一般市民は下流に押し流され、一握りの超富裕層が政策運営上、優遇され、増殖している現実を観察することができる。
岸田文雄傀儡政権
岸田首相は21年9月の自民党総裁選に際して「新しい資本主義」なる言葉を掲げ、分配の見直しが必要だと述べた。具体的には金持ち優遇となっている金融所得課税の見直しを提示した。
ところが、株価下落の兆候が観測されると直ちに提案は取り下げられた。「新しい資本主義」と言いながら、資本主義を改変する新しい提案を貫く意志さえ存在しないことが確認された。資本主義に古いも新しいもない。資本はただひたすら自己増殖のための利潤追求に突き進む。その結果として社会は一握りの支配層と圧倒的多数の隷属労働者階層に二分されることになる。
逆所得再分配の象徴が消費税中心主義だ。消費税ほど逆進性の強い税制は存在しない。1989年から2023年までに消費税で約510兆円の資金が吸い上げられた。同じ期間に法人税負担、個人税負担はそれぞれ320兆円、290兆円軽減された。庶民に重税を覆い被せて、その税収を大法人と富裕層の減税に充当した。
小泉新自由主義路線が掲げた民営化政策は確実に儲かる公的事業分野を巨大資本が簒奪するためのもの。コロナがもたらしたマネーフローはパンデミックビジネス事業者による巨大な財政資金収奪のビジネスモデルだった。
SDGsの名の下に、やはり巨大な財政資金がCO2削減などの名目で収奪されている。地道にビジネスを構築するよりも巨大な仕掛けによって財政資金を収奪する方が、はるかに効率がよい。筆者はこれを国際特殊詐欺ビジネスモデルと名付けた。
究極のビジネスモデルが戦争である。現代の戦争は必然によって生じていない。成長の限界に直面する巨大資本の経済的事情という「必要」によって戦争が創作されている。ウクライナの戦争も米国軍産複合体が人為的に創作したビジネスとしての戦争である。
岸田首相は米国および米国を支配する巨大資本の指令通りに動いている。結果として日本における二極分化、格差拡大は際限なく進行し続けている。同時に福島原発の収束もできぬまま、原発稼働全面推進の方針が定められ、有害無益の軍事費倍増が強硬に推進されている。
(つづく)
<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。関連キーワード
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