2024年の世界情勢の展望 日本が経済危機の悪夢から逃れるためには(前)
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京都大学大学院教授 藤井 聡 氏
2024年、米国とロシア、台湾などで実施される選挙、ウクライナ戦争、各国の金利政策などの行方は世界情勢、とくに経済に大きな影響をおよぼす。そのなかで懸念されるのがリーマン・ショックの再来であり、もし生じれば日本経済は凄まじい打撃を受ける。日本経済を守るためには、きたる選挙において候補者の財政政策を見極めることが望ましい。
米台などの選挙結果が歴史を動かす
2024年は史上空前の選挙イヤーとなる。アメリカ大統領選挙、ロシア大統領選挙、台湾総統選挙をはじめとした世界の70カ国において国政選挙が予定されている。それらの選挙にかかわる国民総数は実に40億人以上。我が国においても、日本の命運を分ける総裁選挙が行われるが、今日の世界情勢に決定的な影響をおよぼしているウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争の行く末は、ロシアやアメリカでの大統領選挙結果に大きく依存していることが見込まれている。
ウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争において好戦的態度を鮮明にしているバイデン大統領は今、国民からの支持を大きく失い始めており、支持率においてその対抗馬であるトランプ氏の後塵を拝する状況に至っている。もしもトランプ氏が大統領選挙で勝利することになれば「戦争嫌い」なトランプ氏は間違いなく、ウクライナ戦争の支援から撤退することになる。イスラエル・ガザ戦争においてもトランプ氏は、親イスラエルの立場を取ってはいるものの徹底抗戦よりもむしろ「和平」を志向した外交を展開する可能性が高い。しかし、バイデン陣営は(司法当局を巻き込んだ)さまざまな工作によってトランプ氏の失脚を謀っているとみられており、そうした工作が功を奏すれば、やはりバイデン氏が勝利することになる。そうなれば、ウクライナでもパレスチナでも、その戦火はますます拡大していくことこそあれ、収束の道は見通せなくなる。
台湾総統選でも、反中派と親中派との戦いの構図が見られるが、反中派候補の勝利により、台湾海峡における軍事的緊張は増すことになる一方、親中派候補が勝利していれば、中国による台湾取り込み工作がより加速していくことも危惧された。
欧州においてもさまざまな国で国政選挙が予定されているが、そうした選挙結果は対ロシア、対中国、対イスラエルの外交姿勢に影響を与え、ウクライナ、パレスチナ、台湾のそれぞれの紛争ならびに紛争リスクの展開に大なり小なりの影響をおよぼすことになる。
従って24年は、各国の選挙の動向が予測不能であるがゆえに、世界情勢がどのように展開するかもまた予測不能となる年となっているのである。とはいえもちろん、あらゆる紛争とそのリスクが消えてなくなるという事態は、どのような選挙結果であろうとも至らぬであろうことだけは間違いない。
ますます混迷を深める24年の世界経済
そうである以上、やはり問題となるのが「世界経済」の動向である。
ウクライナ戦争が長期化すれば、天然ガスや小麦などの供給の低迷が長引き、資源、エネルギー、食料価格の高騰が長期化することになる。そこにイスラエル・ガザ戦争の拡大が重なれば、70年代のオイルショックに準ずるような石油供給量の低迷が起こり、石油価格が高騰することになる。これがまた、昨年激しく進行した世界的インフレを導くことになる。仮にそうならなかったとしても、すでに欧米各国の金利は、これまで十分に進行してしまっているインフレに対する対策ということで極めて高い水準にまで引き上げられている。
こうした各国の金利高騰が今、各国国民の世帯、法人それぞれの「投資の低迷」を加速させている。しかも、金利高騰によってさまざまなマーケットにおける「金利払い」が肥大化し、皮肉にも、さらなる「インフレ」が誘発されるケースも散見されるに至っている。そうした事態は無論、金利引き上げによるインフレ抑止効果を相殺する効果をもつ。従って、今の世界的インフレは、各国がどれだけ金利を上げようがなかなか収束するようにはならないのである。結果、各国の中央銀行は金利引き下げがなかなかできなくなっているのである。
ただし、これだけ金利が高い状況が進めば、それによって「投資の低迷」が継続・拡大することは間違いない。資源・エネルギー高、食料高によってインフレが進み、かつ、その価格高騰を産み出している戦争状態が継続している以上、インフレは簡単には収まらないわけだが、そのために断行された金利高騰によって「投資の低迷」が継続・拡大してしまっているのである。
つまり、欧米各国がインフレ対策と称して慌てて進めた金上げは、インフレ抑止効果はほぼないにもかかわらず投資低迷だけを確実にもたらし、各国経済を「芯」から冷え込ませるという恐るべきダメージを各国にもたらしているのだ。そして、各国経済の「芯」からの冷え込みは、各国経済に「デフレ圧力」を内側から産み出す。それはもちろん、最終的には各国物価を目に見えて下落させていくこととなる。そしてその冷え込みが十分に進行すれば、戦争状況がもたらしたインフレ圧力を凌駕し、各国のインフレ率はトータルとして下落していくことになる。
これを目にした各国の中央銀行は、「今が金利の引き下げ時である」とようやく判断することとなろう。しかし、時すでに遅し。長期間、インフレ対策にほとんど何の役にも立たない金利引き上げ対策を継続したことでもたらされた各国経済の「芯」の冷え込みは、世界経済自体の厳しい冷え込みをもたらすこととなる。
その結果、金利高騰で膨らみきった金融市場における急速な信用収縮、すなわち、「バブル崩壊」がどこかで生じてしまうリスクが一気に拡大する。それがアメリカで起こった場合、その被害は世界的に深刻な規模に達することは必至だ。いわば、20世紀初頭の大恐慌や21世紀初頭のリーマン・ショックの再来が24年に起こるかもしれないわけだ。
(つづく)
<プロフィール>
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年奈良県生駒市生まれ。91年京都大学工学部土木工学科卒業、93年同大学院工学研究科修士課程修了、同工学部助手。98年同博士号(工学)取得。2000年同大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年同大学教授を経て、09年から京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授。11年同大学レジリエンス研究ユニット長、12年同大学理事補。同年内閣官房参与(18年まで)。18年から『表現者クライテリオン』編集長。著書多数、近著に『安い国ニッポンの悲惨すぎる未来―ヒト・モノ・カネの全てが消える――』(経営科学出版)。関連キーワード
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