2024年12月22日( 日 )

市場縮減のなか岐路に立つ工業化住宅とハウスメーカー

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住宅市場縮減が本格化

 住宅産業において、市場の縮小傾向が本格化の様相を見せている。コロナ禍による「巣ごもり需要」による特需が終わりを迎え、部資材価格や人件費の上昇による住宅価格の高騰、物価高、さらには金利の先高感などが住宅取得者のマインドを下げ、縮小傾向にさらに拍車をかけているからだ。

 国土交通省によると、2023年度の新設住宅着工戸数は前年度比7.0%減の80万176戸。内訳は持家(注文住宅)が同11.5%減の21万9,622戸、貸家(賃貸住宅)が同2.0%減の34万395戸、分譲住宅が同9.4%減の23万5,041戸(うちマンションは同12.0%減の10万241戸、一戸建は同7.4%減の13万3,615戸)だった。

 なお、(株)野村総合研究所は、30年度に新設住宅着工が70万戸(内訳は持家25万戸、貸家28万戸、マンションと一戸建を合計した分譲住宅17万戸)になるとしたうえで、さらに「2040年度に新設住宅着工が49万戸にまで減少する」とも予測している。

 住宅業界ではそうした状況を受け、生き残りを模索する動きが急になっており、それは大手ハウスメーカーにおいても例外ではない。たとえば、その直近の事例が旭化成ホームズ(株)による木造住宅の販売開始だ。

木造住宅市場に再参入

 鉄骨系住宅「ヘーベルハウス」でおなじみの同社は10日、木造低層戸建住宅「Asu-haus(アスハウス)」を発売すると発表。販売エリアは東京都城南・城西地区、都下の一部で、断熱等級で最高等級7(Ua値0.26W/m2・K 以下)を標準とすることなどが特徴である。

 プロトタイプの坪単価は「135万円より」とされており、実際に供給される住宅はヘーベルハウスより高額になるものと見られる。

 同社は1995~2000年の間、「スクラムハウス」のブランド名で木造住宅を販売していたが、他の木造ハウスメーカーや地場ビルダーとの明確な差別化が叶わず撤退。そのため、今回は木造住宅市場に再参入するかたちとなるが、それはなぜか。

 戸建住宅事業で苦戦を強いられているからだ。同社の24年3月期業績は、全体では売上高が前期比6.2%増の9,129億円を記録したが、建築請負部門の売上高は同2.4%減の4,010億円にとどまった。なかでも戸建系は同13.3%減の2,303億円で、引渡戸数は同18.6%減の5,972戸となっていた。

 受注高は同5.2%増の2,365億円、受注戸数も同0.5%増の5,234戸と回復傾向にはあるが、それは前年の反動増だろう。そこで、木造住宅により戸建住宅の業績を積み増すことを目論んだと見て取れるのだ。

相次ぐ木造強化の動き

 旭化成ホームズ以外の鉄骨系住宅を主力とするプレハブメーカーも近年、木造への傾注度合いを高める動きが見られる。

 大和ハウス工業(株)では昨年11月、戸建住宅事業において木造住宅を7割にまで高める方針を打ち出している。具体的には、注文住宅(請負)で木造の規格住宅とセミオーダー住宅、分譲住宅でも木造化を推進し、木造住宅について年間販売棟数1万棟目指すとしている。

 積水ハウス(株)は、自社で木造住宅シリーズ「シャーウッド」を供給するのに加え、その構造躯体を地域ビルダーに供給する共同建築事業「SI事業」を23年9月からスタート。これにより木造住宅供給の拡大につなげようとしている。ちなみに、この2社も24年期に国内の戸建事業では苦戦を強いられた。

 さて、ではなぜ今、木造なのか。

 旭化成ホームズは「アスハウス」の発売にあたり、「木造建築が脱炭素社会の実現に資する重要な環境貢献事業である」との認識から検討を重ね、木造住宅市場への再参入したことを明らかにしている。言葉を換えれば、従来の鉄骨系住宅は脱炭素社会の実現へ将来的には不利になることを見越しているのだ。

 というのも、自然素材、循環型素材である木材に比べ鉄はCO2排出量が多い。これらのことが、環境問題がより深刻化する将来、持続的な企業運営のためのネックになりかねないと判断しているのだ。

 もっとも上記3社を含め、今でも主力はあくまで鉄骨系住宅。祖業で強みがあることから、早急な木造住宅への転換はないだろう。ただ、彼らが木造住宅供給に注力を始めたのは、将来的な木造住宅へのシフトを見越し、今のうちにその足がかりをつくっておきたいとの思惑があるはずだ。

プレカットの台頭で価格競争力を失う

 ところで、上記3社をはじめとする鉄骨系ハウスメーカーは工業化(プレハブ)住宅を供給する企業である。住宅供給の開始は1950年代から70年代までの間と異なるが、大規模な工場で構造材などの部材を生産し、現場で組み立てるという生産システムを導入しているという共通点がある。

 工務店などの地域ビルダーも90年代以降、プレカット材(工場であらかじめ設計図通りに加工された木材)を用いることで、工業化住宅に類似した省施工化(合理化)、そしてコストダウンなどのメリットを享受できるようになった。

 なかでも、地域ビルダーはプレカット材を外部から調達する。このため、供給量が減少するなか、彼らはそれに合わせた迅速な対応が可能だ。一方で、工業化ハウスメーカーはそうはいかない。

 自社で大規模な生産工場を有しているから、供給量の減少による工場稼働率の低下は経営上の大きな足かせになる。そうなると、1棟当たりの単価を上げざるを得ず、価格競争力に劣るようになった。

 ちなみに、上記3社の木造住宅も、それぞれ接合方法などの独自技術があるもののすべてプレカット材が採用されている。このことはプレカット技術が既存の工業化住宅技術の延長で、それを凌駕しようとしているようにも感じられる。

 技術の進化により木造の耐震や耐久、耐火などの性能が進化するなか、木と鉄を素材による差別化することは難しくなっている。それに加えて市場の縮小という局面のなか、工業化住宅の立ち位置が揺らぎ始めている。

 加えて今、3Dプリンタを駆使した住宅など究極の工業化住宅技術の開発、普及も始まろうとしている。そのなかで、既存の工業化住宅メーカーはどのような事業の展開をしていくのか、大変注目される。

【田中直輝】

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