福岡城天守は「実在した」 懇談会で示された根拠と復元イメージ(後)
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福岡商工会議所は昨年10月、「福岡・博多の歴史文化を活かしたまちづくりに関する15の提言」を発表した。そのなかで、豊かな歴史と文化を持つ福岡のランドマークとして、福岡城天守の復元を提言している。現在、同商工会議所が事務局を務める「福岡城天守の復元的整備を考える懇談会」が議論を引き継ぎ、3月と4月に開催された第1・2回会合では、福岡城天守の実在の根拠と、天守の復元イメージが示された。その内容を紹介する。
天守の姿を推定
では、天守の建ち姿はどのようにして推定されるのか。天守を含めた城の規模は、大名の石高を反映するため、黒田藩52万石と同規模の大名が同時期につくった天守が参考になる。姫路城の天守は、52万石の大名・池田輝政によって建設された。建設年代も1609(慶長14)年で福岡城(1607/慶長12年)と近い。また、天守の規模も、姫路城天守の1階部分は東西約13間・南北約10間で、福岡城の天守台と近い。このようなことから福岡城天守の建ち姿を検討するのに姫路城が参考となる。
具体的に天守の高さから検討してみる。当時の天守は、石垣の上端から最上階の軒までの高さと、桁行の長さを等しくするのが習わしであった。姫路城は、桁行13間(26.47m)、石垣上端から最上階軒までの高さは86.42尺(26.18m)でわずかに低いがほぼ等しい。福岡城天守の桁行は12間(78尺)なので、佐藤氏は、石垣上端から最上階軒までの高さを78尺(23.63m)よりやや低いものと考える。
次に屋根と階数が問題となる。屋根が重なっている数と、建物内部の階数は必ずしも一致しない。たとえば、姫路城は屋根が5つ重なっているが、下から3重目と4重目の屋根の間に4階と5階があり、内部構造は6階建て地下1階なので、5重6階地下1階となる。佐藤氏は、福岡城天守も5重6階地下1階であったと推定する。
福岡城は黒天守か
天守の外観を決めるうえで重要なのは外壁だ。天守には、姫路城や名古屋城に代表される「白い天守」と、熊本城や松本城に代表される「黒い天守」がある。白い天守は白漆喰総塗籠で外壁全面を仕上げたもので、黒い天守は、漆喰で仕上げた外壁の下部あるいは全面を、柿渋や黒漆を塗った「下見板張(したみいたばり)」で保護する仕上げ方だ。
外観については、残された遺構が参考になる。幕末の嘉永年間に建て直されて現存する南丸多聞櫓は、白漆喰壁に腰下見板張りとなっている。また、黒天守は織豊時代に多く、白天守は姫路城以降に多いと考えられることから、福岡城の天守は黒天守であったと佐藤氏は推定する。
来館者の導線確保と遺構保全
大天守の東側には、大天守と連結していたと思われる中天守と小天守の石垣が残されている。佐藤氏は、大中小の3天守を合わせた復元を提案する。大天守の出入口は、連結した中天守と大天守地下の2カ所であった。そこで天守の復元に際しては、来館者の導線について、小天守側から観覧を始めて、中天守を通って大天守の1階へ入り、大天守の最上階まで登って、それから地下に降りて天守の外に出るという導線を提案する。これによって導線を一方通行にし、来館者のスムーズな流れが確保できる。
また、天守を復元する場合、歴史的に貴重な遺構である天守台の石垣や礎石の保全も重要となる。佐藤氏は、石垣の内側に地中梁を用いた人工地盤をつくり、そのうえに天守を建築する方法で遺構を保全し、現代的な技術を最大限に活用しての天守の復元を提案する。
『復元』と『復元的整備』
天守復元に向けたハードルとして、国の基準を念頭に置く必要がある。福岡城は1957年に国史跡に指定されたため、整備を行うには国(文化庁)の許可が必要だ。国が定める『復元』の基準は大変厳しく、歴史的建造物の設計図・絵画・写真・模型・記録などを基にして、実際に存在していた当時の規模・構造・形式などを忠実に再現することが要件となっている。福岡城の天守は天守台と礎石以外に史料がないため、文化庁が定める厳密な『復元』は実現できない。
現在、福岡市が進めている福岡城整備事業の基本計画は2014年に策定されたが、そのなかでは、天守の復元は極めて困難として整備事業の対象から除外された。文化庁の復元基準を満たさないためだ。
ところが2020年4月、文化庁は史跡等の利活用を促すため、新たに『復元的整備』という基準を設けた。この基準は、今は失われて存在しない歴史的建造物について、どのような建物であったかを示す十分な根拠がない場合であっても、さまざまな資料を多角的に検証して再現することを認めるというものだ。福岡城の天守が実在していたとなれば、この『復元的整備』の枠組みで、天守の復元に向けた検討が可能となる。
今後の議論に期待
天守復元に向けた議論について、福岡商工会議所が事務局を務める「福岡城天守の復元的整備を考える懇談会」は、月1回程度の委員による会合のほか、シンポジウムや市民公開討論の開催も検討している。そして、市民アンケートも実施するなどして、調査結果を踏まえて論点を整理し、秋ごろには福岡市長宛ての報告書としてまとめることを予定している。
この議論をきっかけに、福岡市民のみならず広く、福岡の歴史についての関心がさらに高まるとともに、そのなかで、近世城下町・福岡の中心にある福岡城天守の復元に向けた動きが活発化することが期待される。
<参考書籍>
佐藤正彦『甦れ!幻の福岡城天守閣』河出書房新社 (2001)(了)
【寺村朋輝】
【クローズアップ】城下町・福岡における天守再建の意義 ~再建から始まる新しいお城の歴史~
情報誌『I・B』2940号掲載。
福岡商工会議所は、豊かな歴史と文化をもつ福岡市のランドマークとして、福岡城天守の復元を提言している。なぜランドマークとして福岡城の天守は相応しいのか。近世城下町として始まった福岡の性質と、他の都市で行われた天守再建の事例に触れて、その意義を考える。下記のリンクからご覧ください。
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