2024年07月05日( 金 )

佐賀が推進する事業用建築物の木造化(前)

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さがの木の建築推進協議会

積み出しの様子(太良町森林組合)
積み出しの様子(太良町森林組合)

 非住宅・中大規模建築物(事業用建築物)の木造化を推進する機運が高まっているものの、九州だけ見ても自治体ではそれぞれに異なる状況、課題を抱えており、そのため対応の在り方は一様ではあり得ない。そんななか、佐賀県では県の地域特性に合わせた推進策を展開し、それを通じて林業再生や木材活用の推進を図ろうとする動きがある。その中心的役割を担うことが期待される「さがの木の建築推進協議会」の取り組みについて、関係者に取材した。

林道整備率と人工林率は日本一

 森林は、水を蓄え水害を防ぐ水源の涵養(かんよう)や、土砂災害の発生防止、二酸化炭素を吸収することによる地球環境の保全、生物多様性の保全などの機能を有し、さらには人々の健康や快適な暮らしにも影響を与えている。そのため、伐採や植林などを適正に行うことが重要とされる。しかし、戦中戦後に燃料や住宅資材として木材が大量に使用され、その後はスギ・ヒノキなどを中心に植林が行われたが、木材価格の下落や林産業の人手不足を背景に管理が行き届かなくなり、全国的な問題となってきた。もちろん佐賀県も例外ではない。ここで佐賀県の森林の状況を確認しておきたい。

 同県の森林面積は全国で42番目にあたる約11万haで、森林率()は45%と全国平均の67%を下回る。森林率そのものは高くないが、その一方で民有林に占める人工林の割合(人工林率)は67%で全国一。しかも、その8割が伐採時期を迎え、加えて林道整備率(林内路網密度)が全国一であることから、木材を伐採しやすい環境にあるのだ。

※県の面積に占める森林面積の比率 ^

 ただ、県内の森林の成長量は年間約60万m3と推計され、伐採されているのはそのうちの約15万m3にとどまっているという。いずれにせよ森林率が45%であることは森林資源が豊富であることを表すものではないが、逆にいえばほかの都道府県に比べて森林資源の貴重さがより高いことを表している。そのため2008年に佐賀県森林環境税を導入し、それを財源に荒廃森林の整備に取り組んできた。また、22年から林業の担い手不足へ対応するため、「さが林業アカデミー」という人材確保・育成の取り組みも進めている。

伊万里市には木材コンビナートも

伊万里市の木材市場
伊万里市の木材市場

 実は、佐賀県は林業の再生や木材活用の促進を進めるうえで、有利な条件を有している。具体的には伊万里市に木材コンビナート(港)があり、九州はもちろん、外国産の加工材の集積、積み出しが行われている。さらに県内に中小約60もの製材工場に加え、唐津市には大規模なプレカット工場が立地していること。そして何より、木材の消費地である福岡県との距離が近いという地理的メリットももつ。

 宮崎県や鹿児島県など50万haを超える森林面積をもち、さらに大規模な木材加工工場を有する県もあるが、県内に木材加工・流通に関するインフラが整っているという条件は、九州を見回してもあまりないのが実状だ。たとえば、隣県の福岡県には大規模な製材工場が存在しないことを考慮すれば、林産業の育成には恵まれた状況にあるといえそうである。

県内の製材所で加工される原木
県内の製材所で加工される原木

    さて、こうした背景を持つ佐賀県では、これまで県内の住宅関連業界や森林・木材業界、建築設計業界、各地域自治体が参画する「佐賀の木・家・まちづくり協議会」(06年設立)などと連携しながら、林業再生や木材活用の推進に関わるさまざまな活動を展開してきた。しかし、環境意識の高まりやSDGsの浸透などを背景に状況が変化。国は10年に「公共建築物等木材利用促進法」、21年に同法を改正し、民間の事業用建築物の木造化を促す「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(木促法)」を施行した。

中大規模木造建築物の
普及促進へ新組織

 それらの動きが追い風となり22年7月に設立されたのが、佐賀県が事務局を担当する「さがの木の建築推進協議会」(以下、協議会)である。19~21年にわたり開催された「佐賀県中大規模木造建築セミナー」を受講した建築士、木材流通・加工事業者、それをバックアップする森林組合や木材協会などの団体からなる組織で、具体的には今年4月1日現在で18人の建築士と、林業・木材製材流通事業に関わる14人の合計32人、3団体会員で構成されている。なお、団体会員の松尾建設(株)は九州におけるCLT(Cross Laminated Timber)による建設の第一人者的な位置づけだ。また、(株)伊万里木材市場、中国木材(株)伊万里事業所など、有力な木材加工・流通事業者も参画する。

清水会長(左)と川﨑副会長
清水会長(左)と川﨑副会長

    協議会が普及を目指す中大規模建築物とは、住宅以外の事業用建築物を指し、公共施設を中心に保育や介護施設などさまざまな用途の建築物が、佐賀県も含め全国ですでに建てられている。とくに近年は、首都圏などの都市部において中層ビルなどの事例も見られるようになってきた。協議会はそうした建物の木造化・木質化の相談窓口、民間の事業主へのアプローチ、会員のスキルアップの向上などの役割を担う。そして、中大規模建築物を木造化するメリットについて、(1)脱炭素社会への貢献、(2)地産地消、(3)ほかの構造に比べての経済性、(4)耐久性、(5)快適性、(6)耐震性、(7)防火性、(8)デザイン性の8つを挙げている。

(つづく)

【田中直輝】


<INFORMATION>
会 長:清水耕一郎
所在地:佐賀市城内1-1-59(事務局:佐賀県林業課)
TEL:0952-25-7133

(後)

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