2024年11月05日( 火 )

傲慢経営者列伝(4):三菱グループ「御三家」の面々(4)

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 「真打ち」とは、寄席で最後に演じる座の主となるものをいう。三菱グループの「御三家」(三菱重工業、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱商事)は、長年筆頭の座にあった三菱重工が相次ぐ不祥事で指導力を失ったため、グループの金庫番である三菱UFJが真打ちに昇進した。「不祥事のショッピングセンター」と化した三菱グループの法令軽視の問題では、「真打ち」の出番となった。

MUFG、顧客情報共有で
21人に報酬減額

イメージ    7月20日、報道各社は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の銀行と証券2社が顧客企業の情報を違法に共有した問題を受け、亀澤宏規社長ら経営陣21人を処分したと大々的に報じた。

 国内最大の金融グループに「ノー」を突き付けたのは金融庁。金融庁は、三菱UFJ銀行と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券の3社が2021~23年、非公開情報を顧客企業の意に反して共有していたとして6月24日に業務改善命令を出していた。

 問題となったのは、グループ内の銀行と証券会社によるルールを軽視した「連携」だ。銀行と証券会社は、顧客情報の共有が法律で厳しく規制されている。しかし、MUFGでは顧客の同意なしに銀行と証券会社の間で非公開情報を共有していた。

 発覚を免れるために、痕跡が残りにくい電話でやりとりしたり、情報共有の事実を社内システムに登録しなかったりしていた事例もあった。違法だとわかっていて顧客情報をやりとりしていたわけだ。

三毛兼承会長が
最も重い処分となったワケ

 経営陣の処分では、三菱UFJ銀の半沢淳一頭取と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小林真社長、親会社のMUFGの亀澤社長に対し、月額報酬の30%を3カ月減額する減給処分にした。

 目を引いたのは、MUFGの三毛兼承会長については、最も重い月額報酬の30%を5カ月減額としたことである。当時の三菱UFJ銀頭取で、不適切な情報共有の可能性を認識しながら対策を講じなかった責任を考慮したと説明している。

 注目は三毛会長の責任だ。朝日新聞(7月20日付朝刊)はこう報じた。

 〈同じ金融グループの銀行と証券会社の間で情報共有を制限する「ファイアウォール(FW)規制」について、銀行界を代表して、MUFGは緩和派の急先鋒だった。
 (中略)当時、MUFGの三毛兼承会長は、全国銀行協会の会長として「我が国の金融・資本市場の発展に向けて銀行界として意見を発信したいなどと規制緩和に取り組む姿勢を強調していた〉

金融庁は三毛会長をターゲットに

 金融庁の狙いはどこにあるか。前出の朝日新聞は、こう報じている。

 〈証券取引等監視委員会などによると、三菱UFJ銀行頭取だった三毛氏は証券との間で不適切な情報共有があった可能性を認識していたが。報告を「誤認」しとくに対応を指示しなかった〉

 なるほどそういうことかと、合点がいった。金融庁は三毛会長をターゲットにしている。MUFGの情報違法共有問題は、経営陣の給与減額という穏便な処分で幕引きを図ることを許さない。三毛会長の首を差し出せということだ。

 三毛会長は、グループのトップであるにもかかわらず、7月19日の21人の報酬減額処分の発表には姿を見せなかった。報道陣から「経営責任を取って辞任するか」と質問を浴びせられることを恐れたからだろう。

三菱UFJ銀行員、親族らに
インサイダー情報を漏洩

 「上乱れれば、下これに習う」という言葉がある。

 読売新聞(7月9日付朝刊)は、三菱UFJ銀行の行員が、顧客企業の株式公開買い付け(TOB)などに関する未公表の情報を、親族らに漏らしていた疑いがあると報じた。親族らは顧客企業に関する株取引を行い、数百万円の利益を得ていた。

 証券取引等監視委員会は、金融商品取引法違反の疑いで行員の自宅を5月頃強制捜査した。行員は監視委に対して不正への関与を否定しているという。今回とは別の行員が顧客情報を使って自己利益目的の株取引を行っていたことが分かり、この行員は懲戒解雇されたと報じた。

 三菱UFJの不正は、底なし沼の様相を呈しているが、ルール軽視の企業風土があったとしか思えない。MUFGはグループとしてガバナンス(企業統治)の立て直しが求められることになった。

株主総会での賛成率は、
三毛会長67%、亀澤社長64%

 今後の焦点は、三毛兼承会長と亀澤宏規社長の進退だ。ツートップに「ノー」を突き付けたのは金融庁だけではない。

 MUFGは6月27日、定時株主総会を開いた。総会直前の同24日、傘下の銀行や証券が金融商品取引法違反によって金融庁から行政処分を受けた。法令違反の責任を株主がどう問うかが注目された。ただ、行政処分が下る前にあらかじめ議決権を行使した機関投資家も多く、コンプライアンスの不備はさほど影響はないという見方もあった。

 だが、蓋を開けてみると、両トップへの取締役再任の賛成率は厳しいものだった。三毛会長の賛成率は67.17%。前年より13.74ポイント下落。亀澤社長の賛成率は64.58%で、前年より11.36ポイント低下した。

 両トップにとって、金融庁と株主の挟撃に遭った。まさに「前門の虎、後門の狼」の状態。巨大企業集団、三菱グループの「真打ち」に昇格したMUFGの黄昏を見せつけた。

(了)

【森村和男】

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