【鉄腕企業シリーズ(1)】都市福岡の発展とともに躍進 先駆的にそして謙虚に建設業界を牽引する
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照栄建設(株)
国際都市としての福岡の本格的な飛躍は、2010年を頂点として本格化された。と同時に建設業界にも画期的な変革がなされた。とくに照栄建設(福岡市南区)、上村建設(博多区)、北洋建設(博多区)の3社が飛びぬけている。建設業界ではこの3社を鉄腕企業として認定する。その鉄腕企業を代表してまず1番目に照栄建設をレポートする。
2010年からの変貌 本格的な国際都市・福岡
「アジアの玄関口・福岡」と叫ばれ出したのが平成初頭(1990年前後)である。桑原敬一市長時代だった。ただしこの時期はまだイメージが先行する程度であった。続いて山崎広太郎市長時代はインフラ投資の急増で緊縮財政の舵取りに切り替えた。ただ財政先行投資と巧妙に都市福岡の国際発展が嚙み合ってきたのが2010年以降である。
一番、運力に恵まれていたのが高島宗一郎市長である。高島市長が2010年11月に初当選をはたして以降、この14年間の都市福岡の躍進は目覚ましい。知らないうちに福岡市の借金財政は健全化方向に向かった。と同時に福岡の企業にもケタ違いの規模で躍進した企業が現れてきた。それを鉄腕企業と呼ぼう。
鉄腕企業とは
もともと、地元福岡のトップ企業群は「七社会」と呼ばれてきた。銀行は統合されて1行減った。銀行を除くトップ企業群は九州電力、西日本鉄道、西部ガス、九電工、04年にJR九州が加わって5社となる。それに福岡地所、麻生の2社を新参として認定してもよいであろう。さらに流通では1兆円企業に挑戦する企業が3社ある。ヤマエ久野、コスモス薬品、トライアルカンパニーと続く。
さらに後から追っかけてくる企業も続出している。都市福岡の国際的な要素を導入しながらいろいろな業種で大躍進する企業が後を絶たない。たとえば「ハカタラーメン」ブランドは国際ブランドとして通用する。力の源ホールディングスは世界中へ出店した。一蘭はインバウンド客の到来で海外に名前を轟かせてケタ違いの財を成した。ラーメン業界においてはこの2社を鉄腕企業と判定したい。
流れをつかむ
本稿で紹介する照栄建設(株)の社長・冨永一幹氏は、17年7月に3代目社長に就任し7年を迎える。この7年間を振り返って「やはり時の利という後押しがなければ画期的な業績を得ることは不可能だ」といたって謙虚である。この謙虚経営手法は後に譲るとして、まず24年5月期に売上高200億円に王手をかけるところまで到達した業績分析から始めよう。
自己資本比率70%へ
参考資料として24年5月期の貸借対照表・損益計算書と過去20期の売上・利益の推移を添付する。24年5月期は売上高179億4,786万円、純利益8億4,346万円を叩き出している。売上高は過去最高、当期利益も過去最高だった22年5月期の8億4,354万円とほぼ等しく、総じて過去最高の決算といえる。完工高150億3,836万円、兼業事業売上高29億950万円の売上構成である。巧妙な売上(戦略的事業)を駆使して高収益を上げている。なんと自己資本比率を約70%まで跳ね上げさせたのである。
20年前の05年5月期は純資産18億6,649万円でこの当時の自己資本比率は25.7%であった。そして24年5月期には純資産額は96億4,209万円となり自己資本比率70%に迫ったのである(参考までに、スーパゼネコンの24年3月期連結の自己資本比率は、鹿島建設(株)38.6%、清水建設(株)35.0%、(株)大林組38.17%)。
冨永社長に自己資本比率を高める要諦を尋ねた。「それはわかり切ったことである。取締役が膨大な報酬を取らないことに専念することだ」と当然の如く言い切った。「それはごもっともなことです」とこちらとしては首を垂れるしか術はない。同社には「経営の目的は企業を存続させること」という使命感が脈々と流れているのだ。16年5月期から無借金を堅持
24年5月期に至るまでの20期の各指標を検証してみよう。まず売上高の推移からチェックする。05年5月期の売上高90億5,748万円が、24年5月期は売上高179億4,786万円で約2倍となっている。当期純利益は05年5月期では8,524万円だったのが、24年5月期は8億4,346万円で9.9倍となる。ここまで利益額を増やし自己資本比率が高まれば自ずと無借金になるのは必然だ。
この無借金状態になったのは16年5月期である。前期まで3億円の借入があったのだが、返済完了した。16年5月期以降、借り入れはない。そこで改めて同社の財務の凄味を付け加えよう。24年5月期において流動資産項目で商品土地20億1,275万円、販売用建物4億9,257万円、合計25億532万円と計上してある。それに対して負債の部が無借金なのだから、要するに商品土地の売買、商品仕込み(たとえばマンション)などはすべて自己資金で賄っているということだ。手形発行もゼロである。
普通、鉄腕企業には銀行から人材が派遣される。銀行側としても鉄腕企業とは懇意になりたいのは本音であろう。ところが同社には過去、銀行からの派遣幹部の存在はゼロである。銀行としても無借金企業とは商売にならないから嬉しくはない。今後も同社には銀行OBの派遣はないであろう。
先駆的な動きが同社の身上
冨永社長は「福岡都市発展に遭遇しためぐり合わせで当社の躍進につながった」と謙虚な回答を語ってくれた。読者は「同社の方々すべてが流れに迎合していてこんな業績を上げられるはずはない。何か特筆すべき戦略をもっているに違いない」と思うに違いない。その回答は同社の「先駆性に長けている」ということである。
この戦略的・先駆的な行動パターンは創業者・前畑一人氏によって築かれた伝統である。筆者は創業後、間もなくから照栄建設をウォッチングしてきた。
72年4月、福岡市が政令指定都市としてスタートした。人口は89万人。この政令指定をきっかけに福岡市周辺部でも人口が増加し始めた。農地が宅地化されて住宅が建ち始めたのである。その流れを直視しつつ設立間もない同社(72年6月設立)の創業者前畑氏は受注戦略を練りあげた。農協とタイアップして農家の方々の紹介を受けた。彼らこそ家主となって、同社の将来の得意先候補になると睨んだからである。この受注戦略が功を奏して照栄建設の躍進が始まった。
PFIへの挑戦
PFIとは、1999年に施行された「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)のことである。要するに公共事業の発注も民間資金を活用して運用も託すという狙いをもっていた。
同社は社内をあげて10年前からこの「PFI」を研究してきた。その結果、福岡市民会館(中央区天神5丁目)受注に漕ぎつけた。支払いは福岡市ではない。事業会社が立ち上げられて照栄建設も株主として出資する。この会社から請負代を払ってもらうことになった。この経験はその後、大きな経験財産となったのである。
この一例こそが照栄建設の身上を示すものである。先駆的で行動力があることだ。これを境にして目玉になる公共事業の受注も増加してきた。
ちなみに、福岡市民会館改め「福岡市民ホール」は来年3月28日にオープンする。こけら落としには歌手MISIAさんのコンサートが行われる。
東部地区を制圧する
国鉄は民営化にともなって地区ごとに分割独立(たとえばJR九州)が進められた。当然、貨物部門も単独事業会社として独立民営化された。この貨物事業は操車場として莫大な土地を有していた。この敷地の再開発の成功の例は新橋汐留、大阪駅北部開発である。
福岡においては香椎地区(厳密にいえば千早地区)に膨大な貨物操車場があった。平成初頭(1990年当時)からこの千早地区の売却と再開発プランが持ち上がっていた。2000年ごろから土地売却コンペが始まった。その情報を耳にしてからは同社の動きはスピーディーであった。売却土地を掘り当てたのである。
即座に所有した不動産をマンションとして企画し分譲した。即刻、完売した。この貨物操車場跡地は福岡東部地区での断トツのマンション街となった。福岡東部地区では従来、「賃貸マンションのショウエイ」というブランドを根強く定着させていた。加えて「マンション分譲のショウエイ」という二本柱の信用を確立したのである。時流を読んだ必然的な結果なのである。
西部地区、学研都市でショウエイタウンづくり
九州大学が移転されたことでJR筑肥線に新駅「九大学研都市駅」がオープンした。当初は、駅から九大キャンパスまで見通せるほど田んぼと畑だけで、壮大な光景を遮る建物は皆無であった。当然、地主(農業経営者)たちは地域再開発申請を行う。それを見越して同社は市場調査を開始した。
地主さんたちとは長年の信頼関係を結んでいるところが多いという強みもある。瞬く間に無数の賃貸物件を受注した。場所によっては「ショウエイ賃貸マンション」が集中するところも現れた。人は「ショウエイタウン」と呼び出した。表現を換えれば「タウンマネージメント」ビジネスの領域まで到達したと評価できる。決して結果オーライではない。
「福岡東部はどういうまちづくりになるか」を予測する。「西部地区は学生タウン中心になるであろう」と見通しを立てる。流れをつかむことに長けているからこそビックビジネスのチャンスをものにすることができるのである。
社員に問いかける冨永社長
冨永社長は福岡大学大学院人文科学研究科教育臨床心理学専攻修士課程修了である。建設技術とは縁遠い道を歩んできた。だが社員たちが抱える悩み、やる気、「如何なる人生を送るのか」を正面から受け止めてきた。100人を超える社員たちを一致団結して、共通の目標へ向かわせることは至難の業である。だがこの領域こそ同社長のもっとも得意とするところであろう。社員たちとのビジネス人生談義に手を抜くことはない。
人材をオールマネジャーへ
社員たちとの意思疎通の積み上げを通して、底上げと意識改革を進めることに人的資本経営の要諦がある。「採用レベルを下げてまで現陣容の頭数をそろえても会社のレベルアップにはつながらない。発想を変えてすべての社員たちの底上げに全力投入したい」という手の内を披露してくれた。その具体的な方法としては、たとえばコミュニケーションアプリなどを積極的に活用している。ツールを有効に活用すればセクションが違っても生産性向上、効率化に必ずつながってきたという。
採用難のご時世だが、経理・総務関係の要員が半減しても業務はスムーズに回っている。減員になっても残業は皆無である。「増員なく受注を伸ばしていけば当然、待遇は充実できる」と強調する。
【児玉直】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:冨永一幹
所在地:福岡市南区向新町2-5-16
設 立:1972年6月
資本金:7,000万円
売上高:(24/5)179億4,786万円法人名
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