2024年12月23日( 月 )

傲慢経営者列伝(7)ファストリ柳井会長 日本一の富豪の「事業承継」と「相続」(後)

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 「息子を社長にするのは、いつでもできる。だが、経営者にすることはできない」。ダイエー創業者、中内功はこんな言葉を遺した。けだし名言である。創業者は等しく、中内と同じ悩みを抱えている。功成り、名を遂げた立志伝中のカリスマ経営者が晩年に最も頭を悩ますものは、「事業承継」と「相続」の問題である。世襲か脱世襲か、莫大な相続税をどうするかだ。日本の億万長者はその難問をいかにしているかを論じていく。(敬称略)

ファストリは、日本最大、最強の同族企業だ

 ファストリが財務省に提出した「5%ルール報告書」によると、柳井正と共同保有者のファストリの保有株式は1億3,137万株、保有比率は41.28%だ(24年4月30日時点)。

 2位株主柳井正(株式数5,657万株、持ち株比率17.78%)の共同保有者に名を連ねているのは、柳井照代、柳井一海、柳井康治、(有)Fight&Step、(有)MASTERMIND、TTYManagementB.V.。Fight&StepとMASTERMINDは柳井家の資産管理会社。

 筆頭株主である日本マスター信託銀行(株式数6,565万株、持ち株比率20.63%)と3位株主の日本カストディ銀行、10位株主のステート・ストリート・バンク&トラストの信託銀行3行はすべて柳井家が信託したもの。信託銀行名義の分を合わせると、持株比率は74.79%。

 ファストリ株の大半を柳井ファミリーで押さえている。「会社=オレのもの」という意味では、普通の中小企業と同じだ。後継者に据えるために、大企業出身のエリートを次々とスカウトしてきた。だが、大企業出身者が見切りをつけて逃走したのは、「日本で最大、最強の同族企業」だったことによる。大企業の企業文化で育った彼らには、理解を絶するものだったにちがいない。

オランダの節税会社に持ち株を譲渡

ユニクロ イメージ    それでは、日本一の大富豪である柳井正は、どういった相続税対策を立てているのか。

 4位の大株主であるTTYManagementB.V.(以下、ティティワイ社)が節税会社だ。日本共産党の『しんぶん赤旗』(16年 5月9日付)が、「日本超富裕層税逃れ、巨額資産を低税率国に移転」と報じて、明るみになった。柳井についてこう書いた。

 〈(米誌フォーブスで)資産額約2兆円と日本トップのユニクロの柳井正会長兼社長は、2011年10月に同氏が保有する同社の株式531万株をオランダの資産管理会社(柳井氏が全株保有)に譲渡しました。同国には要件を満たせば配当金が非課税になります。15年の配当(1株350円)で計算すると、531万株の配当金は年18億円以上。日本で株を保有する場合と比べ所得税と住民税を年7億円「税逃れ」していることになります〉

 上位10位の大株主のうち、自社株を除いた9人(社)は、柳井氏のファミリーの分だ。

 4位のオランダ国籍のティティワイ社(持ち株数1,593万株、持ち株比率5.01%=24年2月中間期)は、柳井が保有していたファストリ株を譲渡した。その目的は「配当金を主な原資として、社会貢献活動を永続的にかつ幅広くグローバルに実施すること」だが、実際は節税対策だ。

 オランダには資本参加免税制度というものがあり、発行済み株式の5%以上を継続保有していれば、配当および売却益は非課税になるから、柳井氏は日本で配当に対する税金を支払わなくてすむ。長男と次男も巨額の配当金を受け取る。「相続」は着実に進んでいるようだ。

 相続の最大の課題は、巨額にのぼる相続税をどうするか、という点だ。次に、柳井正の発言をたどって推測してみよう。

(つづく)

【森村和男】

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