2024年09月27日( 金 )

【倒産を追う】積極的な店舗展開が裏目に コロナ禍がとどめとなった

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アジアンブリッジ(株)

 福岡県内で知名度の高いカレー専門店「亜橋(アバシ)」を運営していたアジアンブリッジ(株)。ピーク時には直営店12店舗を運営していた同社だが、競争激化や人手不足と人件費高騰で業績が悪化。さらにコロナ禍の影響も大きく、7月17日、福岡地裁より破産開始決定を受けるに至った。

特性窯焼きナンで人気を博す

 アジアンブリッジ(株)は、1990年11月、内装工事および地域開発コンサルタントを目的に(株)スーパーブレーンの商号で設立された。その後休眠状態となり、2002年12月に解散。その後、03年5月に前代表の近藤文生氏の親族(近藤育高氏)が買収し、現商号に社名変更し、カレー専門店「亜橋(アバシ)」の経営を開始した。「亜橋」の由来は、アジアと日本の感動の懸け橋になるという志を表すといわれる。09年9月、育高氏の死去により、代表が変更。その後、翌10年10月にその代表も死去したことで、近藤文生氏が代表となった。

 ネパール人の調理による独自の本格的なカレーと、店内の窯で焼く特製ナンとのセット提供などのスタイルが好評を博し、10年ごろからFC展開で店舗数を拡大してきた。

チーズナン イメージ 代名詞といえるチーズナンはとくに人気で、最盛期にはテレビCMを流すなどして知名度を高めた。福岡県を中心に熊本県、大分県などで「亜橋」「アバシナンキッチン」の2つのブランドを展開し、ピーク時には直営店12店舗を運営するほか、FC店5店舗の統括も手がけるなど積極的な店舗展開により、13年4月期には9億2,700万円の売上高を計上していた。

家賃滞納で提訴される

 積極的な店舗展開を行っていた近藤文生氏だったが、13年3月に代表を退任。代表が変更となったが、翌14年11月に再度、近藤文生氏が代表に復帰している。

 そうしたなか、業界環境は次第に厳しさを増し始めていた。本格派カレー(インド・ネパール)専門店は福岡市内だけで約100店舗、東南アジア系カレー料理店を加えるとその数はさらに多く、創業時に比べて店舗間競争は激しさを増していた。亜橋は知名度こそ高いものの、ぐるなびなど飲食店検索メディアの評価では、徹底的に味にこだわる小規模店の後塵を拝するようになっていた。また、急速な店舗展開が裏目に出て2店舗の賃貸契約についての訴訟を抱えることになった。

 新宮店については、11年4月に賃貸契約を締結。当初の賃料は月額で78万7,500円、14年4月以降が月額81万円。敷金250万円、保証金が500万円という契約だった。

 同社は、19年10月、家賃滞納などによる建物明渡請求で提訴された。近藤氏は11年当時、新宮中央駅付近が開発されることに加えて、とくに近隣にスウェーデン家具小売大手のIKEAが進出する計画を知り、十分な集客が見込めると思い賃貸契約を締結した。

 実際に開業当初から「亜橋(アバシ)」の知名度にIKEAの集客効果もあり、十分な売上・利益を計上し賃料など順調に支払っていた。

 しかし、15年1月ごろ、新宮店とIKEAを結ぶ導線上に大型マンション兼商業施設(RJRプレシア)が建設されたことで集客は大きく低下した。裁判資料によると、新宮店としての売上高が、14年4月期の5,600万円から18年4月期には4,500万円と約20%の減収となった。

アジアンブリッジ(株) 沿革

 さらに、16年4月に発生した「熊本地震」により熊本店が営業を休止し、17年4月期の熊本店の売上高は約5,000万円減少した。また、人手不足と人件費高騰で大分店を廃止し大分店の売上高は約2,000万円の減少となった。店舗の閉鎖を続け業容を縮小していき、同社全体の同期の売上高は前期比89.3%の6億7,000万円となり、2,000万円の最終赤字に転落した。

 続いて、翌18年4月期にはリバーウォーク店(売上高2,700万円減)の閉店もあり、同期の売上高は減収となった。19年4月期には長尾店も人手不足により閉店を余儀なくされ、売上高5億1,000万円まで減少し、再度赤字を計上した。業績は悪化し家賃を滞納するようになった。

 原告は、建物明渡訴訟を提起する前の19年7月に東京地裁に対し、同社の取引銀行に対する預金債権の仮差押の申立を行っており、同年8月に仮差押の決定がなされていた。

 体調を崩していた近藤氏は19年4月ごろから体調を持ち直し、経営改善に向け、自宅マンションを売却し銀行へ返済を行うほか、駐車場の売却や自宅を担保に借り換えて資金を捻出しようとした。だが、原告が仮差押を申し立てていた預金債権に対して、国税庁が消費税滞納を理由に差押を実行。預金928万7,299円を延滞消費税の一部として回収された。原告は、期間を設けて未払賃料の支払いがない場合は停止条件付解除通知を行ったが、期間中に支払われず19年8月19日に契約を解除した。

 係争の結果、原告の申し立て通り建物を明け渡すほか、延滞賃料、明渡すまでの賃料相当額合計1,000万円ほどの支払い命令の判決が出た。それを受け同社は控訴したが、21年1月に控訴棄却で本訴判決が確定。新宮店は、20年7月に閉店した。

 北九州市八幡西区の黒崎陣原店についても同社に対する建物明渡等訴訟が提起された。黒崎陣原店は、15年8月に定期建物賃貸借契約を締結した。賃料は月額70万円(税別)、敷金500万円、建設協力金として契約時点で500万円、引渡時に500万円の計1,000万円を預託するという契約だった。

 しかし、同社は引渡時の建設協力金500万円を預託することができなかった。そこで原告と同社は協議のうえ、引渡時の500万円については免除し、契約時の500万円の未返還分483万円を同社は違約金として支払い、返還請求を放棄することに合意した。

 ところが、引渡時の建設協力金を免除されたにもかかわらず、16年6月分からの賃料が支払えず、同年9月に再度協議の場を持ち滞納賃料約300万円であることを確認し、10カ月にわたり分割して支払うことを約束。その分は履行したものの、18年9月以降、再び家賃を滞納することとなった。原告は、19年2月、滞納賃料など約770万円を同月末までに支払うこと、期限内に支払がない場合には賃貸契約を解除する旨を通知。同社は履行することなく、同年2月28日の経過をもって契約解除されることとなった。

 この店舗につき同社は19年3月15日、建物明渡請求で提訴された。同年5月10日、建物明渡および滞納賃料約770万円、明渡までの月額140万円を支払命令の判決がおりた。黒崎陣原店は20年9月に閉店している。

コロナ禍の影響で業績悪化が加速

 もとより積極的な店舗展開で業績が悪化していた同社だが、さらにコロナ禍の影響を受け21年4月期には売上高が3億5,000万円となり、3期連続の最終赤字を計上。その後も減収が続き、23年4月期には売上高が2億8,000万円まで落ち込み、債務超過に陥った。

 支払遅延を散発するなど資金繰りが悪化するなか、店舗の譲渡を進め再建を図っていたが、24年7月に近藤文生氏が死去した。その後池田晴奈氏が代表に就任したが事業継続を断念し、同社は福岡地裁へ破産手続きの開始を申請するに至った。

 取引先関係者からは、近藤社長はお金の使い方が派手だったという話も聞かれる。急速な店舗数拡大が引きがねとなり、コロナ禍がとどめとなった。

 なお、小田部店やコマーシャルモール店、大野城南店などの複数の店舗は譲渡を受けた企業が営業を継続している。

外食需要回復も物価高など厳しい業界環境

 19年後半のインバウンド需要の減退、20年からのコロナ禍の影響で臨時休業や時短営業を強いられたほか、消費者の外食自粛により、飲食業界はかつてないほどの影響を受けた。売上高が著しく低下し、リストラなどの人件費削減を断行した企業が多く見られた。

 一方で、雇用調整助成金や新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金などのコロナ関連支援策を活用し、一息ついていた過少資本の飲食業者も少なくなかった。そのため、事業継続の判断を先送りにした事業者も多く、飲食業の倒産は22年まで2年連続して抑制された。

 23年4月に入国規制などの水際対策が終了。5月には新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行し、訪日外国人が増加してインバウンド需要が拡大した。人流や客足が戻ったことで、飲食業の集客や売上は回復したことが売上増に寄与し、外食産業全体の売上高は前年比114.1%、19年比107.7%となった。

 ただ、売上の回復傾向は進んでいるものの、客単価が前年比107.3%と上がっていることが主な要因となっており、客数についてはまだ19年比90.9%と、19年の水準まで回復していないと推測される(日本フードサービス協会調べ)。

 このように、コロナ禍での生活様式の変化や宴会・接待需要の減少で売上が戻らない事業者も多く、23年の飲食店の倒産件数は過去最高を更新するほど増加している。

外食産業全体の伸び率推移

 倒産増加の大きな原因の1つとして、先述のコロナ支援策の縮小や中止、ゼロゼロ融資、いわゆるコロナ融資の返済が始まったことによるものが大きい。加えて、歴史的な円安による電気・ガス代などのエネルギー価格の上昇や食材価格や人件費の高騰があげられる。これらの要因が収益を圧迫している。

 さらに、深刻化が進む人手不足も大きな影響を与えている。コロナ禍での休業や時短営業などによるリストラで、一度辞めてしまった人材はなかなか戻ってこず労働力不足の状態が続いている。国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となる2025年問題で労働者が減少し、後継者不足もすでに進んでいる状況もある。また、客離れを懸念して、物価高にともなう価格転嫁、いわゆる値上げを躊躇している飲食店も少なくない。

 コロナ禍の収束で外食需要が回復し売上が戻ったとしても、コロナ融資の返済まで抱える事業者が多い飲食業界は、今後ますます淘汰の波に晒されることになるだろう。

【内山義之】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:池田晴奈
所在地:福岡市南区五十川2-14-15
設 立:1990年11月
資本金:1,000万円
売上高:(23/4)約3億円

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