2024年09月30日( 月 )

傲慢経営者列伝(8)ファストリ柳井会長「日本人は滅びる」発言で大炎上(前)

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 このままでは日本人は滅びる──。カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の“予言”が、ネット上で大炎上している。物議を醸している発言を手がかりに、日本一の大富豪が「事業継承」と「相続」をたしかなものにするために、何に取り組んでいるかを検証してみよう。(敬称略)

少数精鋭で仕事をすることを覚えないと
日本人は滅びる

ユニクロ銀座店 イメージ    発端は8月26日放映の日本テレビの『日テレNEWS』によるインタビューで、柳井正が「少数精鋭で仕事をするということを覚えないと日本人は滅びるんじゃないか」と指摘したことだった。

 労働力の減少が進むなかで、生産性アップに向けた取り組みは不可避との認識を示し、海外のように管理職や研究職など知的労働に携わる移民を受け入れ、少人数でも成果を出すべくレベルアップを図るべきだと訴えた。

 そのうえで、人口減が進めば、「公共や民間でサービスを受け入れられるものが受け入れられなくなる可能性がある」と懸念した。

 これに異を唱えたのが、衣料品通販大手ZOZO創業者の前沢友作。X(旧・ツイッター)で「グローバリズムに迎合し、自らをその渦にのみ込まれてしまいそうな考え方には違和感がある」と反論。著名実業家たちも参戦し、ネット上で大炎上したのである。

 だが、柳井の発言に驚きはない。「日本人は滅びる」は持論であるからだ。

柳井は吠えた。「このままでは日本は滅びる」

 柳井が「日本人は滅びる」と吠えたのは、今回が初めてではない。『日経ビジネス』電子版(2019年10月9日付)の『目覚めるニッポン』シリーズに登場した柳井は、「このままでは日本は滅びる」と日本人にハッパをかけた。政治的な発言を控える経営者が増えるなか、柳井は直言をやめない。歯に衣着せぬ物言いは、柳井の真骨頂だ。企業経営から政治までの大改革の必要性を説く。

 〈最悪ですから、日本は。この30年間、世界は急速に成長しています。日本は世界の最先端の国から、もう中位の国になっています。ひょっとしたら、発展途上国になるんじゃないかと僕は思うんですよ。

 国民の所得は伸びず、企業はまだ製造業が優先でしょう。IoTとかAI(人工知能)、ロボティクスが重要だと言っていても、本格的に取り組む企業はほとんどありません。あるとしても、僕らみたいな老人が引っ張るような会社ばかりでしょう。僕らはまだ創業者ですけど、サラリーマンがたらい回して経営者を務める会社が多い。

 起業家の多くも上場して引退するから、僕は「日本の起業家は引退興行」と言っています。今、成長しているのは本当の起業家が経営している企業だけです。

 結局、この30年間に1つも成長せずに、稼げる人が1人もいない。稼げる企業が1社もない。いや、1社あるかもしれないですけど、国の大きさからいったらあまりにも少ないし、輸出に依存していてグローバルカンパニーになっていない。稼いでいる人がいなかったら家計は成り立たないでしょう。30年間、負け続けているのに、そのことに気付いていません〉

議員も官僚も半分にせよ

 そして、こう提案する。国の歳出を半分にして、公務員の人員数を半分にせよ。参議院も衆議院も機能していないので一院政にせよ。

 安倍政権への批判も臆することなく展開している。「アべノミクス」で成功したのは、株価だけ。それ以外に成功したものはどこにもない。米国の属国にならないために、憲法改正より日米地位協定を結べ、と。

 材獲得の競争をしている中で、日本だけ遅れている。

 技術についてはもう完璧に2周遅れ。でも自分たちは先行争いをしていると思っているでしょう。世界の現実を知りません。経営者自身が勉強していないことと、海外に行っていないからです。

 優秀な外国人を採用するためには、人事や報酬の制度を抜本的に変えないといけない。日本企業の報酬に比べると、中国や欧州の企業はだいたい2~3倍、米国企業だと10倍くらいの高い水準です〉

 日本の政界・官界・財界のエスタブリッシュメントを一刀両断だ。

日本はポルトガルのようになる

 ベンチャー起業家の柳井は、いつから“憂国の士”に大変身したのだろうか。

 2011年3月11日の東日本大震災が転機になったと考えられる。

 それ以降、日本とポルトガルを対比して語ることが多くなった。

 〈私は最初、「日本はポルトガルのようになる」と、そう言っていました。かつてポルトガルには大航海時代があり、日本にはジャパン・アズ・ナンバーワンと言われる時代がありました。

 日本は、なんとかポルトガルのようにギリギリの状態ですが、その状態を維持できるのではないかと思っていましたが、どうもそれすら難しくなっているんじゃないかと思います。ギリシャのように破綻してしまう可能性すらあるんじゃないかというのが現状です。

 今の日本は、ゼロ金利、マイナス金利です。これは金融を否定しています。金利がマイナスということは、お金の計算やっても無駄だということですよね、これ〉
(「公認会計士制度70周年記念講演会」2018年7月23日、より)

 なぜ、日本の現状を説明するのに、ポルトガルなのか。

 ポルトガルは、日本にとって馴染み深い国だ。大航海時代にポルトガルは積極的に海外に進出。1543年、種子島に漂着したポルトガル商人による鉄砲伝来は、必ず教科書に出てくる。フランシスコ・ザビエルが日本を訪れ、織田信長の庇護のもと南蛮貿易を開始した。南蛮人とはポルトガル人のことだ。

 ボルトガル由来の言葉は数多く残っている。パン、コップ、ボタン、タバコ、金平糖など。長崎名物のカステラもポルトルガルがルーツだ。

(つづく)

【森村和男】

傲慢経営者列伝(7・後)

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