2024年10月17日( 木 )

傲慢経営者列伝(10):三菱グループを抉る(3)三菱電機は不正から再起できるか!

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 「失われた30年」──。財界の総本山・経団連の本流である重厚長大企業は、産業構造の転換が遅れ、競争力を失ったため、30年前には存在しなかった米巨大企業を中心とするIT企業の台頭で凋落の一途をたどった。かつて花形だった、日本最大の重厚長大企業集団・三菱グループの今日を抉る第2弾。「昭和は遠くになりにけり」の感を深くする。(敬称略)

「製作所・工場あって会社なし」

    三菱電機をめぐっては、パワハラによる自殺や過労による労災認定など、労務問題も起きていた。サイバー攻撃による情報流出などトラブルも続いている。こうしたことの背景には、検査不正と同じく、閉鎖的な組織風土があったと指摘されている。

 本社や各地の工場をまたぐ異動が少なく、閉鎖的な組織になっていた。現場と本社に距離があり、調査報告は「製作所・工場あって会社なし」と指摘した。

 閉鎖的な隠蔽体質は三菱電機だけでなく、三菱グループに共通した特有のものである。

 三菱電機が22年6月29日に開いた株主総会で、株主から「企業の根幹を支えるところで不祥事が出ている。不祥事のデパートみたいになっている」と指摘されていた。

 検査不正にしても、6月中旬の社内調査で明らかになっていたにもかかわらず、株主総会の場で公にはしなかった。翌日、メディアの報道で明らかになるとあっさり認めた。

 株主軽視だけでなく、経営陣の責任感の欠如や企業統治への意識の低さが表れている。

社長は事業部門の「調整役」でしかない

 組織風土問題の根本は閉鎖性にある。内に閉ざされがちな社会である企業組織では、往々にして「世間の常識」とは異なる「社内の常識」というものが存在する。加えて、財閥系大企業は、終身雇用のため社内にほかの会社の「常識」を知る者も少なく、その閉鎖性ゆえに誤った「社内の常識」がまかり通る。三菱電機が、自社で定めた検査の「専用プログラム」は、製造現場の“カイゼン”として称賛されこそすれ、不正だとは露ほども思っていなかったに違いない。

 三菱電機では、平時でも「社長の任期は4年」という慣行が20年以上前からある。

 10年4月から14年3月まで社長を務めた山西健一郎はかつて雑誌でこう語っている。

 〈4年は短いとよくいわれるが、だからこそ成果を出そうと無理な経営に走る人は現れない。社長の名前は知らないが、業績はいい。それこそが本来、いい会社というものではないか〉(プレジデント17年10月30日号)

 三菱電機の社長は、8つある伝統的な事業部門を代表する「調整役」が実態であった。「今の形」を守ることが仕事になり、4年が経過すれば、また別の代表者がどこかの部門から出て、調整役に徹する。事業ポートフォリオを大きく入れ替えるようなことはしない。

 調査委員会の報告が「製作所・工場あって会社なし」と指摘したゆえんだ。パワハラや検査不正があっても、製作所・工場の責任であって、本社のトップの責任の範囲ではないと意識しているということだ。

 報告書は「取締役会や執行役は特有の組織風土に切り込んでいくチャンス」として「ガバナンス機能を適切に発揮することが期待される」としている。そして「経営陣は責任を明確化する措置を講じるべき」と提言する。

三菱電機の危機管理体制は「病膏肓に入る」

 だが、役所と同じように数年での順送り人事をモットーとする三菱電機の経営陣には「ムリ」というものだろう。不正からの再起に踏み出したが、早くも綻びが生じた。

 三菱電機の子会社で、掃除機や炊飯器などを手がける三菱電機ホーム機器(埼玉県深谷市)は24年8月5日、サイバー攻撃を受けて従業員ら3,893人の個人情報が流出した可能性があると発表した。家電製品の顧客約231万人についても、別のサーバーで保管していた同様の個人情報が閲覧された可能性があるという。

 三菱電機では、19年にサイバー攻撃により機密情報が流出した恐れがあるほか、20年には取引先の口座情報などが漏れていた。

 三菱電機の不祥事や不正を検索するとてんこ盛り。病気が重くなって治療のしようがない。まさに「病膏肓に入る」だ。

(つづく)

【森村和男】

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