2024年10月28日( 月 )

【業界を読む】縮小と偏在を強める生コン市場のなかで谷口、旭、両グループが福岡中央に進出

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 縮小を続ける生コン市場での生き残りをかけて、都市への一極集中が強まる需要を獲得するために果敢な一手を打ち出す生コン業者が福岡地区にも現れている。生コン業界の利益を守るための組合の結束と、各業者の生き残りをかけた懸命なせめぎ合いのなかで、福岡の生コン市場はどうなっていくのだろうか。

縮小基調が続く生コン市場

 生コンクリート市場は縮小の一途をたどっている。4~8月までの全国の生コン出荷量は2,719万m3で前年同期比6.4%減、内訳は官公需が774万m3で同13.7%減、民需が1,945万m3で3.1%減となっている。

 福岡県でみると、4~8月までの県内の出荷量は112万9,664m3、同3.8%減である。8月に限ってみると19万320m3で前年同月比18%減、内訳は官公需が3万7,820m3で同5%減、民需が15万2,500m3で同20.6%減だった。とくに県内の6地区のうち福岡地区の落ち込みが大きく、9万5,782m3で同18.9%減だった。

生モノにおける深刻な市場偏在

 生コン市場が抱える問題は需要の減少ばかりではない。地域によって極端な需要の偏りがあり、市場の偏在がますます鮮明になっているということだ。

 【表1】は2023年度の都道府県別生コン出荷量と、1996年度の出荷量と比較して何%まで落ち込んでいるのかを表したものだ。96年は全国の生コン出荷量が1億8,025万m3でピークだった年にあたる。

2023年度の都道府県別、生コン出荷量

 従来、生コンの消費需要は官公需が引っ張っていた。90年代までの生コン需要は、官公需が年8,000万m3以上、民需は96年に唯一8,000万m3を超えて8,343万m3だったが、常に官公需が民需を上回っていた。だが、2000年代に入ると官公需の生コン需要は8,000万m3を割り込んで一気に凋落した。

 23年の官公需の出荷量は、1996年比で23.4%まで落ち込んでいる。全国で40%を超えているのは僅かに3県だけだ。福岡県は20.6%で全国平均を下回っており、九州のなかでも佐賀県に次いで下落率が大きい。

 官公需に代わって生コン需要を支えるようになったのは民需で、2003年に官公需と民需の生コン出荷量は逆転した。23年には民需が官公需の2倍以上となっている。だが、民需の生コン需要は当然ながら都市部に集中する。東北6県の平均と東京都の出荷量を比較すると、官公需では東京が3.7倍だが、民需では東京が17.4倍まで差が広がる。そのような民需の比重の高まりによって生コン市場は圧倒的に都市偏在の状況となっている。

 2023年度の民需の出荷量で、対1996年比で60%以上を保っているのは首都圏と福島県、愛知県、滋賀県、福岡県、熊本県である。関西では唯一、琵琶湖南岸で大型商業施設の建設が相次ぐ滋賀県が含まれるが、西日本ではほかに九州の福岡県と熊本県が含まれるだけで、極端な東高西低となっている。

 官民需要の合計で対96年比40%を超えた都道府県は、九州では福岡県、熊本県、沖縄県の3県で、これ以外の5県との差は10ポイント以上であり、九州圏内でも市場の偏在が明らかである。

福岡県内の市場偏在 福岡地区に5割集中

福岡県内の地区別出荷量

 市場の偏在は都道府県別だけでなく、福岡県内でもその傾向は強まっている。福岡県の2023年の生コン出荷量における官需比率は1:4。高い民需比率の結果、福岡県内でも地区によって需要の偏在が鮮明だ。【表2】は福岡県内の生コン協同組合の地区別の月出荷量を、13年と24年8月で比較している。それを見ると、福岡地区以外ではおよそ半分近く出荷量が減っていることがわかる。一方福岡地区は、17年にアウトサイダー企業6社が加入したことによって組合としての出荷量が増加したとはいえ、県内シェアは13年の4割弱から24年には5割超となっており、地区別の需要において福岡地区への一極集中が進んでいることが明らかだ。

 福岡地区では38の生コン工場が組合に加入している。なかでも生コン工場がひしめき合うのは箱崎、東の浜、那の津といった博多湾岸を含む中央地区だ。従来13工場があったが、本年1工場が加わった。そして、さらにもう1工場加わろうとしている。

福岡地区生コンクリート協同組合の中央地区の工場一覧

田川市本拠の谷口グループ 福岡地区へ新規進出

谷口TAS.MA
谷口TAS.MA

    本年新たに福岡地区生コンクリート協同組合(以下、福岡生コン協組)に加盟したのは、中央区荒津に生コン工場を新設した(株)谷口TAS.MAだ。同社は田川市に本拠を置く谷口グループが福岡地区に新たに進出した生コン工場になる。

 谷口グループはすでに田川市に生コン工場として麻生田川コンクリート工業(株)を有するが、谷口グループが生コン工場の運営に乗り出したのは比較的遅い。グループは土木請負業で創業した谷口組に始まる。1966年に谷口組から鉱山部・運輸部を分離して谷口商事(株)を設立、谷口商事内に採石販売部が設立され各種資材の販売を行った。2004年、当時の麻生ラファージュセメント(株)(現・麻生セメント(株))から、麻生田川コンクリート工業の経営権を譲受し、生コン製造を開始した。よって同社は麻生セメントと大変関係が深い。

 同グループは元来、建設業の谷口組を中核として成立したグループであるとはいえ、近年は、生コンを中心とした谷口商事と麻生田川コンクリート工業の利益が谷口組を上回る状況となっている。グループ内の支配関係も、かつては谷口組の株式を創業家の谷口家と浅地家で分けもつ体制となっていたが、現在は谷口商事が谷口組の完全親会社となり、谷口商事の株式を代表の浅地裕太郎氏を中心に保有するかたちで支配体制を固めている。麻生田川コンクリート工業は谷口組が75%以上を保有して支配している。

 今回、谷口TAS.MAとして新たに設立された福岡地区の生コン工場も、代表2名は麻生田川コンクリート工業と同じく鶴田達哉、浅地裕太郎の両氏である。

谷口グループの2社の直近業績

旭グループの箱崎進出 生き残りを賭けた経営判断

 そしてもう1つ、これから生コン工場の建設予定を控えているのが、旭コンクリート工業(有)の箱崎工場だ。800坪の土地はすでに更地になっており、あとは建設を待つばかりだ。

 旭コンクリート工業は糸島市飯原に拠点を置き、現状ですでに福岡生コン協組の組合員である。だが西部地区の糸島から、新たに中央地区の箱崎へ進出する。

 同社は1961年創業、糸島地区を代表する老舗の生コン業者だ。現社長・環治氏が事業を承継したのは84年、父・要一氏の死去を受けて、弱冠26歳で社長に就任した。

 グループ企業のアサヒ商事(株)は販売部門を受けもつ。アサヒ商事は82年に旭要一氏がアサヒブロック㈱を設立したことに始まる。当初はブロックの販売を手がけていたが、生コンに対する顧客のニーズの高まりに応えて、生コンやコンクリート関連の製品の取り扱いにも乗り出した。95年に(有)ヴァン・コーポレーションを統合し、福岡地区への営業拡大の足がかりとした経緯がある。

 製造部門である旭コンクリート工業は2008年に一度、福岡生コン協組を脱退している。詳細は既報記事『高収益を上げる福岡生コン業界』で取り上げたため概要のみ説明するが、理由の1つはアウトサイダーである(株)古賀物産(本社:佐賀県伊万里市)との競争だ。

 古賀物産は元来、佐賀県の伊万里・有田と長崎県の川棚に砕石場をもつ砕石業者だったが、2000年代初めからの長崎県内の官公需による生コン需要が急減少するなかで、自社の砕石をさばくために生コン製造工場を拡大、03年に糸島市にコガ生コン福岡工場を新設した。コガ生コン福岡工場は自社の砕石をさばくことが目的であるため、制約がかかる組合に古賀物産は加入していない。

 一方の旭コンクリート工業は、組合として制約を受けるなかで、コガ生コンの価格競争に晒された。組合員として販売スキームに強力なしばりがある旭コンクリート工業は、コガ生コンに対して価格面で劣勢に立たされていることを口実に、08年3月をもって組合を脱退した。判断の背景には、組合の傘の下を外れての自由な営業活動で、地元糸島地区の旺盛な建設需要を獲得することが得策と判断した点もあるだろう。当時の組合の統一価格は1万500円/m3(価格は以下「/m3」を省略)だったが、脱退後9,000~9,600円の価格帯で販売を始めた。その結果、業績はどうなったか。

 【表5】で旭コンクリート工業の業績を見ると、組合脱退後の09年は対07年比で3割以上売上高が増加している。これは先述の通り、組合の軛を外れた自由営業の結果だ。組合の販売スキームでは割に合わない価格であっても、自社で一括して受注と販売をコントロールできれば十分採算を取ることができる。

旭グループ2社の業績推移

 だが、旭コンクリート工業は、17年に他のアウトサイダー5社とともに再度、福岡生コン協組に復帰している。この6社加入によって、組合は福岡地区での市場占有率9割以上を達成した。その結束を背景に、その後、4度の組合価格の値上げを実現し、18年1月の1万1,000円から、23年4月には1万9,000円に到達した。値上げがもたらした恩恵の大きさは、旭コンクリート工業ならびにアサヒ商事の近々の利益拡大が物語っている。

 時と状況に応じて、組合からの脱退と加入に転じた同社の履歴は、地産地消製品として地域の需要に左右される生コン業界で生き残る戦略の重要さを象徴している。

 今後、建設を予定する箱崎新工場も、同社の生き残りをかけた果敢な一手として、福岡の生コン業界にどのような新風を巻き起こすのか注目である。

旭コンクリート工業、箱崎新工場建設予定地
旭コンクリート工業、箱崎新工場建設予定地

【寺村朋輝】

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