2024年11月22日( 金 )

共創の力で社会を変えるソーシャルビジネスの可能性(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

(株)ボーダレス・ジャパン
代表取締役副社長 鈴木雅剛 氏

 社会課題の解決に向けた取り組みを志す人が増えている。しかし、ビジネスとして成立させることは難しいとの認識が、立ち上がろうとする人を躊躇させているのかもしれない。だが、起業家同士が支え合う仕組みがあれば自ずと賛同する仲間も増えていく。共創の力で社会を変えるソーシャルビジネスとその仕組みについて、(株)ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長・鈴木雅剛氏に話を聞いた。

本質的な課題を理解しバリューチェーンに組み込む

 ──社会的インパクトを生み出すことと事業収益をどのように両立させているのですか。

 鈴木 起業家コミュニティの話をしましたが、起業後の資金面での支援は行っていません。社会起業家たちは、社会インパクトの創出と事業収益の両立を大前提としたビジネスプランを策定します。

 ここで重要なのが、事業化する際に「誰にどのような問題が起きていて、本質的な原因は社会構造の何に起因しているのか」を徹底的に考えることです。これをソーシャルコンセプトと呼んでいますが、ここが肝になります。そのうえで、社会構造や常識を打破する新しいソリューションを描き、それをビジネスを通して実現していくのです。

 たとえば、貧困やその他の理由で学校に行くことができず、文字の読み書きができないなどハンデキャップがあり、一般的なビジネスでは雇用が難しい人がいるとします。一般的なビジネスでは、そのような人の雇用はコストアップ要因と捉えられる場合があります。

 しかし、私たちのビジネスでは、貧困などに苦しむ人の生活面での課題を解決することを目的にしているので、むしろ彼らを雇用します。たとえ、ハンデキャップがあっても、できることに焦点をあてて、技術者として活躍できる仕組みを事業のなかに組み込んだり、彼らが教育をしっかりと受けて技術を高めることができる制度を導入します。彼らがもっている力を価値に変換して、発揮できる事業をつくるのです。これでもまだコスト要因と見なされる可能性がありますが、彼らが力を発揮して高品質なものづくりができれば、適正な価格で販売することができます。

 事業づくりの腕の見せ所でもありますが、マーケティングを戦略的に行えば付加価値の高いブランドとなり、彼らを組み込んだバリューチェーンの仕組みにおいて、彼らはコストアップ要因ではなくて、むしろバリューアップ要因になるのです。

 私たちが考えるソーシャルビジネスとは、マーケットから取り残されている人や状況を巻き込み、社会課題をビジネスで解決することです。社会課題の解決に明確な存在意義を置いていることを再度お伝えしたいと思います。

起業家を応援する仲間たちの広がり

 ──外部からも社会起業家を応援する仕組みはありますか。

 鈴木 社会を良くしたいという思いに賛同した人たちが集う「ボーダレス・アライ」という仕組みをもっています。これまでは、社会課題解決に挑む起業家を最も近くで応援するサポーター制度を運営していたのですが、支援する側・される側という印象が強く違和感がありました。

 そこで、アライ(Ally)=味方や仲間、同志を意味する英単語から「ボーダレス・アライ」にアップデートさせたのです。アライでいただいた会費は、事業の立ち上げ資金として運用されるだけでなく、新規事業のプラン発表会や起業家とのつながりなどボーダレスの情報をどこよりも早く展開しています。社会の希望を共につくる仲間として、関わってくださることは社会起業家たちにとっても大きな励みになっています。

社会起業家を応援するボーダレス・アライ

 ──すでに事業を立ち上げた企業がカンパニオに参加することもできるのでしょうか。

 鈴木 カンパニオが目指すところは、1社では生み出せない大きなインパクトを出すために社会を良くしたいと志す仲間が集まることです。なので、すでに事業を立ち上げている企業がカンパニオに参加することももちろん可能です。新しい起業家のカンパニオ参加承認は、すべての社会起業家が参加する「社長会」にて事業プラン発表により行われています。

 ──カンパニオの国際的な広がりはありますか。

 鈴木 アジア地域を始めとしてアフリカ、中南米など途上国を中心に14カ国でソーシャルビジネスを展開しています。バングラデシュを除く国々は日本人の起業家が現地でビジネスを行っていますが、今後はボーダレス・ケニア、ボーダレス・コリアなど日本で培ってきたノウハウを世界中に展開していきたいと考えています。そうすれば、自ずと仲間が増えて社会的なインパクトを出していけると信じています。

 ──今後の展望について。

 鈴木 ボーダレス・ジャパンは、これまでソーシャルビジネスだけに取り組む企業として歩みを進めてきました。しかし、現在の事業数は51。まだまだ道半ばです。田口も私も、このままのスピード感では社会を変えられないという危機感をもっています。今後は、社会起業家の数を増やすことはもちろん、ソーシャルビジネスのインパクトを拡大していきたいと考えています。

 世界には解決すべき課題がたくさんあり、その課題解決の速度を加速させていくためには、仲間を世界中に増やしていくことが必要です。多くの社会起業家たちや、ソーシャルビジネスを応援したり、手伝いたいと思うプロフェッショナル、企業、団体、行政など、あらゆるプレイヤーの人たちとの協力・連携を通じて、より良い世界と社会になるように、取り組みを進めていきたいと思っています。

(了)

【寺村朋輝】


<プロフィール>
鈴木雅剛
(すずき・まさよし)
(株)ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長 鈴木雅剛 氏1979年生まれ、広島県出身。(株)ミスミ(現・ミスミグループ本社)を経て、ボーダレス・ジャパンを共同創業。事業創出、ファイナンスなどコーポレート部門、社会起業家のインキュベート、アクセラなど、数々のソーシャルビジネスの創出、成長に従事。また、社会起業家が集い、ノウハウ、資金等関係資産を共有し、ソーシャルインパクトを共創する共同体「ボーダレスカンパニオ」の仕組みづくりを追究。丸井グループサステナビリティアドバイザーや環境省事業委員就任など、企業や行政、教育機関とノウハウ/ネットワークを共有、協働を進め、インパクト最大化を推し進めている。

(前)

関連記事