木造・木質化普及へ、技術者育成が急務(前)
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(株)環・設計工房 会長 鮎川透 氏
S造やRC造に加えて、木造・木質化建築物が公共施設のほか商業ビルなど民間の施設にも徐々に広がりつつある。では、本格的な普及を目指すうえで、どのような課題をクリアしなければならないのだろうか。今回は、福岡県や九州において早くから木造・木質化建築物の設計に携わり、国内や県内の状況にも詳しい、(株)環・設計工房の会長で、(公社)福岡県建築士会の会長である鮎川透氏に話を聞いた。
木造・木質建築物にいち早く取り組み
──御社は県内において、建築物の木造・木質化に早くから取り組み、多くの実績を有していると聞いています。
鮎川 当社は木造住宅のほか、S造やRC造の建築物の設計などにも携わってきた設計事務所です。木造の非住宅については、「博多町屋ふるさと館」(福岡市博多区、1995年開業/町屋棟は伝統的な軸組工法)や、「玉の湯」(大分県由布市)など、他の設計事務所に比べ比較的早くから取り組んできました。とくに2010年の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(※1)制定からは、一般建築物の木造・木質化に取り組まなければ新たな建築のフィールドが開けないと考え、自治体が積極的に取り組み始めたこともあり、学校や保育園など公共施設の主に内装の木質化に取り組んできました。
たとえば、直近では西都北小学校(福岡市西区)の内装木造化、さらには「照葉はばたき公民館」(福岡市東区)の構造を木造とするプロジェクトにも参画しています。商業施設(歴史的建造物)については、1960年代に解体された温泉施設「さくら湯」(熊本県山鹿市)を復元するプロジェクト(02年竣工)にも携わりました。
※1:21年から「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に名称変更 ^
住宅用製材の活用が重要
──そんな経験から、建築物の木造・木質化の現状をどのように見ていますか。
鮎川 S造およびRC造は100年以上の期間、建築の主流であり続け、素材の調達システムが確立されてきましたが、とくに鉄は近年、資材価格の高騰の影響を受け、業界にとって調達のためのコストコントロールが難しくなってきました。国際的な動向に左右される状況が強まっているためです。一方、木材は住宅向けであれば、比較的安定的な調達が可能な素材です。もちろん、ウッドショックの影響は受け、国内産も大きな価格上昇がありましたが、川上・川中との連携を密にすることができれば、より安定的な調達ができるようになると考えています。ただ、私たちが「都市木造」と呼ぶ、商業ビルなど高さや面積が広くなる規模の建築物では集成材やCLTなどのエンジニアリングウッド(加工木材)を使う必要があるケースが多くなり、それには価格や調達面でハードルがあり、設計サイドとしては現状、調達に難があります。
ですから、まずは設計サイドも施工サイドにとっても調達のコントロールがしやすい、住宅用の一般流通材を活用した仕組みがより広がることが重要です。すべてを木材で造る必要はありません。S造・RC造との混構造であっても良く、必要なところに木を使い、活用する量を増やしていけば良いのではないでしょうか。「照葉はばたき公民館」のように、福岡市をはじめ自治体も徐々に公共建築物の木造・木質化に前向きになってきました。また、自治体はそれぞれで算出する木材の活用量拡大に躍起になっていますが、福岡市は木材消費地ですから、消費地の立場で普及のために動くのが良さそうです。
(つづく)
【田中直輝】
中・大規模木造建築物普及シンポジウム
<日時>
11月15日(金) 午後1時半~4時半
<場所>
TKPガーデンシティ PREMIUM 天神スカイホール メインホールA
(福岡市中央区天神1-4-1西日本新聞会館 16階)
<主催>
(一社)日本建築構造技術者協会(JSCA)九州支部<COMPANY INFORMATION>
代 表:杉本泰志
所在地:福岡市南区大橋2-2-1
設 立:1980年4月
資本金:1,000万円
TEL:092-561-6160
URL:https://www.kanarc.jp/
<プロフィール>
鮎川透(あゆかわ・とおる)
1951年福岡県生まれ。九州芸術工科大学芸術工学部、同芸術工学専攻科を経て、75年に第一工房入社。80年に(株)環(かん)・設計工房を設立し、独立。2017年に会長に就任した。(公社)福岡県建築士会会長。(一社)日本建築家協会九州支部役員、九州大学芸術工学部非常勤講師、福岡大学工学部非常勤講師を務めた。元九州大学産学連携センター客員教授(デザイン部門)。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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