ヨーロッパ航空会社が続々と中国路線から撤退
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イギリス最大の航空会社、ヴァージン・アトランティック航空(VS)が10月末に中国路線からの撤退を発表し、それからわずか3カ月以内に同じくイギリスのブリティッシュ・エアウェイズ航空(BA)、さらにはスカンジナビア航空(SK)やLOTポーラント航空が相次ぎ中国路線の撤退または中国便の削減を発表した。
さらに10月8日、世界4位の航空会社であるドイツのルフトハンザ航空(LH)が、「中国全体の運航への取り組みを評価した結果、10月末から北京-フランクフルトの直行便を運休すると決定した」と発表した。サービスネットワークの改善に向け、市場の状況に合わせた事業運営をするという。これにより、この路線を運航する航空会社は中国国際航空(CA)のみとなる。
ヨーロッパの航空5社が中国に別れを告げる理由は、かなり似通っている。
(1)いずれの便もロシア領空を避けて大きく迂回しなければならなくなり、コストが増大し、迂回が不要で飛行時間が短く、値段も安い中国の航空会社に太刀打ちできなくなった。
(2)中国に行くビジネス関係者や観光客がコロナ禍前のレベルまで回復しておらず、搭乗率が低い。
エールフランス-KLM(AF)の大中華圏リーダーであるヴェルムーラン氏は、「迂回することで中国到着が遅くなってしまい、後続の運用にも支障が出る。離陸時間を早めても戻りが遅くなってしまい、乗り継ぎができなくなるケースもある」と述べている。
ロシアのウクライナ侵攻が始まった2022年から、EUとロシアが領空を分断してしまい、大多数のヨーロッパ航空会社は、アジアなどに向かう際に「大圏コース」と呼ばれる最短経路を飛べなくなってしまった。
大圏コースとは、地球上の2地点を結ぶ最短ルートを指し、航空会社からすれば概ね「最も経済的なコース」となる。ただし路線を決める際は、天候や不時着場所の有無など安全面も考えなくてはならない。中国とヨーロッパを結ぶ便でいうと、大圏コースは大部分がロシア領空となる。飛行禁止令を受けたヨーロッパの航空会社は現在、ルートをやや南寄りに変えており、離陸後はトルコ、中東、中央アジアと経由して中国に入る。こうして飛行距離も時間も伸びてしまい、燃料や乗組員にかかる費用もかさんでいる。
中国-フランス便の場合、Flightawareによると、エールフランス航空(AF)でパリのドゴール空港から北京の首都空港に行く際に、飛行距離はおよそ9,650km、所要時間は11時間かかる。迂回が不要な中国の航空会社に比べると、距離は1,730km、時間は1時間40分余計にかかり、コスト割合は以前より40%増しになっている。
燃料価格もコロナ禍前よりおよそ3割増えている。またヨーロッパは人件費が高騰し、航空各社が費用負担に苦しんでいる。エールフランス-KLMのヴェルムーラン氏は以前、中国メディア「財新」に対し、「アジア行きの便の一部路線はパイロットの人数がそれまでの3人から4人に増えた」と述べている。
また、中国の航空会社は外国の会社に比べて運賃が安めで競争力がある。ロシア迂回が不要ということでヨーロッパ行きの便を大幅に増強しており、運航本数はヨーロッパの全航空会社を上回り、運賃も外国便よりずっと安く、一部の路線では2000元(約4万円)以上の差が出ている。
ある航空業界の関係者は、「中国では、国際線の旅客数がまだコロナ前の水準に回復していない。各航空会社は大型旅客機を持て余しているため、自ずと外国航空会社の乗り入れに開放的な国への増便に振り向ける。イギリスもその1つだ」と述べている。ただ供給面でコロナ禍前を上回りながら、国際線の需要が回復に至らず、搭乗率が低迷することで運賃も値下がりする。「欧米の主要国では乗り入れ制限をしており、中国勢は持て余す輸送力を開放的な国への便に振り向けるか、国内線で競争する必要がある」とのことである。
ヨーロッパ各社の中国路線撤退について、別の大きな理由は渡航需要が完全には戻っていないことである。BAの運営会社であるインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)は、今年第1四半期の決算報告の電話会議で、アジア太平洋における収益減の理由の1つとして「中国の需要が伸び悩んでいる」と指摘した。
需要面を見ると、中国は入国に便宜を図るために72時間または144時間の乗り継ぎビザ免除措置を講じてはいるか、渡航者の数がコロナ禍前までには戻っていない。ヴェルム上フン氏によると、渡航について個人旅行者やビジネス客は増えているが、以前に比べると団体ツアーの数は回復が遅れているという。ビザの問題もネックになっている。EUのデータによると、2023年、中国の領事館などでEU各国へ発給した短期ビザの数は2019年の4割程度にとどまっている。
またフライトマスターによると、今年1月から9月の中国-ヨーロッパ間の直行便本数は2019年より54本少なかった。
ヨーロッパの航空会社が中国でのシェアを落としていることで、中国の航空会社もヨーロッパの市場開拓が難しくなりそうだ。KLMオランダ航空の社長であるマルジャン・リンテル氏は先ごろ、現地テレビ局の取材に際し、「ロシアはヨーロッパの航空会社の飛行を禁止しているが、中国には開放しており、これにより当社は飛行時間やパイロットの人数、燃料代で劣勢に立たされている」と述べ、不公平な競争だと見ている。
マルジャン氏は、ヨーロッパは中国の航空会社に行動をとるべきだと見ており、「少なくとも値段やほかの方法でこうした不公平な競争環境を食い止める策を検討すべきだ」と述べている。
ヨーロッパの航空会社がEUに圧力をかければ、EUは乗り入れ制限などさまざまな手段により中国を締め付けることになる。よって、ロシアがヨーロッパを締め付け中国に便宜を図ることで、結局は中国航空業があおりを受けることになり、中国とヨーロッパの航空会社の関係が競争から対立へと変わってゆく。
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