2024年12月02日( 月 )

傲慢経営者列伝(13)新浪剛史経済同友会代表幹事 物議を醸す正論居士の発言(前)

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 「正論居士」という言葉がある。居士とは気質を指す。言っていることは正しいが感動を誘うものが何1つない。どのようなことにでも口を出してくる「うるさ型」だ。経済界きっての「正論居士」は、サントリーホールディングス社長で、経済同友会の新浪剛史代表幹事だろう。その新浪氏の発言が物議を醸している。(文中の敬称略) 

「最低賃金1,500円を払わない経営者は失格だ」

最低賃金 イメージ    実績を上げたい石破茂政権が前のめりになっているのが賃上げだ。最低賃金は今年、全国加重平均が過去最高の51円(5.1%)上がって1,055円になった。石破政権は、2020年代に現状より4割ほど高い1,500円とする目標を掲げる。目標実現には年平均7.3%の引き上げが必要だ。

 最低賃金の大幅アップについて、経済界は真っ二つに割れた。最低賃金を時給1,500円に引き上げる政策をめぐり、経済同友会の新浪剛史代表幹事(サントリーホールディングス社長)は10月18日の定例会見で、
「(その水準まで賃金を)払えない企業は駄目だ。払えるようにすることを目標としてやっていくべきで、払わない経営者は失格だ」
「最低賃金を払えない企業が倒産すると(働いている人は)ほかの生産性の高いところへ行き、人にとっては良いことだ」
 と述べた。最低賃金の引き上げで企業の新陳代謝が生じ、賃金を上げていくことが人材を大切にすることだと説いたわけだ。これを報道各社が一斉に報じた。いかにも正論居士の新浪らしい発言だ。

経団連・商工会議所からは異論が噴出

 新浪は「時給1,500円払わない経営者は失格」と断じたのであるが、新浪の発言には、同じ財界から異論が噴出した。

 日本財界の総本山である経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)は10月22日の記者会見で「挑戦的であってもいいが、達成不可能だというのは混乱を招くだけだ。あまり乱暴な議論はすべきではない」と苦言を呈した。11月26日の記者会見でも「とうてい不可能な目標を決めるのはいかがなものか」と石破首相にクギを指した。

 中小企業が多く加盟する日本商工会議所の小林健会頭(三菱商事相談役)も定例会見で、最低賃金でしか雇えない中小企業が地方に多く、そうした企業が地元の産業インフラを支えている現状に言及。そのうえで、「最低賃金は春闘の通常の賃上げと性質が異なる。大幅に引き上がると、マーケットから退出(倒産・廃業)してしまうことが大いにあり得る」と指摘した。

 経団連・商工会議所のトップの危惧を正論居士の新浪は意に介さない。「(人手不足の)今がチャンス。最低賃金を世界レベルに上げていかないと駄目だ」と持論を譲るつもりはさらさらない。

(つづく)

【森村和男】

傲慢経営者列伝(12)

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