【クローズアップ】年齢・性別・国籍不問の能力主義で躍動 次世代の成長をけん引する外国籍人材
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スリーアール(株)
ファブレスメーカーとして次々とヒット商品を飛ばし総合商社に変貌したスリーアール(株)。飛躍の源泉となっているのが、能力重視の多様な人材活用だ。越境(海外)ECなどを担う海外事業部で6カ国、全社で8カ国の外国人社員が力を発揮している。異なる年齢や性別の社員を含め多様な人材を駆使する同社の組織運営から、中小企業を襲う人手不足解決の糸口を探る。
新・ダイバーシティ経営企業 100選選出
スリーアール(株)は2019年に経済産業省が選定する「新・ダイバーシティ経営企業100選」の表彰を受けている。大手を含め九州の企業では唯一の選出だった。当時から外国籍人材の採用・定着に積極的だったことがわかるが、同社には背景に関わらず収益を生み出す人材を積極登用する風土がある。
同社の強みは商品企画から市場投入までを超短期で実施するスピード経営にある。「中国のシリコンバレー」と言われ、電子技術工場が集積する中国・深センの工場群に独自のネットワークをもち、デジタル顕微鏡や内視鏡など高質な商品を手頃な価格で売り出し業容を拡大してきた。当初、業務フローにおいて中国工場とのやり取りや重要な役割を担う部門で、外部の翻訳スタッフを活用していた。だがコミュニケーションの過程で発生する誤伝達によるタイムロスは即応型経営の同社には痛手だった。ほかにも海外の展示会に出展するなかで現地言語でのコミュニケーションの重要さを痛感することもあった。その結果、現地言語で交渉し意思決定可能な権限をもつ人材の内製化を考えるのは自然な流れだった。
外国人採用に舵を切った同社は、外国人留学生と連動したイベントを開催して知名度向上を図る一方で、外国人専用の人材紹介会社の活用やSNSを利用した採用活動を行った。18年には1人もいなかったがその後外国籍従業員を確保し、越境ECの本格展開を開始した。ただし現地の言語で発信できる体制が敷けたとはいえ、消費者の嗜好や商慣習、法律など市場環境は国によって異なる。当初は思うように成果は上がらなかった。国内市場で躍進を遂げる同社としては経営資源を国内に振り向け、一層成長スピードを上げる選択もあったとみられる。それでも同社は、海外事業部を将来の重点事業と位置づけ外国人人材が活躍できる環境整備に力を注いでいく。「今後の日本の人口減は確定している一方で、世界の人口は増えていく」(今村陽一社長)のは明白だったからだ。
自社ブランドの海外展開成功
「セカハン」でノウハウ提供越境ECでは「Made in Japan」の自社ブランドの海外展開にも挑戦している。約200種類からなる盆栽や生花の道具を取りそろえたブランド「和桜」は、日本を代表する刃物産地・新潟県燕三条市の工房に製造委託している。ほかには、お香やお茶、陶器の器をとおして日本文化の安らぎを提供するブランド「朝夕」も立ち上げ地道な販促に取り組んでいる。
20年ごろより売上が伸び始め、22年になると一気に急拡大した。事業部を統括する江本剛取締役は「コロナ禍で来日できない消費者が購入した側面があったが、何といってもそれまでの試行錯誤が実を結んだ」と成長過程を振り返る。現在はパシフィック盆栽博物館(米・ワシントン州)やベルギートップクラスの生け花組織など、海外の権威ある機関とパートナーシップを結ぶほど評価をあげている。人気インフルエンサーとも連携したマーケティングもあり現在は月間1,000丁を売り上げる剪定ハサミや、2,000個出荷するお香などヒット商品を生み出している。
同社はこうした経験を基に今年から、そのノウハウを外部提供する「セカハン」というサービスも開始した。海外AmazonでのEC進出をサポートするものでショッピングサイトへの出品申請、ページ制作、集客の仕掛けなどを一括して請け負う。マーケティングに加え自社の経験に基づく提案・アドバイスも行うことから単なる業務受託というより成功体験の共有サービスという見方もできる。現在も同社の国内市場の伸びしろは大きいが、外部環境は大きく変化した。インバウンド需要に日々圧倒される一方で、強烈な物価高や円安などが定着しつつある。「『海外に出ていけない中小企業は死にますよ』という時代になった」(今村社長)。現在、海外事業部は同社の売上の1割を担う事業に成長したが将来的には「セカハン」を含めた海外事業の売上比率を全体の50%に引き上げる方針を打ち出している。外国籍人材の役割はますます大きくなっていくことが確実だ。
責任・権限の移譲と柔軟な勤務体系を構築
現在、同社で勤務する外国人材の出身国はイギリス、中国など、多様な価値観が混在する。今村社長は「日本人だけの職場よりも『違い』が多いのは事実」と指摘する。また江本剛取締役も「感覚的な判断をする日本人社員と合理的・論理的な外国籍人材の意識の違いでスレ違いが起きることもある」という。しかし今村社長は「その違いこそが利益の源泉」と力を込める。似たような世代や背景の人材の集団はマネージメントしやすいが金太郎飴のような意見だけでは会社の発展は止まってしまう。同社は人事戦略において画一性を排することで生産性を上げてきた。
同社は人材が力を発揮しやすい環境をつくり、人材定着のために、定期的な面談や社内イベントへの家族の招待などを行ってきた。越境ECチームマネージャーは在日15年目のフランス人のフォー・ラファエル氏。同社に入社して、会社で取り組みたいこと、将来の目標、なりたい自分について聞かれたことに驚いたという。外国人だから特別視せず、日本人同様に1人ひとりと向き合う「フラットマネージメント」に徹していることに居心地の良さを感じている。ラファエル氏は以前日本の大手企業で海外展開に携わっていたが、「硬い」「ルールや残業が多い」という印象は否めなかった。しかし同社では、取り組んだ業務に対して即座に評価点、問題点を総括し改善後に成果を上げる。「自分の考えを理解してもらい、サポートしてもらったことが成果につながった」と振り返る。また、結果を出せば短期間で昇進する評価制度にも魅力を感じている。
同社ではほかにも3,400冊の蔵書を有する社内図書館「ヨマンネ」に、日本文化の紹介書籍や漫画なども配置することで日本的価値観への理解を深めてもらうことにも取り組んでいる。全社員を対象とした制度としては、事情に合わせて働く時間をカスタマイズする「カスタムワーク制度」も設置している。たとえば「早朝から夕方早く」や「週休3日のフルタイム」といった働き方も可能だ。子育て世代だけでなく生産性の高い外国人にとっても興味深い制度になっていくだろう。
同社は持ち味の柔軟性を生かしグループ企業を活用した展開も進めている。顕微鏡類などの販売を担うスリーアールソリューション(株)や太陽光発電関連のスリーアールエナジー(株)などがある。M&Aも駆使しており19年には日中貿易や中国進出コンサルタントを手がけるクレイオス(株)を、22年にはECのモバイルバッテリーで高い売上を上げる(株)SACDOTNETを買収している。状況によって各社の専門性を生かした独自展開と法人同士の垣根を越えた連携を使い分けトータルの成長を図っている。ビジネスの種も多様化させることで受け入れる人材の間口も広がっている。
多様な価値観と共通の仕事観の融合
同社海外事業部の人材は勤務先の選択基準はさまざまだ。ドイツ人のステファンさんは言語のハンデを感じる必要のない母国語や英語で業務できることから同社に応募した。香港人のハンナさんは前職のカスタマーサービスから新たな挑戦の場を求めて転職した。中米・エルサルバドル出身のアルマさんは組織としての信頼性の高さに魅力を感じたのが理由だ。
一方で会社の特徴には3人とも似た印象をもっている。挑戦する風土や成長機会の提供、適正な評価制度がやりがいを生み出しているのだ。背景に同社が国籍や性別でなく仕事に臨む価値観を採用基準にしていることがあげられる。もう1つ全員が口をそろえるのが、チームワークの良さだ。
ラファエル氏は「すれ違いが生じるのは相互理解がされていないから。私は自分自身の経験を交えながら、業務の目的、困難の乗り越え方などを説明しています。理解が進めば物事は一気に進んでいきます」とコミュニケーションに力を入れる。将来的にはヨーロッパ商品の日本展開など運営チームを増やし、子会社設立など事業部拡大を夢見ている。今村社長は外国籍人材について「そもそも日本好きが高じて来日している人たち。日本で働きたいのです。それぞれの文化や考え方を理解して受け入れれば必ず結果を出します」と語る。
ラファエル氏は社長や経営幹部とも意見交換できることに、メリットと魅力を感じているが、中小企業ならではのコミュニケーションともいえるだろう。同社の取り組みは、多様な人材に目を向けることで中小企業でも優秀な戦力を確保できる可能性があることを示している。
【鹿島譲二】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:今村陽一
所在地:福岡市博多区東光2-8-30
設 立:2001年5月
資本金:1,200万円
売上高:(24/3連結)約30億円法人名
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