傲慢経営者列伝(13)新浪剛史経済同友会代表幹事 物議を醸す正論居士の発言(中)
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「正論居士」という言葉がある。居士とは気質を指す。言っていることは正しいが感動を誘うものが何1つない。どのようなことにでも口を出してくる「うるさ型」だ。経済界きっての「正論居士」は、サントリーホールディングス社長で、経済同友会の新浪剛史代表幹事だろう。その新浪氏の発言が物議を醸している。(文中の敬称略)
万博の会場建設より、
能登半島地震の被災者対応を優先すべき三首脳のさや当ては、今回が初めてではない。今年1月5日、経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済三団体の年始恒例の共同記者会見があった。1月1日、能登半島で発生した大地震をめぐり、経済同友会代表幹事の新浪剛史は「今は大阪・関西万博の会場建設より、能登半島地震の被災者への対応を優先すべき」との認識を示したと報道各社が報じた。
これまで経済三団体は、大阪・関西万博を推進してきた。ところが、新浪は、建築資材や人材不足が震災復興の妨げになってはならないと考えている。「私ども(サントリー)も万博のスポンサーをやっていますが、そういうこと(人命第一)であれば万博の延期も理解します」とかなり踏み込んだ。
経団連の十倉雅和会長は「震災復興を一義的にやるとしても、(万博か震災復興の)二者択一だろうか」と述べた。日本商工会議所の小林健会頭は「万博も震災復興も両方やるべきだ」とし、万博を予定通り開催すべきだとの立場だ。
日本国際博覧会協会(万博協会)会長は十倉経団連会長、副会長は新浪経済同友会代表幹事。新浪が社長を務めるサントリーは協賛金15億円以上の「プラチナパートナー」として、万博の旗振り役を担っている。そのキーパーソンの口から万博延期論が飛び出したのだ。
経団連の十倉会長は1月9日の会見(年頭会見)でも、能登半島地震の被害が拡大するなか、来年4月開催の大阪・関西万博を延期すべきだとの指摘に対し、「どうして(万博開催と震災復興の)二項対立のように考えるのか分からない」と述べ、予定通り開催すべきだとの考えを強調した。
建築業界の人手不足が深刻化し、万博の準備によって震災復興の足かせになる懸念が出ていることについて、「万博も復興も両方やる」と繰り返したが、どうすれば両方が可能になるのかという具体的な手立てを示さなかった。被災地の復興がどの程度進めば万博開催に理解を得られると思うかの問いにも「仮定の話には答えられない」と突っぱねた。
経済同友会代表幹事に就任
経済同友会は2023年4月、通常総会を開き、任期を終える櫻田謙梧代表幹事(SOMPOホールディングス会長=24年3月退任)の後任として新浪剛史を選任した。
新浪は1959年1月30日、神奈川県横浜市に生まれる。81年慶應義塾大学経済学部を卒業し、三菱商事に入社。91年ハーバード大学経営大学院を修了(MBA取得)した。
三菱商事時代、ダイエー創業者の中内功から、コンビニエンスストアのローソン買収をもちかけられた。三菱商事で買収の検討会を開いたとき、リーダーは副社長(のち会長)の小島順彦。小島との出会いが、新浪のサラリーマン人生を決定づけた。
2002年にローソンの社長に就任。小島が新浪をローソンの社長に抜擢した。ここから新浪は「プロ経営者」の道を歩むことになる。
コンビニ事業の国際化に取り組んだ後、14年からサントリーホールディングスで創業家以外では初めてとなる社長を務めた。慶應の先輩である創業家の佐治信忠(現・会長)から「米ウイスキー・ジムビームを買収したから一緒にやろう」と誘われた。
新浪は自他ともに認める「体育会系」である。体育会系経営者の特徴はスポーツなら勝ち負け、経営なら業績(数字)と、ゴールがはっきりしていることだ。
(つづく)
【森村和男】
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