船井電機 魑魅魍魎が跋扈する倒産劇の奇々怪々(前)
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「魑魅魍魎が跋扈する」。これは得体の知れない人たちが好き勝手に振る舞うことを指す。AV機器メーカー・船井電機の倒産劇は、奇々怪々な出来事の連続だ。まさに「魑魅魍魎が跋扈する」という表現がピッタリである。(文中敬称略)
異例!破産した船井電機の民事再生申請
船井電機(大阪府大東市)をめぐる混乱は新たなフェーズに突入した。破産手続開始決定を受けた船井電機の代表取締役会長・原田義昭元環境相は12月2日、同社への民事再生法の適用を東京地裁に申請したと発表した。そして破産手続きは申請の要件を満たしておらず、グループ全体では債務超過でもないと主張した。
破産申し立ての理由となった船井の約117億円の債務超過については、約40ある子会社を含めたグループ全体で見れば200億円の資産超過だという。報道各社が一斉に報じた。
破産手続開始決定が後から取り消されたケースはほとんどなく、民事再生への切り替えもハードルが高いとみられている。破産会社の民事再生申請は異例中の異例の出来事だ。
破産した船井電機が親会社の破産申し立て
再建を目的とした民事再生とは、逆の動きもある。同日の報道によると、破産会社・船井電機の親会社であるFUNAI GROUP(旧・船井電機・ホールディングス)について、債権者が破産を申し立て、東京地裁が保全命令を出した。命令は11月21日付。親会社に対して債権を持つ船井電機の破産管財人を務める片山英二弁護士が、同社の名前で申し立てていた。負債額は258億9,200万円。
船井電機・ホールディングスは10月31日付でFUNAI GROUPに社名変更し本社を大阪府大東市から東京都千代田区に移した。傘下の事業会社は実質的に船井電機のみだった。
破産した船井電機会長の原田義昭は再建させるために民事再生を申し立て、船井電機の破産管財人の片山弁護士は親子ともども破産処理をはかるべく、親会社の破産を申し立てた。対応が真っ二つに割れたのである。不可解というほかはない。
前社長、船井電機の経営権を1円で譲渡
仰天するような記事を目にした。『朝日新聞』(12月3日付朝刊)は、破産手続き中の船井電機の上田智一前社長が退任直前の9月に同社の経営権を1円でファンドに売却していたことがわかった、と報じた。
記事によると、
〈9月27日、上田氏は船井電機の親会社の株式を集約した特別目的会社の全株式を「EFT株式ファンド」(東京都)に売却して社長を辞任した。(中略)ファンド側が支払った対価は1円だった。
契約にはこのほか、上田氏や上田氏が所有する別会社が船井側から借りた約11.7億円を返済しなくていいことや、上田氏の役員在任中の責任を追及しないこと、条件次第で上田氏が1円で全株式を買い戻せることも盛り込まれていた〉責任を追及しないことと引き換えに、1円で売り渡していた。つまり、逃げ切ったという記事だ。けったいというほかはない。
コンサルタントの上田が社長になる
前社長の上田は、1998年に青山学院大学国際政治学部を卒業、アンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)に入社。2008年、IT&経営コンサルティング会社・ボールドグロウス(東京都千代田区)を設立して社長に就任した。
上田は、M&Aの実績も豊富。15年12月、買収したコンピュータービジネス書籍の出版社、秀和システムの会長兼社長に就いた。船井電機のTOB(株式公開買い付け)を実施する母体になる。創業者の長男である医師の船井哲雄は父親が精魂を傾けてつくった船井電機の経営を創業者の知人から紹介された上田に託することを決断した。
秀和システムの完全子会社である秀和システムホールディングス(HD)がTOBを実施して成立。21年8月に上場廃止となり、株主は秀和システムHDと船井哲雄のみとなった。
脱毛サロン「ミュゼ」買収で墓穴を掘る
しかし、船井電機の再建は、M&Aの芸達者に手玉に取られて失敗に終わる。
時系列で追ってみよう。23年3月、持株会社体制に移行し、船井電機から船井電機ホールディングス(HD)に社名を変更。船井電機HDの傘下に「船井電機」が設立され、不動産を除く旧船井電機のすべての事業が継承された。さらなる躓きはここからだ。事業が悪化しているテレビ事業からの脱却を掲げ、23年4月、船井電機HDは脱毛サロン「ミュゼ」を展開するミュゼプラチナムを買収。美容事業を新たな柱に据えた。ところが、約1年後の24年3月にミュゼを売却している。これ以降、不可解な事柄が浮かび上がってくる。
「ミュゼ」は広告会社に対して約22億円の負債を抱えており、船井電機は連帯保証をした。この債務の返済が進まず、ネット広告会社が東京地裁に対し、船井電機株の仮差押えを申し立て、5月2日に仮差押さえ決定の発令を受けた。
また、24年3月に船井電機名義の本社と東京支店の不動産に対して創業家より100億円を超える根抵当権設定がなされた。
5月から役員の入れ替えが相次いだ。会員制情報誌『月刊FACTA』(24年9月号)は、
〈どすぐろい勢力に侵食された「船井電機」。外部から一挙に5人が取締役入り。しかも、貸し金業関係者など電機業界とは無縁の人物ばかり〉
と報じた。
(つづく)
【森村和男】
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