【連載】コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生(17)
-
元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
毎熊学兄との出会い ―修論2003より
平成9年(1997)春、大学院入学当初、手にしたのが、『行政改革の視点』(1996.増島俊之)であり、『行政改革』(1996.田中一昭)であった。増島氏は総務庁事務次官、田中氏は総務庁行政監察局長から行政改革委員会事務局長を務め、それぞれ、我が国戦後の行政改革の歴史の証人ともいうべき存在であり、豊富で真摯な実務経験に基づくテキストは、行政改革を一から考えようとした筆者にとって何よりの導きの書であった。(中略)そうした折、1997年5月15日の日経新聞「経済教室」において、宮川公男は『行革、理論的裏付け急務』と題し、「先進諸国では行政改革に関連して多くの理論的、実践的な研究があり、現実の改革の力となっている。」として、NPM理論を紹介したうえで「日本の行革論は理論的な裏付けが弱い。先進各国の経験に問題点を学んだ上で、経済学、経営学、行政学などの専門分野間の学際的な研究を急ぐべきである。」と訴えていた。この小論はいやが上にも、筆者自身の研究心を鼓舞し、やるべきことを強く示唆した。
そしてまた、筆者には貴重な学兄が誕生していた。当時博士後期課程1年の毎熊浩一君(現・島根大学法文学部教授)※である。彼は行政統制、行政責任論の立場からNPM理論に挑もうとしていた。学問的な考察の基礎ができつつあった彼の存在は、実務経験はあるものの学問的蓄積のない筆者にとって、何よりの道案内人となった。ゼミはもちろん、あるときはメールで、あるときはファミレスで、またあるときは学生街の居酒屋で大いに議論を交わしてきた。当時アングロサクソン系の臭いが鼻につくNPMであったが、「賛否はともかく、これを乗り越えられなければ、我が国の新たな行政改革への展望は開けない」と互いを励まし合っていた。
※毎熊学兄は、研究と実践の両立というスタイルを貫く原点には大学時代に出会った2人の存在があったとして、ゼミの教授の今里滋さんとともに、私を挙げてくれていた。「2人目は大学院の後輩、吉村慎一氏(現・福岡市職員)。後輩なのに20歳年上。社会経験豊かな吉村氏には、とにかく現場を連れまわされた。実際に福岡市長選挙では公約づくりのお手伝いも経験させてもらった。また、吉村氏を中心に、定期的な勉強会の場として「興志塾」を立ち上げ、みなで学び、みなで語り合い、みなで飲み明かした日々が懐かしい」(しまねいきいきねっと 2011.4)
『行政革命』との出会い ―修論2003より
オズボーンとゲーブラーの『Reinventing Government:行政革命』は文字通り革命の書である。クリントン政権における行政改革運動「ナショナル・パフォーマンス・レビュー:NPR」の発足のきっかけとなったのみならず、やがて海をわたって我が国で『行政革命』となり、三重県庁や福岡市役所などに「狭いが濃い影響」を与え、改革ドラマがそれぞれの地で「濃く」展開しているのである。
かの三重県庁の北川改革もこの『行政革命』から出発している。この翻訳出版をプロデュースしたJMAC構造改革推進セクター事業責任者である星野芳昭氏は、構造改革推進セクター・メールマガジン vol.1(2002年6月創刊号)『改革は人間ドラマ』のなかで、この間の「改革ドラマの誕生」を詳しく語っている。また、このメールマガジンには、その改革ドラマの主役の1人である梅田次郎氏(元三重県総合企画局理事)の『改革の真実』が連載されており、そのなかで、彼は『行政革命』との運命的な出会いを次のように語っている。
「『行政革命』として出版された1995年1月、私が行革担当責任者になったこと。その本をたまたまその1月のある日に本屋で見つけて読んで感心していたこと。その本は、日本能率協会グループの手によって翻訳されていて、私は何らかの関係をもちたいと思っていたこと。そんななかの4月、統一地方選挙で新しく北川知事が誕生し、2回目の行革の打合せのときに、北川知事が私の前にぽんと置いたメモが、「行政革命」の概要メモであったこと。北川知事が、民間企業の経営手法を入れたいとのことであったので、そのためにはコンサルタントを入れようということになり、「この『行政革命』を翻訳出版した日本能率協会グループに電話して頼んでみましょう」と私が言ったことが思い出されます。」
そして、筆者と『行政革命』との出会いは、平成9年(1997)の夏である。
当時、筆者は九大大学院法学研究科公法学専攻に入学していた。問題の関心はやはり行政学の分野であり、当時行政改革や官僚制に関する書籍は手あたり次第に購入していたといってよい。そうしたなか、実は『行政革命』は大学生協書籍部や市中の書店で何度も手にしていたにも拘わらず買わずにいた。翻訳本であること、値段が少々お高いこと(3,800円)などの理由もあったと思うが、今にして思えば、私の頭のなかも我が国行政学の特徴ともいわれる制度学の視点に重点があり、管理学の視点、効率性や能率性の追求、さらには行政サービスの受け手の顧客の視点からの行政の在り方など、まさにNPM的な視点に目が向いていなかったことがうかがわれる。その本がクリントン政権の改革の手本になったことなど、当時露程も知らなかったというのが実情である。
そのような折、指導教官である今里教授の「行政学特講」において、『行政革命』をテキストにゼミを進めること、クリントン政権の行政改革に強い影響をおよぼしていることなどの紹介を受けることになったのである。一読して、目から鱗の筆者にとって、「船を漕ぐより舵取りを」というキーコンセプトと同時に「はじめに」に紹介されたマルセル・プルーストの「発見という本当の冒険は新しい土地を見つけることではなく、新しい目で物を眺めてみることにある」という言葉が深く胸に染みこんだ。この言葉は、私に『行政革命』の読み方のみならず、NPM理論そのものへの接し方を教えてくれたように思う。福岡の地でも『行政革命』が1つの「改革のドラマ」を生んでいくことになる。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
https://azusashoin.shop-pro.jp/?pid=181693411関連キーワード
関連記事
2025年1月30日 17:002025年1月30日 13:002025年1月27日 16:402025年1月16日 16:402025年1月14日 16:202025年1月10日 10:402025年1月24日 18:10
最近の人気記事
週間アクセスランキング
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す