中国による台湾への軍事攻撃はありそうにない:足元の危うい習近平体制

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、2月21日付の記事を紹介する。

台湾 イメージ    アメリカの軍事専門家の間では「台湾有事が間近に迫っている」といった類の観測が専らのようです。そうした緊急事態に備えるためにも、アメリカからは日本に対して「防衛費の増額」や「アメリカ製の最新兵器の購入」を求める圧力が強まる一方となっています。

 トランプ大統領と初の首脳会談を行った石破首相も「インド太平洋地域では安全保障上の危険度が高まっているため、日米が共同対処する必要性も強まっている」との認識を明らかにしたばかりです。

 要は、アメリカ製の兵器をもっとたくさん買い入れ、対中抑止力を高めよという要求に他なりません。そして、アメリカの軍需産業にとっては「美味しい話」に他なりません。
 何しろ「戦争ほど儲かるビジネスはない」というのが彼らの発想法ですから。

 ウクライナ戦争を見ても、アメリカ主導のNATO軍が提供する武器や情報によってゼレンスキー大統領はロシアとの戦いを持ち応えているに過ぎません。これらの兵器はアメリカやイギリスの政府が軍需産業から購入し、ウクライナに渡しているわけで、欧米の軍需産業は戦争が続く限り、ウハウハ状態が続くわけです。

 さて、日本にとってはウクライナより台湾情勢が気になるところでしょう。問題は、中国に台湾を軍事的に掌握する力があるかどうかという点に尽きます。最大の課題は中国の人民解放軍の幹部と習近平国家主席との関係がこのところギクシャクしてきたことです。習近平体制が異例の3期目に入る頃から、外相や国防相、加えてロケット軍の司令官らが相次いで粛清され始めています。

 台湾への攻撃があるとすれば、先ずはロケット・ミサイルによる先制攻撃が行われるはずです。ところが、その精度が極めて怪しいとの指摘が相次いでいます。2022年8月、アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことへの抗議の意思表示のため中国軍は9発のミサイルを発射しました。しかし、そのうちの5発が日本の排他的経済水域内に落下したのです。これほど不名誉な大失態はありません。中国製のミサイルの品質と精度の悪さが世界に明らかになった瞬間でした。

 その背景にはロケット軍内の汚職問題があった模様です。共産党の装備発展部の幹部らと裏で手を結び、ロケット軍の司令官らが予算の中抜きで私腹を肥やしており、その影響でミサイルはじめ多くの精密誘導兵器の性能が劣化することになったと思われます。実は、軍幹部の間で不正蓄財が深刻化している模様です。そのため、習近平国家主席の怒りを買い、2023年以降、人民解放軍の高級幹部の9人がクビを切られたのも当然の成り行きかも知れません。そのうち5名はロケット軍の高級将校でした。

 実は、そうした習近平主席による綱紀粛正の大ナタは、人民解放軍の内部に「反習近平勢力」を生んでいる可能性があります。そのせいでしょうが、習主席は湖南省時代からの親しい陸軍の将軍を重宝し、軍への締め付けを強化し始めたわけです。しかし、結果的には陸軍と海軍の対立を生むことになり、現状ではロケット軍にしても、上陸作戦に欠かせない海軍との連携に支障が生じてしまっているようです。これでは台湾への軍事侵攻は「絵に描いた餅」といっても過言ではありません。

 毎年恒例の習近平国家主席による新年の演説ですが、意外な変化がありました。日本では全く話題になりませんでしたが、現状の中国の台湾への姿勢を反映しているに違いありません。

 何かと言えば、「中華民族の偉大な復興」というお決まりの表現が消えたことです。これまでは、できるできないに関係なく、はたまた軍事力を行使するしないに関わらず「台湾統一を成し遂げ、中国の偉大な祖国復興を成し遂げる」と気合を入れていました。そのお題目が欠落していることは、余程のことで、内部の統制が効かなくなっているものと推察されます。

 これでは軍事的に見ても、また内部抗争という政治的側面から判断しても、習近平体制下での台湾統一の可能性は極めて薄いものと言わざるを得ません。アメリカのトランプ大統領はCIAの中国分析チームを総動員して、習近平政権の内部対立の動きを掴み、あわよくば内部崩壊への道筋をつけようとしています。「近く習近平主席と直に会いたい」とさざ波を送っていますが、その裏では「習近平体制の終わりの始まり」を冷静に分析しているに違いありません。


著者:浜田和幸
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