健口から健康へ(2)舌は「動く内臓」!? その知られざる役割と驚きの影響
オーラルフレイルを防ぎ、全身の健康と美容を守る“舌の力”活用法
舌は「味を感じる器官」としておなじみですが、その役割はそれだけにとどまりません。実は「動く内臓」としてのユニークな特性をもち、全身の健康や姿勢にまで影響を与える重要な存在です。今回は、舌の驚くべき働きと、私たちの生活に与える効果について詳しくお伝えします。
舌は「動く内臓」?その特殊な仕組み
内臓といえば、心臓や腸のように私たちの意思では動かせない不随意筋(心筋や平滑筋)で構成された器官が一般的です。しかし、舌は例外で、内臓に分類されながら随意筋でできており、意識的に動かせる特別な性質をもっています。
舌は心臓や血管と同じ内臓系のグループに属しつつ、手足を動かす骨格筋のような自由度を併せもつ二面性が特徴です。この「動く内臓」としての特性が、舌を人体のなかでも際立った存在にしています。さらに注目すべきは、舌が体幹を支えるインナーマッスルとしても機能すること。舌を動かすことで首や背中の筋肉と連動し、全身のバランスや姿勢の安定に寄与します。
たとえば、舌をグルグルと円を描くように回す簡単な運動を日常に取り入れると、舌圧(舌を上アゴに押し付ける力)が向上します。これにより、握力の増加、血流の改善、さらには肩こりの軽減といった健康効果が期待できるのです。舌を鍛えることは、見た目以上に体幹トレーニングとして有効で、日々の生活の質を高める一歩になります。
舌の知られざる働き:食事から呼吸まで
舌の機能は味覚だけにとどまりません。食べ物を食道に運ぶプロセスでは、次の3段階で重要な役割をはたします。
1. 捕食(ホショク):食べ物を口に取り込み、安定させる。
2. 咀嚼(ソシャク):歯と協力して食べ物を噛み砕く。
3. 嚥下(エンゲ):食べ物を食道へと送り込む。
これらがスムーズに進まないと、食道や胃腸に負担がかかるだけでなく、舌圧の低下が「舌根沈下」(舌が喉に落ち込む状態)を引き起こし、気道が狭まって睡眠時無呼吸症候群のリスクを高める可能性があります。舌の筋力が弱ると、いびきや呼吸困難にもつながるため、侮れない影響力をもっています。
味覚と舌の尖端の秘密:小さなセンサーの力
舌の役割で最も知られているのは味覚ですが、とくに舌の尖端にある味蕾(みらい)に注目です。ここは塩味や苦味を敏感に感じ取り、味覚センサーの感度が上がると代謝の活性化や体の引き締め効果が期待できます。さらに、舌の尖端には蛇のように繊細な触覚センサーがあり、食べ物の質感や温度を瞬時に感知します。この能力が、食事を楽しむ感覚を豊かにしているのです。
舌の健康を保つには日常のケアが欠かせません。とくに「舌みがき」は効果的で、歯ブラシや舌クリーナーを使い、1日1回丁寧に行うことで味蕾の機能を維持し、口臭予防にも役立ちます。こうした習慣を取り入れ、舌の力を生かした「健口生活」を始めてみませんか?
次回も、舌と健康に関する新たな情報をお届けします。お楽しみに!
歯科医師 大村豊(おおむら・ゆたか)
1964年3月23日福岡県柳川市生まれ。福岡歯科大学卒業後、大学院で舌の発生学を研究。2002年10月に福岡市百道浜で大村歯科クリニックを開業し、予防歯学を重視した診療を展開。オーラルフレイルに早期から着目し、独自の口腔機能向上プログラムを通じて患者の生活の質向上を図る。現在も「口の健康が全身を支える」という信念のもと、研究と臨床の両面から口腔ケアの重要性を訴え続けている。