東京で開催された日中韓外相会議における水面下の交渉テーマ

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、3月28日付の記事を紹介する。

 日本と中国、韓国3か国の外相会談が3月22日、東京で開催されました。これは2023年11月、韓国の釜山(プサン) で開催されて以来のことです。議長は日本が務めました。岩屋外務大臣は「国際情勢は厳しさを増し、歴史の転換点にある。対話と協調を通じて、 分断と対立を乗り越える努力を行っていくことが、これまで以上に重要だ」と、3か国外相会議の意義を強調しました。

 実際、ウクライナ戦争もイスラエルとパレスチナのガザを巡る対立も終わりが見えません。国連など国際機関の調停も足並みが揃わないままです。戦争や環境破壊、更なる感染症の恐れなど、世界全体が危機的な状況に陥っています。かつての超大国アメリカの指導力は「カナダを51番目の州にする」とか「グリーンランドを買収する」とか、自己中心的な動きが目立ち、世界の安定と繁栄をもたらすような動きは期待できそうにありません。

 トランプ大統領に至っては「機能不全に陥っている国連からの脱退も辞さない」と国際社会と距離を置き、「アメリカ・ファースト」政策に固執しています。このままではアジアにおいても不安定な政治、経済状況が生まれる危険性が高まる一方です。そうした地球規模での危機的状況を回避、克服する上で、アジアの主要3か国が相互理解を深め、共通の課題への取り組みを連携、強化する場として、今回の日中韓外相会議は極めて時宜を得たもので、世界へ向けて建設的で前向きな 「未来図」を示す格好の場となったと思われます。

日中韓 イメージ    実は、本年の年頭、「日中韓3か国協力事務局」は2025年のキーワードとして「未来」を選出しました。日中韓3か国には漢字という共通の文化遺産もあります。3か国が未来志向で協力すれば、地域のみならず世界全体にとって山積する課題を克服するチャンスが生まれるはずです。

 安全保障環境が厳しくなり、環境破壊や自然災害の恐れも急増しています。軍事的対立の回避のためには防衛関係者の相互訪問はもちろん、防災の観点からも3か国の専門家が情報や体験を共有する必要があります。ウクライナの復興に関しても、3か国が提供できる地雷除去や農地の浄化やグリーン化など技術支援は欠かせない要素です。今回の会議でもウクライナ問題は最重要課題でした。

 要は、人類運命共同体という観点に立てば、3か国の協力はアジア太平洋地域に限定する必要はなく、地球規模での課題克服への足掛かりとすべきということです。ウクライナに関して言えば、これまで最大の貿易相手国は中国でした。オデッサには中国の総領事館もあり、ウクライナのインフラ整備事業に関わる中国人労働者の数は2万人を超えています。

 言うまでもなく、ウクライナにおける人的交流の面では中国は他国を圧倒してきたものです。留学生やエンジニアの数でも中国人がナンバーワンでした。そうした経緯もあり、 今回議論されたウクライナの復興支援事業においても、日中韓3か国の連携は欠かせないとの結論が得られたものです。

 また、今回の外相会議でも活発に議論されましたが、3か国は人口減少や高齢化といった共通の課題に直面しています。こうした課題の解決の可能性を秘めているのが先端医療技術や人工知能ロボットの活用に他なりません。

 そうした技術革新にはレアアースなど鉱物資源が必要です。中国はそうした鉱物資源に恵まれていますが、日本や韓国は海外依存度が高止まりしています。次世代産業をけん引する半導体や電気自動車の製造に欠かせない鉱物資源の共同開発、特に海底資源に関しては3か国の連携の重要度が増す一方です。今後はこの分野での協力が大いに期待されます。

 一方、核・ミサイル開発やロシアとの軍事協力を加速させる北朝鮮問題も、白熱した議論を呼びました。北朝鮮を非核化に向かわせるためには、金正恩体制にとってのアキレス腱である国内経済の停滞をいかに改善できるかが切り札になるはずです。その成否のカギを握るのが、北朝鮮の中ロ国境地帯に眠る大量のレアアースなど鉱物資源に他なりません。

 なぜなら、北朝鮮の独自の技術では探査も開発も「絵に描いた餅」に過ぎないからです。3か国が協力すれば、北朝鮮の地下資源を有効活用し、経済発展と政治的安定にも寄与する道が見出せる可能性が高まるに違いありません。あまり表ざたにはなっていませんが、日本朝鮮半島統治時代に現在の北朝鮮地域に眠っているとされる膨大な鉱物資源の調査を徹底的に実施していました。

 まさに「宝の山」へのアクセス情報は日本政府と三菱グループを筆頭に日本企業が今も大切に保管しているのです。これこそ、北朝鮮はもちろん、韓国や中国も喉から手が出るほど欲しがっている情報に他なりません。こうしたお宝情報を効果的に使えば、日本人拉致問題の解決にも突破口になるでしょう。今回の3か国外相会議の成果を受け、北朝鮮問題にも日本が主導する形で解決への新たな道筋が生まれることを期待します。


著者:浜田和幸
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