【経済事件簿】「なりすまし」型投資詐欺 -金融庁が注意喚起 多発する無登録ファンド投資詐欺
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日本人は長らく金融教育を十分に受けてこなかったため、金融リテラシーが低く、諸外国に比べて投資に消極的だと指摘されてきた。また、その点が日本経済の成長を阻害してきた面もあるといわれている。しかし、経済成長を続けてきたアメリカをはじめとする諸外国と、デフレに沈んで停滞してきた日本との経済格差が顕著になったことで、官民一体となって投資を促す動きが活発化している。NISAをはじめとする各種施策により個人投資家が増え、日経平均株価がバブル期の最高値を更新するなど、一定の成果も上がっている。一方、この投資ブームを悪用した詐欺も急増している。そのなかでも、とくに大胆な「なりすまし型」投資詐欺が出現しており、金融庁は無登録ファンドへの投資を含む詐欺被害に警鐘を鳴らしている。
正規業者の情報をパクり ウェブサイトで勧誘
金融庁は、無登録で金融商品取引業を行っているとして、GoldenStockCapital(株)を公式警告リストに掲載した。これは2025年1月の更新情報として公表されたもので、「ウェブサイト上で金融商品取引業を行う旨を表示したもの」として注意喚起がなされた。
さらにGoldenStockCapitalが、実在するWeCapital(株)の登録番号を不正に使用し、その所在地までも騙っている点が指摘された。これを受け、関東財務局は25年1月29日にGoldenStockCapitalに対する警告を公表した。
GoldenStockCapitalは自社サイト上で「金融商品取引業/関東財務局長(金商)第2768号(第二種金融商品取引業)」と表示し、正規の金融商品取引業者であるかのように装っていた。しかし、金融庁の調査によれば、これは実際にはWeCapitalの登録番号であり、同時にWeCapitalの所在地も自社の所在地として不正利用していたという。金融庁はこの行為を悪質な投資詐欺と認定し、警告している。この警告情報は警察庁や消費生活センターなど関連機関とも共有され、被害防止策に活用されている。
不正行為を最初に発見したのはWeCapitalであった。WeCapitalは24年11月20日に、社内メンバーがGoldenStockCapitalによるなりすましを確認し、即座に社内で情報を共有し、対応を開始した。翌21日には、公式ホームページや会員向けメールなどで偽サイトに関する注意喚起を行った。被害防止のため、数回にわたり偽サイトへ誘導された際のSNSスクリーンショットも公開した。
24年末までに、WeCapitalのカスタマーサポートにはGoldenStockCapitalによる被害の相談が合計17件寄せられた。WeCapitalはGoldenStockCapitalとの無関係を強調し、最寄りの警察署や金融庁の相談窓口への被害届提出を案内している。また、被害者からの損害補てん要求には応じられないことを表明し、被害防止のための広報活動を強化している。
WeCapitalは、詐欺被害者の通報を受けて警察および関東財務局にも報告し、25年1月29日に関東財務局からGoldenStockCapitalに対する公式の警告が出された経緯がある。また、WeCapitalは不正使用事例について、加入している(一社)第二種金融商品取引業協会にも情報を提供している。金融庁も証券取引等監視委員会や(一社)第二種金融商品取引業協会と連携し、通報窓口や相談ダイヤルを整備するなどの強化を図っている。
無登録業者の詐欺サイトは、正規登録番号を不正に使って権威性を高めようとするなど、一般の投資家が見抜きにくい手口を多用する。金融庁はウェブサイトで海外無登録業者のリストなども含め、具体例に基づく注意喚起を行っているが、国内でもGoldenStockCapitalのような事例が確認されているため、十分な警戒が必要である。投資家は、自社サイトに記載の登録番号や住所が正規のものであるかを金融庁の「登録業者名簿」で照合するなど、資金を投じる前に慎重な確認を行うべきだろう。
「なりすまし」サイトとの比較画像③ 参考資料として、今回の「なりすまし」WEBサイトの比較画像を掲載しておく。本物と見間違えそうなほど精巧なデザインに加え、実在しないはずの「経営幹部の写真」まで掲載するなど、その巧妙さには驚かされる。さらに、金融庁が警告を公表してからも、しばらくはサイトが変わらず公開され続けていた点も見過ごせない。
「なりすまし」サイトの実在しない経営幹部の写真 増加する無登録ファンドの 詐欺事件の数々
近年、日本国内で投資詐欺事件が相次いで摘発され、多くの被害が全国各地で浮き彫りとなっている。以下に、代表的な無登録ファンドの事件を紹介する。
東京都の投資コンサル会社「フリッチクエスト」による詐欺事件では、16年ごろから若年層を主なターゲットとし、「月利4%(年利48%)」という非常に高い利回りを強調して勧誘していた。
若年層が狙われやすかった背景として、「すぐに稼ぎたい」「手っ取り早くお金を増やしたい」という心理を巧みに突いていたことが挙げられる。実際には、投資先とされた海外法人には実体が乏しく、あとから集めた資金で既存出資者への配当を捻出するポンジ・スキーム的な構造が疑われた。16年から22年までに全国で3,378人から約200億円が集められた結果、23年に社長らが詐欺罪および金融商品取引法違反(無登録営業)で逮捕・起訴された。社長の森野広太被告に東京地裁は懲役7年、罰金300万円、法人に罰金300万円、両者連帯して6億8,900万円を追徴した(24年1月)。
一方、シンガポールに拠点を構える「スカイプレミアム インターナショナル」などを名乗るグループによる詐欺事件では、会員制クラブを装い、FX投資ファンドへの出資を募っていた。特徴的なのは、国内に複数の代理店や勧誘員を配置し、ピラミッド型のネットワークを拡大していった点である。説明会や投資セミナーでは「年利20~30%」や「運用実績9年」など、魅力的なフレーズを使用し、自由に出金できるかのような安心感を与えていた。
しかし実態は、日本から送金された投資資金が中南米の無登録業者によって運用を装っていただけとみられている。全国の投資家から約1,350億円が集まり、そのうち約790億円が行方不明となった。24年には最高経営責任者らが金融商品取引法違反(無登録で投資一任契約の媒介)で摘発され、各地で民事訴訟が提起されるなど社会的な波紋を呼んだ。最高経営責任者の斎藤篤史被告に福岡地裁は懲役3年、執行猶予5年、罰金500万円を言い渡した(24年7月)。
さらに、岡山や千葉に拠点をもつグループが19~20年にかけて無登録の海外集団投資ファンドへの出資を募集していた事件もある。首謀者は「海外の金融当局から正式に認可を得ている」と偽り、偽のライセンス証を使って勧誘を指示し、主に高齢者を対象に「元本保証」「高金利」といった甘言で勧誘を行った。
結果として、44都道府県で900人以上から総額54億円が集められた。この事件では、集めた資金の一部が勧誘側の報酬として支払われ、その比率は約30%に達した。また、主犯格の人物が住宅建築費に資金を流用した疑いも浮上し、警察や検察が全容解明を進めている。今年2月20日、岡山地検は金融商品取引法違反(無登録営業)の罪で主犯格の井上昴大容疑者を起訴した。
SNSやオンラインを 悪用するなど手法も高度化
近年では、SNSを利用した新たな手口も深刻な被害をもたらしている。大阪府警が摘発したグループでは、インスタグラムやLINEといったSNS上で“プロ投資家”を名乗る偽アカウントを運営し、投資コミュニティに誘い込む手口が用いられていた。
そこでは、「必勝情報」を詰め込んだ情報商材の販売やバイナリーオプション取引への勧誘が行われ、被害者は99人、被害総額は約1億1,300万円に上ったとされている。“確実に儲かる”“社畜からの脱出”といった若者の不安や願望を煽る宣伝文句を多用し、手軽な副業のように見せかけることで、多くの人々が警戒心をもたないまま資金を投じてしまったということだ。
これらの事例に共通するのは、「高配当」や「元本保証」といったうま味を強調し、公的機関や権威からの承認があるかのような偽装工作を行う点である。金融当局の認可証や既存業者の登録番号を不正使用するなど、公的なお墨付きを装うことで、投資家の疑念を払拭しようとする手口が繰り返し確認されている。
また、近年の詐欺では「劇場型」の手法も顕著であり、セミナーや親睦会の場を活動の中心とすることで、場の熱気や集団心理が冷静な判断を奪うことが多い。さらに、マルチ商法のように紹介者への報酬を高く設定することで勧誘ネットワークが拡大し、被害が全国規模に発展するケースも後を絶たない。
すでに注意喚起されている「GoldenStockCapital」をはじめ、巷には魅力的な数字やフレーズで投資家を引きつける怪しい勧誘が少なくない。投資とは本来、リスクとリターンのバランスが大前提である。もし高い利回りと元本保証が同時に提示されているならば、まずその真偽を疑い、金融庁や専門家への問い合わせを検討すべきだ。今後さらにSNSやオンラインでの勧誘手段が高度化する可能性を踏まえると、自ら情報を精査し、金融リテラシーを高める努力が求められている。
【特別取材班】
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