三菱商事は8日、子会社である三菱食品を完全子会社化すると発表した。現在、三菱商事は三菱食品の株式を50.11%保有する筆頭株主だが、株式公開買い付け(TOB)を通じて残りの株式を取得し、100%保有する方針だ。買収総額は約1,376億円で、TOB期間は5月9日から6月19日まで。東証スタンダード市場に上場する三菱食品は、完全子会社化にともない上場廃止となる見込みだ。この戦略的決定は、食品卸売業界の成長見通しが限定的な中、現行事業の革新が急務となる市場環境を背景としている。
日本の食品卸売市場は、人口減少や消費の成熟化により市場規模の拡大が難しく、競争激化や価格圧力が課題となっている。三菱食品のような業界大手であっても、単独での成長余地は縮小している。こうした環境下、三菱商事はグループ全体の経営資源を活用し、三菱食品の競争力を強化する方針を打ち出した。
完全子会社化により、三菱商事は三菱食品の経営を一層統括し、迅速な意思決定を可能にする。これにより、市場変化への柔軟な対応、新たな収益源の開拓、コスト構造の最適化を加速させる狙いがある。
食品業界は、デジタル化やサステナビリティ、消費者ニーズの多様化といった構造変化に直面している。こうした潮流に対応するには、従来のビジネスモデルやオペレーションの抜本的な見直しが必要不可欠だ。三菱食品は、単独での変革には資金や技術面での制約があるが、三菱商事の資本力やグローバルネットワークを活用することで、その海外顧客網を活用した日本食の輸出拡大や低温物流事業の展開を視野に入れている。
三菱商事は、完全子会社化を通じてグループ内でのシナジーを最大化する方針だ。現在の資本統治関係では、三菱食品は上場企業として少数株主や市場の期待に応える必要があるが、完全子会社化により短期的な市場圧力から解放され、長期視点での戦略実行や大胆な変革投資が可能になる。また、グローバルな調達網や他事業との連携を強化することで、三菱食品の事業基盤を拡充し、業界内での差別化を図る。三菱商事は、グループ内の食品スーパー(ライフコーポレーション)やコンビニエンスストア(ローソン)とのデータ連携を強化し、「データを活用した新たなビジネス基盤の構築」を目指すとしている。
三菱食品は、2025年3月期の連結純利益が前年比3%増の231億円と、4年連続で過去最高益を更新する見込みだが、人手不足や物流コストの増加、関税問題など、先行きの不確実性は高い。三菱商事のこの動きは、成熟市場での生き残りをかけ、変革を加速させるための戦略として評価される。
三菱商事と三菱食品は、今回の完全子会社化を機に、食品業界の新たなスタンダードを築くことができるのか。業界内外の注目が集まる。