人類と地球の未来を予言する現代版ノストラダムスたち(前)~その遺産と現代的利用
国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
ノストラダムスとは誰か
──詩人・医師・予言者の複合的肖像
皆さん、「ノストラダムス」という名前を聞いたことはありますか?16世紀にフランスで活躍した医師にして占星術師です。予言者として名をはせましたが、人類の歴史をひもとき、「時代や場所が変わっても、人間の営みは同じで、必ず似たようなことが繰り返される」と喝破。とくに、戦争や自然災害、感染症などの惨事は、いつの時代にも起きるものであるから、「一喜一憂することなく、日ごろから備えを怠らないことが肝心だ」と述べていました。
後世の人々のために、過去の歴史を踏まえて、未来志向で行き抜くためのヒントとして多様な解釈ができる1,000を超える四行詩を多言語で書き残しています。それ以外にも農業や商業に役立つ暦や医学書も執筆し、そうした教えを実践するため欧州各地を回っていました。
言い換えれば、未来の人間に対する純粋な警鐘、警告を発し続けたわけで、未来を知るための羅針盤を提供した人物と言っても過言ではありません。彼の予言の詩には「広島、長崎への原爆投下」や「ケネディ大統領の暗殺」、はたまた「9・11テロ」など、後に現実のものになったと解釈されるものが数多く含まれています。
利用される予言──大衆の不安とビジネスの結託
とはいえ、どの時代にあっても「ノストラダムス」という他を圧倒する予言者の名声を利用しようとする輩は、人々の抱いている不安感をあおってきました。実際、ノストラダムスという名前はある種、独り歩きをするかのように後世に伝わっています。
彼が書き残したとされる予言を今日的に分析したと銘打った書が世に出るたびに大変な話題となります。日本でも『ノストラダムスの大予言』がシリーズで出版され、累計1,000万部近い大ベストセラーとなりました。小生も最近、『封印されたノストラダムス:世界崩壊の黙示録』(ビジネス社)を出版し、国際政治の観点から客観的にノストラダムスの予言を検証していますので、ご一読いただければ幸いです。
ところで、世界ではノストラダムスの名前を用いて「予言ビジネス」を始めるという流れが続いています。そうした利に敏い人間たちは、「ノストラダムス・ビジネス」が彼の死後の長きにわたって生き続けるように布石を打ってきました。
たとえば、今日、世界経済を陰で牛耳る投資ファンドのなかには人々の不安や猜疑心をあおり、「ノストラダムスのエッセンスをうまく使いこなして大もうけしよう」という発想から自分たちのビジネスに活用しています。他にも彼の四行詩の一部分に都合の良い解釈を加えて人々の不安心理に付け込もうとする政府機関や犯罪組織もあるようです。とくに、戦時下や災害時には、そうしたケースが多々見られます。
結果的に、彼の予言は人々を不安のどん底に叩き落とすためには極めて使い勝手の良い道具となってしまっています。恐らくノストラダムスはあの世で、「俺の名前を使ってひともうけしようなんて、こすっからくないか。俺なんか、いろいろな人たちから感謝され、そのお礼として受け取った金品はすべて貧しい人々に無償で施したものだ。四行詩を通じて、これからの人類や地球にプラスのメッセージを残したのに、後世の連中はまったく違う方向を目指しているようだ」と嘆いているのではないでしょうか。
ノストラダムス協会と
世界の“ノストラダモロジスト”たち
アメリカには1997年に誕生した「ノストラダムス協会」という組織があります。この協会はノストラダムスの歴史的業績を派手にPRして、「これから世界がどう変化していくのか」を予測するサービスを主な仕事としており、いわば未来コンサルタント業です。
アメリカ経済、ひいては世界経済はどう変わっていくのか。また、インフレがどんどん進行するなかで、今後どういうところに投資をすればいいのか。ウクライナ戦争はいつどんなかたちで収束するのか、あるいは収束しないのか。もし戦争が継続するとなると、どういうところに投資をすると高い配当が得られるのか。それは軍事産業なのか、穀物産業なのか、それともレアアース産業なのか。
トランプ大統領の言いたい放題の「ビジネス・ディール」政策の着地点はどこなのか。世界を巻き込む関税戦争はどんな企業に有利に働くことになるのか。こうした疑問にノストラダムスの予言を巧みに利用して答えを引き出しています。
そのうえで、「会員になっていただくと、もっと詳しい具体的なアドバイスが得られますよ」という宣伝にも熱心に取り組んでいます。もちろん、ノストラダムス協会以外にもノストラダムスの名前を利用してひともうけしようという組織や個人は世界各地で活動中です。これらは総称として「ノストラダモロジスト」と呼ばれています。
日本では見かけませんが、アメリカ、カナダ、ブラジル、インド、イギリス、ロシア、中国など各地で「現代のノストラダムス」と自称あるいは他称されている予言者が数多く活動しています。彼らも自らのビジネスに生かすという観点でノストラダムスの名前を利用していることは否定できません。トランプ大統領も自らを「アメリカの黄金時代をもたらす現代のノストラダムスだ」といったように自己PRに使っているほどです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。