人類と地球の未来を予言する現代版ノストラダムスたち(後)~現代の予言者たちの功罪
国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
クシャル・クマールとインド占星術の政治予測
では、世界で活動中の「現代のノストラダムス」について、その実態を見てみましょう。現在、世界で異彩を放っている予言者といえば、インド人のクシャル・クマール氏とブラジル人のアトス・サロメ氏が双璧といえます。
クマール氏はヒンズー教特有の「カルマ」に立脚した占星術を駆使して、世界で起きる対立や戦争の行方を占っています。これまでも「イスラエルとハマス間の戦い」「中国と台湾の対立と緊張の激化」「ロシアとウクライナの戦争の勃発」などを予言してきました。とはいえ、「天体観測によれば、第3次世界大戦が2024年6月18日に起きる」という予言は見事に外れています。このところ、インドとパキスタンの対立が核戦争に発展し、第3次大戦につながるのではないかとの懸念が広がっていますが、この点については言及がありません。
また、「25年には新たな感染症が発生し、世界的に健康医療問題が深刻化する」「トランプ大統領は宇宙制覇を目指すが、国内経済が停滞し財政悪化が深刻化するため宇宙開発は足踏み状態となる」「アメリカは海洋資源や宇宙の開発を加速させたいが自力では難しくなり、同盟国との連携に頼らざるを得なくなる」といった見通しも宣伝。しかし、こうした見通しや予言の多くは抽象的で、確たる裏付けはありません。
アトス・サロメの予言とデジタル時代の戦争観
一方のサロメ氏ですが、クマール氏と同様、「第3次世界大戦が間もなく勃発する」と予言していますが、具体的な日時や場所は曖昧にしています。これまでの実績とされている予言としては、「コロナウイルスの蔓延」「イーロン・マスク氏によるツイッターの買収」「エリザベス女王の逝去」「サイバー戦争の激化」「トランプ大統領の復活」などがあります。
「兵士同士による戦場での戦いからデジタル武装化したハッカーによる攻撃の応酬がこれからの戦争の主流になる」とも述べていますが、いずれも国際政治や軍事問題の専門家が指摘している通りで、「常識の範囲内」としかいえません。現在進行形の「ウクライナ戦争」についても、サロメ氏曰く「先端的な軍事技術が戦争を激化、長期化させる」「プーチンもゼレンスキーも非人道的な兵器の使用に傾いているが、ロシアのほうが戦争をより悲惨な方向に追いやるだろう」。いずれの予言も日々のニュース解説の域を超える物とはいえません。
ババ・ヴァンガ
──バルカン半島が生んだ異能の予言者
こうした「現代のノストラダムス」と比べれば、ごく最近まで世界を釘付けにしてきた「バルカン半島のノストラダムス」と呼ばれたババ・ヴァンガは異彩を放つ存在でした。しかも、予言ビジネスを、生まれ育ったブルガリアからロシアにまで広めたことで他の予言者とは大違いです。
1911年、ブルガリアに生を受けた女性です。「ババ」とはブルガリア語で「おばあちゃん」という意味。彼女は12歳のときに竜巻に飲み込まれ、激しい砂嵐で両目を傷つけられ失明し、盲目となってしまいました。しかし、それがきっかけで予知能力が身に付いたとのこと。本人曰く「普通の人間には見えない不思議な生き物が未来の出来事を予知夢として教えてくれるようになりました」。
視力を失った彼女は盲学校に通い、点字を修得し、ピアノ、織物、料理の技能も身に付けたのです。ところが貧しい生活であったため、栄養不足になり、胸膜炎になってしまい、医者からは「もうじき命が尽きるだろう」と見放されました。しかし、奇跡的に病気を克服し、元気を取り戻します。その不思議な生命力も彼女の評判を呼ぶことにつながりました。
その後、彼女の元を訪ねる人々が増え始め、彼女の予知能力は多くの人々の興味と関心を引き起こしました。その評判を聞きつけ、何とアドルフ・ヒトラーやレオニード・ブレジネフなど有名な政治家も次々と訪ねてきたようです。
何しろ、彼女の予言の的中率は80%を超えているとのこと。「第2次世界大戦の勃発」「チェルノブイリ原発事故」「ソビエト連邦の崩壊」「ダイアナ妃の事故死」「9・11テロ」「福島第一原発事故」「武漢ウイルスの流行」などきりがありません。
とくに彼女の名声を高めたのが「9・11テロ」の予言でした。89年に彼女は「恐ろしいことが起きる!」と叫んだそうです。そして周りの人々に向かって「アメリカの巨大なタワーに鉄の鳥が衝突して崩壊する。藪から狼たちが襲い掛かり、無辜の民の血が大量に流される」。
ババ・ヴァンガの予言を信じる人々の間では「鉄の鳥たちはハイジャックされた旅客機のことで、巨大なタワーとは世界貿易センタービルのこと」と解釈されています。しかも、「藪」は「ブッシュ」と表現されていたため、「当時のアメリカのブッシュ大統領がテロリストへの復讐を宣言する」という意味も込められていたとまで拡大解釈がされたものです。
また、「プーチン大統領がヨーロッパを制覇する」との近未来図も語っており、話題を呼びました。曰く「ロシアではさまざまな芸術家が台頭し、新たな啓示が誕生する。彼らはヒマラヤに未来の理想郷を建設する」とまで予言。そこに込められていた思いは「ロシアから新しい文明が生まれ、東西文明の橋渡し役を演じる。その結果、人類が生まれ変わるキッカケになるだろう」という確信に近いもの。プーチン大統領は大いに励まされたようです。
とはいえ、そうしたロシア発の新世界を見届けることなく彼女は96年に乳がんで死亡。彼女の死後、ブルガリア政府はその予言の多くを国家機密扱いにし、封印しました。政府として彼女の非公開の予言を分析し、国家運営や対外政策の参考にしようとしたわけです。
というのも、ババ・ヴァンガの予言のなかには「プーチン大統領への暗殺の試みがロシア人によって仕掛けられる」といった政治的に機微な内容も数多くあったからです。しかし、2014年に政権が交代したため、予言の一部が解禁されるようになりました。一部の特権階級の手中に隠ぺいされていた彼女の予言が公になったわけです。ブルガリア政府の肝いりで、「国立ババ・ヴァンガ記念館」も建設され、「観光資源」にもなりました。
実は、ノストラダムスの言動と共通する点も多く、ババ・ヴァンガは「地球規模の環境悪化」「第3次世界大戦の勃発」「深刻な感染症」など数多くの予言を残しているのです。たとえば、彼女の予言からは「25年、ヨーロッパで大規模な戦争が起きる。破壊と苦しみが多くの人々にとって想像を絶する危機に陥れる」との警告が読み取れます。
要は、ウクライナ戦争が停戦ではなく、拡大するとの見立てに他なりません。実際、トランプ大統領はプーチン大統領との間で戦争終結へのディールを試みていますが、ゼレンスキー大統領は「ウクライナを無視した停戦交渉には応じられない。ウクライナが必要としているのは領土の割譲ではなく、ロシアを潰すための核ミサイルだ」と強硬姿勢です。
5月15日にトルコで計画されていたロシアとウクライナの停戦協議はプーチン大統領が参加せず、物別れに終わりました。これではヨーロッパが核戦争の舞台になる可能性が日増しに高まるばかりです。そもそも、ウクライナがいまだにロシアの軍門に下っていないのはアメリカを中心とするNATO諸国からの情報と武器の提供のおかげ。ゼレンスキー大統領の求めるような核兵器が提供されることになれば、第3次世界大戦は避けられないはず。ババ・ヴァンガの予言する「ヨーロッパでの核戦争」が現実のものとならないことを祈るばかりです。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。