【マックス健康講座】健口から健康へ(4)

舌圧と握力の関係:オーラルフレイルを防ぐ“舌の力”

 舌は「味を感じる器官」としておなじみですが、その役割はそれだけにとどまりません。実は「動く内臓」としてのユニークな特性をもち、全身の健康や姿勢にまで影響を与える重要な存在です。今回は、舌の驚くべき働きと、私たちの生活に与える効果について詳しくお伝えします。

舌圧が健康寿命の鍵

 オーラルフレイル、つまり口の機能低下は、噛む力や飲み込む力の衰えが全身の健康や美容を損なう重大な問題です。口腔機能が衰えると栄養不足や姿勢の崩れ、さらには認知機能の低下を招き、健康寿命が縮まります。顔のたるみやほうれい線もその影響です。現役歯科医師として、私は舌圧を鍛えることが、身体の恒常性(ホメオスタシス)と神経系の調和を保ち、健康寿命を延ばす鍵だと確信しています。舌は食べ物を噛んだり飲み込んだりする重要な役割を担っていて、迷走神経を刺激して自律神経のバランスを整えます。これにより心拍変動が改善し、ストレス軽減や免疫力向上が期待できます。

舌圧と握力の正の相関

 舌圧が下がると握力も低下します。研究では舌圧と握力に正の相関があり、舌の筋力低下が全身の筋機能や姿勢に影響することがわかっています(日本摂食嚥下リハビリテーション学会、2015年)。握力低下は生活の質や心血管リスクと関連し、早めの対策が必要です。同様に、足指の握力(足趾握持力)も重要です。足指の力が弱まると地面を蹴る力が低下し、歩行や体力に影響します。舌圧トレーニングは脳の運動野を刺激し、足指力や体幹を強化、転倒予防につながります。

舌圧の劣化を防ぐ方法

 では、舌圧の劣化をどう防ぐか。連載第3回では舌まわしを紹介しました。口を閉じ、舌を歯の外側に沿って10回回転(1日2セット)することで舌筋が強化されます。第4回の今回は、舌まわしに加え、筋肉を伸ばす(伸展)ストレッチを提案します。伸展は可動域を広げ、筋バランスを整え、ホメオスタシスを支えます。「握る(屈曲)」ではなく「伸ばす」ことが、舌圧や全身の筋力を高めるカギです。

 指のストレッチでは、指を1本ずつ、握る方向とは逆に、手の甲側に向かって第3関節まで10秒伸ばします(1日1セット)。このとき、反対の手で指を軽く押さえて伸ばすと効果的です。これで手の筋肉の柔軟性が向上し、握力の土台が強化されます。足指も同様に、裸足で1本ずつ、足の甲側に向かって第3関節まで10秒伸ばします(1日1セット)。足趾握持力が向上し、地面反発力が高まり、体力や姿勢が改善します。

指を1本ずつ手の甲側に10秒伸ばす
指を1本ずつ手の甲側に10秒伸ばす

 舌圧トレーニングは、握力や足指力を高め、筋肉と神経系の調和を促します。1日5分の舌まわしとストレッチで、ホメオスタシスを保ち、ケガや疲れにくい身体をつくれます。美容効果も期待でき、顔の筋肉が引き締まります。次回は「口呼吸の恐ろしさ」をお届けします。


歯科医師 大村豊(おおむら・ゆたか)
大村歯科クリニック 歯科医師 大村豊 氏1964年3月23日福岡県柳川市生まれ。福岡歯科大学卒業後、大学院で舌の発生学を研究。2002年10月に福岡市百道浜で大村歯科クリニックを開業し、予防歯学を重視した診療を展開。オーラルフレイルに早期から着目し、独自の口腔機能向上プログラムを通じて患者の生活の質向上を図る。現在も「口の健康が全身を支える」という信念のもと、研究と臨床の両面から口腔ケアの重要性を訴え続けている。

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