財務省が流布するデマゴギー

政治経済学者 植草一秀

石破首相が辞任すると報道されたが石破首相が否定した。しかし、石破首相は辞任に追い込まれる。「美学」があるなら醜態を晒すべきでない。菅直人氏の二の舞になる。勝敗ラインを驚愕の低位に設定したのだから、これを割り込んだ以上、弁明の余地はない。自民党内の圧力で石破氏は辞任に追い込まれる。

今回参院選は次の三点で総括される。第一は石破内閣に対する不信任。参院選は125の議席をめぐって争われた。そのうち、石破内閣与党が獲得したのは47。125の過半数は63。政権与党であるから63獲得して、初めて信任と言える。47は明確な「不信任」である。

第二は財務省主導減税封殺主張への「NO」。石破首相は減税案を頭ごなしに否定した。立憲民主党も「しょぼい減税案」しか提示しなかった。背後で糸を引いたのは財務省。しかし、財務省は緊縮財政を主導していない。財務省が主導しているのは「利権財政」。庶民をないがしろにして「利権財政」を放置する財務省路線が否定された。

第三はインフレ誘導政策への「NO」。黒田日銀はインフレ誘導を2023年まで継続した。インフレを誘導し、賃金上昇を誘導すると主張してきた。日銀は2%インフレを目指すとしたが現実化したのは4%インフレ。目標をはるかに超えるインフレが発生してしまった。だが、黒田東彦氏は2023年の任期満了までインフレ誘導の旗を振り続けた。岸田首相は「賃上げ」を叫び、「賃上げ」が実現したと喧伝したが、問題は実質賃金だ。賃金が上昇しても物価上昇が上回れば実質賃金は減少する。現実の実質賃金は減少を続けたままなのだ。

「物価高対策」が叫ばれたことは「インフレ誘導政策」が間違いだったことを証明するもの。参院選結果は「インフレ誘導政策」に対するNOの意思表示だった。参政、国民は若年労働者層の不満に焦点を合わせて支持を吸引する作戦を展開。参政、国民の提示した政策はまったく実効性を上げていないが支持を吸収することだけは成功した。

財務省が「TPR」工作を展開して各方面から財政政策発動を阻止するための情報発信を仕組んでいる。しかし、財務省の主張は完全に失当。そもそも、政府の財務状況を判定するのに、借金の規模だけを取り上げることが幼稚園並みの誤り。

『財務省と日銀 日本を衰退させたカルトの正体』
http://x.gd/nvmU9
ぜひご高覧賜りたい。

7月22日のアマゾンレビュー投稿から紹介させていただく。
「著者は若いころから公式な政策提言を行い、植田現日銀総裁と共同研究も行った第一級の経済学者です。メディアに登場する権力側に都合の良い言論を行う多くの言論屋と異なり真実を語る言論人であり、真実=権力側に不都合、であるため策謀により表舞台からは排除されました。命の危険に晒されたこともあるでしょう。この著書では、35年の長きにわたって日本が衰退を続け、いまだ回復の兆しもないことの真の理由と有用な処方箋が説かれています。
日本衰退の真因を表すワードをいくつか挙げれば、新自由主義経済政策=弱肉強食、消費税増税と大企業法人税減税+富裕層所得税減税、財務省による与野党政治屋への利権予算配分による買収(例えば、野田佳彦さん)、消費税減税論には財源が問われる一方で大企業への補助金には財源は問われない、等々です。
これらの、財務省と財務省に買収された政治屋による権力側に都合のよい政策の結果、政府資産(政府負債より大きいのですよ。財政破綻のリスクはありません)と大企業の利益・内部留保が積みあがる一方、一般生活者の購買力はやせ細り中間層は絶滅しました。この事実を多くの日本在住者(日本人ではありません、日本に住む人です)が知り、真のリベラルな政策を行う政治家を育てるような投票行動をしない限り、日本が再び輝くときが来ることはありません。」

投稿者の「これもまた過ぎ去る」さまには深く感謝申し上げたい。真実の情報をより多くの人に届けるために、アマゾンへレビューへの投稿をぜひお願い申し上げたい。

財務省が財政健全化のために歳出抑制を一貫して唱えてきているなら財政赤字削減阻止の主張に耳を傾けてもいい。しかし、財務省の行動は歳出抑制=財政赤字拡大阻止を一貫して求めるものになっていない。ここに財務省の欺瞞がある。どういうことか。私は「利権財政」と「権利財政」という言葉で説明している。
「利権財政」とは「利権に結び付く財政」のこと。これと対峙するのが「権利財政」。財政の役割は「資源配分」と「所得再分配」。「資源配分」とは、本当に必要な対象に適正に財政支出を振り向けること。「所得再分配」とは資力の大きな人や企業に負担を求め、すべての国民に最低限の生活を保障すること。日本国憲法はすべての国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営めること」を保障している。「生存権」を基本的人権として保障している。これが20世紀が生み出した最重要のルール=価値=思想である。この基本的人権を保障するための財政を「権利財政」と呼んでいる。

財務省の基本は「権利財政」圧縮と「利権財政」拡張である。財政赤字拡大を防ぐため、「利権財政」拡大を阻止するなら財務省の主張にも理解を示せる。しかし、現実には「利権財政」拡張は完全に野放し=容認=推進。ところが、「権利財政」になると態度が一変。1円たりとも拡張を許さないという姿勢に変わる。

「高額療養費制度改悪」で25年度に削ろうとした財政支出は100億円。これを見送るべきだとの主張に対して「財源を示せ」と迫った。テレビ朝日「報道ステーション」司会の大越健介氏も財務省の指導に基づいて発言したと思われる。わずか100億円の負担増でも「財源、財源」と叫んだ。他方、20年度のコロナ補正予算では73兆円がバラまかれた。13兆円の一律給付金以外は「利権財政」の塊。その財源は全額が国債発行だった。しかし、「財源」という声は一切聞かれなかった。

財務省は社会保障のための財政支出と消費税減税のときだけ「財源、財源」と叫ぶ。20年度から24年度の4年間に一般会計国税収入は16.7兆円も増えた(定額減税分を含む)。1年に16.7兆円も税負担が増えた。10年では167兆円。国民の税負担が増えるのだから「増税」と表現できる。こんなに税金を吸い上げれば経済は悪化する。まずは167兆円の増税分を国民に返すことから始めるべきだ。

私は放漫財政を主張したことは一度もない。財政規律が重要との主張を変えたことは一度もない。1997年も2001年も2014年も2019年も、一貫して主張したのは、「行き過ぎた緊縮財政は間違いだ」との主張だ。このすべてのケースで、日本経済は撃墜された。「政策逆噴射による日本経済撃墜」だ。

今回参院選で「利権財政拡張を放置しながら権利財政を圧縮する」という財務省路線を提示した自公立の3党が敗北。他方、インフレが進行しているのだから長期金利が上昇するのは当然。財務省は日本の長期金利上昇が積極財政政策への警告シグナルだとする「デマゴギー」をメディアと御用発言者に指令して流布しているが、長期金利上昇は財務省が誘導したインフレ誘導政策の副作用に過ぎない。誤情報に惑わされぬよう拙著をぜひ熟読賜りたいと思う。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
ブ ロ グ「植草一秀の『知られざる真実』
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』

関連記事