【行政動向最前線】悪質商法の排除に尽力する適格消費者団体の現状と課題 市民マラソン「申込規約」改善など多数の実績

~消費者支援機構福岡(CSOふくおか)・黒木理事長に聞く~

 不特定多数の消費者の利益を守るため、不当な表示・勧誘などに対して差止請求を行う「適格消費者団体」。これまでに26団体が内閣総理大臣から認定されている。これに加え、消費者の被害を回復するために活動する「特定適格消費者団体」として4団体がある。福岡では、NPO法人消費者支援機構福岡(CSOふくおか)が2012年11月に適格消費者団体として認定された。これまでの取り組みや今後の展望について、CSOふくおかの黒木和彰理事長(弁護士)に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)

全国で11番目 適格消費者団体

CSOふくおか・黒木和彰理事長
CSOふくおか 黒木和彰 理事長

    ──CSOふくおかでは、福岡の市民にとっても事業者にとっても、重要な活動を展開されていますね。一方、市民や事業者には、まだまだ活動内容が十分に伝わっていないように感じています。

 黒木和彰氏(以下、黒木) まず、適格消費者団体とは、どのような団体なのかをお話しします。適格消費者団体は、事業者が行う不当な表示、不当な勧誘、不当な規約条項の使用などに対し、差止請求を行うことができます。消費者1人では、請求することが難しい問題について、適格消費者団体が消費者被害を生む不当な行為をやめるように、事業者へ問い合わせたり、申し入れたりします。そうした活動で解決できない場合には、訴訟を起こすことも可能です。

 適格消費者団体の法的根拠は消費者契約法です。消費者契約法は、消費者と事業者の間に情報と交渉力の格差があって対等でないことから、それを埋めるために民法の特例法として制定されたものです。

 適格消費者団体は消費者契約法、景品表示法、特定商取引法、食品表示法に違反する不当な行為を対象に活動しています。たとえば景品表示法については、所管する消費者庁のマンパワーが限られています。そのため、課徴金の対象となるような大型の事案を重視する傾向にあります。課徴金納付命令が出ると、事業者にとってダメージが大きいからです。しかし、行政による取り締まりだけでは、横行する不当な行為に対応しきれないため、全国に現在26団体ある適格消費者団体が活動しています。

 今後検討される取り組みとして、個人情報保護法に基づく差止請求があり、改正法案が次期国会へ提出されると言われています。たとえば、事業者が保管する個人情報が流出した場合、それぞれの消費者に対して500円分のクオカード1枚を送付して済ますケースが多いですよね。しかし、被害によっては500円では済まない場合もあります。個人情報保護法に差止請求と被害回復が盛り込まれれば、被害回復を目的とした訴訟ができる特定適格消費者団体が対応することになります。

 ──CSOふくおかの設立経緯を聞かせてください。

 黒木 当団体は2009年9月に設立され、12年11月に内閣総理大臣から全国で11番目となる適格消費者団体として認定を受けました。

 当時、賃貸借契約で敷金が勝手に引かれる問題などがありましたが、消費者1人ひとりが少額訴訟を起こすことは非現実的です。ほかにも、大学入学金の返還をめぐる問題や、景品表示法に違反する広告の問題などもありました。そうしたさまざまな問題に対処するために活動を開始し、現在に至っています。

関連トラブルが増加 退職代行サービス

 ──これまでの主な活動内容を紹介してください。

 黒木 これまでに多くの案件を扱ってきました。たとえば、行政が主催する市民マラソンのキャンセル料をめぐる問題もその1つです。マラソン大会の「申込規約」に、天候などの理由で主催者側が一方的にキャンセル料を徴収できる旨が記載されていたのですが、これはおかしな話であり、全額を返還すべきです。もちろん、参加者が自己都合で参加しない場合はわかるのですが…。そこで、福岡市や北九州市に申し入れを行った結果、すでに「申込規約」は改善されています。

 (司)杉山事務所の案件では、クレジットカード・キャッシングサービスで過払い金があるかどうかが不確かなのに、過払い金の発生が当然だとか、09年に『週刊ダイヤモンド』でナンバーワンだったからといって、今もナンバーワン表示を使い続けるとか、そのような表示を市営地下鉄の車内広告で行っていました。そうした表示は市民に誤認を与えるのではないかということで、申し入れ活動を経て、現在、差止請求訴訟を行っているところです。
 また、納骨堂などの運営事業者の規約についても、改善を求める活動を行いました。契約後に納入金を支払った場合、一切返金しないと定めていたため、改善を申し入れた結果、当団体の要請に沿って規約が改定されました。

 ──最近増加している消費者トラブルは?

 黒木 労働契約の流動化を背景に、退職代行サービス事業者が増加し、それにともなってトラブルも増えています。労働法と消費者契約法や特定商取引法の観点から、多くの問題点があります。非弁行為の問題も絡み、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に該当し得るのではないかという考え方もあります。詳細についてはまだお話しできませんが、対応を検討しているところです。

 たとえば、福岡市内の企業に勤める労働者が、東京の退職代行サービス事業者に依頼するというケースがあります。労働組合に加入したという主張をしているのですが、その労働組合が実在するのか、窓口となる退職代行サービス事業者の立ち位置はどこか、といった疑問があります。退職代行サービス事業者は企業へ通知を送るだけで、あとのことは知らないという態度を取ることもあります。企業にとっては、いきなり退職届が送られてきて、業務の引き継ぎや給与の清算をどうするかといった問題もあり、トラブルの原因となっています。

 このほか、美容医療やエステサービスの契約、機能性表示食品や健康食品の表示などでも、消費者トラブルが多いですね。

 ──消費者トラブルの情報はどこから入ってくるのですか。

 黒木 基本的には、当団体ホームページの「情報提供・相談受付」や電話(092-292-9301)で、情報・相談を受け付けています。また、トラブルに遭った消費者に対し、法律に基づく助言やアドバイスを行う電話相談を無料で実施しています。

公正取引協議会と連携は可能

CSOふくおか・黒木和彰理事長    ──企業や行政との連携はどのような状況にありますか?

 黒木 たとえば、全国家庭電気製品公正取引協議会という団体がありますが、これは消費者庁が認可した団体で、業界の自主ルールとなる公正競争規約を運用しています。同協議会への参加は強制ではなく、参加した事業者は公正競争規約の順守が求められます。

 私は、競争政策と消費者保護政策は矛盾しないと考えています。きちんとした事業者が健全な市場を形成し、消費者にベネフィットを与えることは、消費者にとって何の問題もありません。その一方で、ルールを守らず利益を追求する極悪層といわれる事業者もいて、グレーなビジネスを行ったり、違法だとわかっていても処分件数が少ないことから不当な行為を行ったりしています。悪質事業者は強制的に市場から排除することが必要で、消費者にとっても真面目な事業者にとってもプラスとなります。つまり、競争政策と消費者保護政策は矛盾しないといえます。

 この観点に立てば、健全な取り組みを行う事業者を評価し、公正取引協議会に参加している事業者と適格消費者団体が連携することは問題ないと考えています。

 また、福岡でも特定商取引法の違反事件などが起こります。そうした事件は、個々の消費者から寄せられる情報だけでは見えてこないことも多く、行政からの情報によってわかることがあります。このため、一定のルールを設けて、適格消費者団体が行政情報を得られるように、行政と情報交換ができるようにすべきだと思います。

 ──市場の健全性を守るうえで事業者とのパイプも重要と思いますが、たとえばCSOふくおかで事業者の広告をチェックすることなども可能でしょうか?

 黒木 広告については、公正競争規約を運用する公正取引協議会のように、国が法律に基づいて認定した団体に参画している事業者の広告ならば信用できると思います。そうした事業者の広告が、インターネットの検索連動型広告で上位に表示されるような仕組みが必要となるでしょう。

 当団体が特定の営利団体の広告について、景表法上の問題がないかを営利団体からの依頼によりチェックすることについては、営利企業との距離感が問題となります。個別の事業者の問題を取り扱うようになると、当団体の立ち位置が難しくなってしまいます。
 一方、当団体では、(一社)ダークパターン対策協会が運営する認定制度の「認定審査機関」として、同協会から受任する審査業務を開始する予定です。これにより、消費者を騙す「ダークパターン」と呼ばれるインターネット上の手法を排除していく予定です。

被害回復に向けて特定適格消費者団体へ

 ──差止請求を行う際に、制度面で足かせとなっていることはありますか?ほかの適格消費者団体からは、景品表示法の不実証広告規制の権限付与を求める声も聞かれます。

 黒木 それは永遠の課題ですよ。もちろん、不実証広告規制の権限があればよいのですが、適格消費者団体に権限を広げることは憲法論との関係で厳しいと考えています。

 それよりも、深刻な問題は人材と活動資金の確保です。適格消費者団体を取り巻く課題については、内閣府の消費者委員会でも意見交換したのですが、各団体から「やりがい詐欺」という声が聞かれました。

 私たちが申し入れた事業者の顧問弁護士は、企業からフィーをもらって活動しているのですが、適格消費者団体の弁護士は、消費者のために活動しているという“やりがい”のみで、フィーは発生しません。このため、適格消費者団体を担う次世代の人材をどう確保していくのか、活動の公益性によるやりがいだけで団体の活動を持続できるのか、という点が最大の課題に浮上しています。

 やりがいがあっても、次世代の人たちがこの先何年も続けていくことは、つらいかもしれませんね。せめて持ち出しではなく、プラマイゼロとなるような仕組みを考えていかなければ、自ずと限界が訪れるでしょう。

 もう1つ、消費者の被害を回復するための活動ができる特定適格消費者団体の数を増やすことも課題です。特定適格消費者団体として現在、東京・大阪・埼玉・北海道の4団体が認定されています。

 ここ福岡にも悪質事業者が存在します。特定商取引法に違反して行政処分を受けても、消費者には返金されない状況にあり、事業者にとっては“やり得”となっています。

 被害を受けた消費者1人ひとりが、個別に事業者を相手取って訴訟を起こすことは、被害額と裁判費用を考えると現実的ではありません。そこで、特定適格消費者団体が複数の被害者を代表して事業者に返金を申し入れたり、提訴したりして、消費者の財産的な被害を回復させることになります。

 ──最後に、今後の展望を聞かせてください。

 黒木 当団体では、特定適格消費者団体として認定されることを目指したいと思っています。そのためには、マンパワーや会員数の問題などを解決しなければなりません。25年度の重要課題として取り組んでいきます。

 行政は違法行為を止めることはできますが、過去に生じた消費者被害を回復することも重要です。課題はありますが、ここ福岡で当団体が消費者の被害を回復できるようにしていきたいです。

【文・構成:木村祐作】


<プロフィール>
黒木和彰
(くろき・かずあき)
1985年九州大学法学部卒、89年弁護士登録(福岡県弁護士会)、94年九州大学修士課程修了。2012年から福岡県弁護士会消費者委員会委員長を3期務め、日本弁護士連合会で消費者問題対策委員会委員長やCOVID-19対策本部幹事などを歴任。21年9月から内閣府第7次消費者委員会委員、23年9月から第8次消費者委員会委員を務める。NPO法人消費者支援機構福岡理事長、(弁)黒木・内田法律事務所代表社員。『Q&A 消費者から見た改正民法』(共著)など著書多数。


<INFORMATION>
内閣総理大臣認定 適格消費者団体
NPO法人 消費者支援機構福岡(CSOふくおか)

情報提供・相談受付:https://www.cso-fukuoka.net/uketsuke

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