縄文アイヌ研究会 主宰 澤田健一
8月20日から26日の6泊7日で北部九州を回って、とても有意義な見分を広げてきた。その旅行記を簡単に記す。
8月20日(水)午前10時過ぎに福岡空港からレンタカーで佐世保に向かう。佐世保市博物館島瀬美術センターで開催されていた「発掘された日本列島2025展」を見学。列島展はここをスタートとして日本各地で開催されていく予定となっている。日本全国の出土物が並べられており、とてもすばらしい企画だった。
見学後には安田恭子館長にコーヒーをごちそうになりながら近隣の洞窟遺跡のお話をうかがい、翌日の見学コースを決めた。また、泉福寺洞窟はまだ見に行けるとのご助言をいただき、早速見学に向かった。大小さまざまな穴があり、祭壇や燈台に使ったのではないかと思われる個所もあり、旧石器時代の人の気分になって想像を膨らませた。
8月21日(木)、福井洞窟ミュージアムを見学。北海道と同じ黒曜石の細石刃などがあり、当時は日本全国で技術交流があったことを実感した。また旧石器時代のヒグマの分布南限が九州にまでおよんでいたことを知った。札幌辺りまではナウマンゾウがやってきたのだとも。当時の津軽海峡は狭まっており、泳いで渡れたのかと理解した。ちなみにヒグマは意外と泳ぎが得意らしい。
その後、直谷岩陰遺跡、福井洞窟、橋川内洞窟を見学。明らかに人工的な造作と思われる個所があり、洞窟のなかに入って当時の生活の様子を思い浮かべた。
お昼は島瀬美術センター近くのおしゃれな喫茶店で安田館長と待ち合わせ、おいしい料理と会話を楽しんだ。その後も洞窟を回り、少し早めにホテルに戻り明日からの計画を立てた。
8月22日(金)、菜畑遺跡(佐賀県唐津市)にある末盧館を見学。復元された赤米の展示があり、北海道で最初に栽培された赤毛と呼ばれる品種と同じ特徴が見られた。毛が逆立っており、赤毛を収穫するとき手が痛かったという話を聞くが、菜畑の稲も同じように見えた。また菜畑では豚の頭部を用いた動物祭祀が行われており、縄文のイノシシ信仰の名残が見て取れた。
午後3時頃に押戸石の丘(熊本県阿蘇郡南小国町)にて、澤井直明さんが主催されている八王子人材育成歴史市民塾の御一行と合流。大岩には約4,000年前のシュメール文字がペトログラフとして刻まれていると説明されている。ここは古代の天文観測台ではないかと思われる。はさみ石の狭間が、夏至に太陽が昇り、冬至に太陽が沈む地点になっていて、巨石群の中心をなす「押戸石(おしといし)」の頂点の真北には北極星がある。この押戸石は磁石を近づけて動かすと針がぐるぐる回る。とても不思議に思ったのは、携帯電話の簡易コンパスというソフトの針もぐるぐる回ったことである。ソフトの方位は磁気を測定しているのではなくGPSからの信号だと思われるのだが、なぜそれがぐるぐる回るのだろうか?
夜は情緒あふれる黒川温泉にて、炉端を囲んで豪華な夕食を楽しんだ。北海道にはない伝統的な風景の温泉街で、とても素敵だった。
8月23日(土)、弊立神宮に向かって移動。この日は5年に一度の大きな五色神祭があり、全国各地から大勢の人が詰めかけていた。弊立神宮には五色の人面が奉納されており、説明によると、赤人=ユダヤ人、アメリカのインディアン、アラビアやエジプトの人、黄人=日本人、中国人、朝鮮人などのアジアモンゴロイド系民族、青人=北欧人やスラブ人、白人=欧州のコーカソイド、黒人=インド、アフリカ、パプアニューギニア圏やメラネシアの民とのこと。太古の日本民族が世界中の民族と交流していた証である。
なお、登母祖公園( 熊本県阿蘇郡高森町)にストーンサークルがあることを初めて知った。東北や北海道には多くのストーンサークルがあり、全国の約7割が秋田県にあるという。それが阿蘇にもあった。やはり現地を訪れると多くの情報が得られる。
夜は博多にて今回もまた(株)データ・マックスの児玉直会長に素敵なお食事をごちそうになった。初めて食べる水炊きはとてもおいしかった。栄養をたっぷり付けさせていただき、心から感謝している。
8月24日(日)、朝からフェリーで壱岐島へと向かう。壱岐市立一支国博物館(長崎県埋蔵文化財センター)を見学。国内唯一の人面石など珍しい一支国の遺物を見て回った。午後からは一支国の王都であった原の辻遺跡を見学。ここでは弥生時代になっても縄文時代のアンギンを編んでいて、子どもの甕棺葬も行われている。北海道と北部九州は弥生時代に深い交流が指摘されており、同じ縄文技術が継承されていたことを確認できた。集落の復元がされており『魏志倭人伝』の世界を肌で感じた。
8月25日(月)、板付遺跡見学。弥生の水田が復元されていて、田ごとに筑紫赤米、種子島、ピンク米などの板札が立っていた。数棟の竪穴住居も復元されており、周囲をV字形に掘り込まれた環濠で囲まれている。弥生時代の農村を実感できた。
午後からは春日市奴国の丘歴史資料館と須玖岡本遺跡を見学、奴国の王都である。ここでつくられた青銅器が西日本各地に広く分布している。青銅器や銅器の鋳型が展示されており、古代から技術立国であったことが実感できた。
8月26日(火)、九州国立博物館(福岡県太宰府市)で「九州の国宝」展を見学。岡倉天心肝いりの九博は巨大なスケールに圧倒される。復元された金銅の太刀の大きさと荘厳さに目を奪われた。東北に十字架のかたちをした板状土偶があることは知っていたが、九州には祭祀具である十字形石製品があることを知った。
帰りには隣接する太宰府天満宮に参拝してから福岡空港に向かう。夕方の便で福岡を後にした。とても実りの多い北部九州旅行となった。