住商混在する西鉄沿線エリア 大橋&高宮

 ともに西鉄天神大牟田線の駅を中心とし、都心部・天神からの交通利便性の高さによって、それぞれが住宅と商業が入り組んだ土地利用となっている南区の大橋エリアと高宮エリア。同じ西鉄沿線という立地であり、隣接する駅同士でありながらも、それぞれが微妙に異なるエリア特性を有している。今回は両エリアの概要をそれぞれ見ていこう。

高宮エリア

高宮駅の一部をリニューアルへ

 西日本鉄道(株)(西鉄)が発表している天神大牟田線(本線および太宰府線)の駅別乗降人員(24年度1日平均)によれば、高宮駅の平均乗降人員は1日平均2万1,044人で、これは久留米駅に次いで7番目に多い数となっている。一方で、高宮駅が現在の高架駅となったのが1978年。築47年以上が経過しており、老朽化への対応が不可欠となっている。

 こうしたなかで、西鉄は23年3月に発表した第16次中期経営計画(23~25年度)の目標達成に向けて、必要な施策の追加・修正を反映させた25年度計画を新たに策定。同計画内の「『リアルな場』提供サービス」の項目に、高宮駅改札外コンコースリニューアルが明記された。

 西鉄によれば、高宮駅2階のコンコース(広場)がリニューアルされる(トイレの改修も見込む)とのことだが、先行して耐震工事が進められている同駅隣接の高宮西鉄名店街と合わせて、リニューアル完了後の同駅の印象は大きく変わるものと考えられる。なお、耐震工事は同駅側の高架下に飲食店が軒を連ねる「味のみちくさ通り」でも進められている(26年3月末完了予定)。新たな駅広場は26年春オープン予定となっており、すでに定期券発売窓口や紳士・婦人靴などの修理店・リペアランドは閉店している。テナントを含め、高宮駅の利用客が行き交う駅広場がどのような空間に生まれ変わるのか、動向が注目される。

隣接エリアは大楠・平尾など

 高宮エリアは、福岡市中央区平尾、同南区大楠などと隣接している。西鉄大牟田線の隣駅は平尾駅と大橋駅になる。中央区と南区の結節点ともいえる立地特性から、相応の交通利便性が確保されており、たとえば西鉄電車で大橋駅まで移動し、そこから西鉄バスのららぽーと福岡直行バスを利用することで、博多南エリア(那珂や竹下など)へも容易に足を運ぶことができる。中央区、南区、博多南エリアを生活圏にできる高宮は、生活拠点として人気のエリアとなっている。

 21年6月末時点と25年6月末時点の校区人口を比較すると(福岡市公表・登録人口(校区別)参照)、平尾駅と高宮駅の間にある西高宮校区の世帯数は8,727世帯から9,374世帯へ、人口は1万7,672人から1万8,492人へ増加。大宮(平尾隣接)、那の川(大楠隣接)などが属している、平尾駅と薬院駅の間にある高宮校区の世帯数は9,901世帯から1万915世帯へ、人口は1万4,099人から1万5,113人へ増加している。

 高宮校区に住所としての高宮は属していないが、明治時代の町村制施行に際して、かつての高宮村や平尾村などが合併し、那珂川郡八幡村が誕生した歴史がある。また、飛鳥時代から平安時代にかけて創建・社殿の造営がなされたと伝えられる高宮八幡宮の「高宮」は、高神様(位の高い神様)が降りてこられた地にある、高貴な神社という意味の高宮に由来する。これが後に村名にも採用され、現在に至るまで地名として残されている。高宮八幡宮は那珂郡十七ヶ村の惣産土(そううぶすな)とされており、対象となる十七ヶ村は高宮、平尾、野間、若久、屋形原、野多目、和田、老司、塩原、清水、日佐、那珂、竹下、春日、安徳、馬出、堅粕で、かなり広範囲におよんでいることがわかる。西鉄電車や西鉄バスといった交通網の充実から南区および中央区、博多区の一部を生活圏に収める高宮は、その成り立ちからも、中央区、博多区の一部との親和性が高かったことがうかがい知れる。

※惣産土(そううぶすな):特定の地域全体を包括する「総」としての産土神(うぶすながみ)で、対象の地域に生まれたすべての人々を守護する神様。 ^

丘陵の下に広がる閑静な住宅地

 高宮駅西口を出た先にあるのは、丘陵の下に広がる閑静な住宅街。丘陵を上っていくと、住宅街を見渡せる高宮浄水場がある。住宅街には憩いの場として福海公園があるほか、マンションの1階部分にはクリニックや美容室、飲食店がテナントとして入居しているケースが多い。何より高宮駅ではスーパー・にしてつストア高宮店やボンラパス高宮店、高架沿いや高宮通り沿いではアウトレットショップやスイーツなど、多彩な店舗で構成された高宮商店街が営業しており、生活利便性は相応に高い。

 住居の形態は戸建が目立つが、高宮通り沿いにはマンションが林立している。高宮駅東口を出た先は西口とは異なり、平坦地に住宅街が広がる。大楠と接するこのエリアには、憩いの場として盤瀬公園があるほか、日赤通り沿いにはマクドナルドやくら寿司など、ロードサイド店舗が軒を連ねる。高宮駅西口から先は高宮八幡宮の存在もあり、住宅街のなかに鳥居が佇む静謐な雰囲気が感じられる一方、東口から先は飲食店などが集積した築60年以上のレトロアパート・あさだ荘や、隠れ家的なレストランや居酒屋がある大楠の魅力も相まって、静けさと活気が混在したエリアとなっている。なお、東口の目の前にあった渋谷レディーズクリニックの跡地は東宝住宅(株)が取得しており、動向が注目される。

 高宮エリアは、高宮中学校をはじめ、福岡第一高等学校や第一薬科大学付属高等学校などが周囲に点在する文教地区でもある。住宅地が整備され、教育環境を重視するファミリー層が戸建住宅を購入している。現在も一戸建の新築工事が散見され、域内人口は今後も増加傾向で推移するものと推察される。戸建は2階建がほとんどであり、玄関を2つ備えた完全分離型の二世帯住宅も少なくない。資産価値だけでなく、家族で長く住み継いでいくための使用価値を重視した家づくりからも、高宮は暮らしやすいまちというエリアブランドを確立しているといえ、これまで築き上げてきた地域特性を維持したうえでの、さらなる発展が期待される。

(了)

【代源太朗】

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