【経済事件簿】契約不履行、出資トラブル、労務放置が相次ぎ発覚 地方創生掲げるHEARTSグループに厳しい声

 旅行業を軸にバス・タクシー、飲食・物流など多様な事業を展開するHEARTSグループ。代表が「64社、総従業員数2,500名」の業容を擁すると喧伝する一大グループだ。だが同グループをめぐっては、支払遅延や労務処理の不備、出資トラブルなどが相次いで顕在化。一部は訴訟に発展し、企業運営の在り方が問われる事態となっている。

物流拠点から退去拒否
子会社のトラブルは訴訟へ

 HEARTSグループが2024年にM&Aによって傘下に収めた運送会社・(株)英真トランスポート(福岡市)で、買収後に複数の支払いトラブルが発生している。かつては10億円規模の年商を誇り、荷主との取引で安定した物流体制を築いてきた企業だったが、M&A後の経営体制の混乱により、取引業者の撤退や賃料の滞納といった信用問題が表面化している。

 支払遅延は複数の仕入先・協力業者に拡がっている。分割払いを求めたり「財務確認中」「事務手続きが整っていない」などの名目で支払いを先送りにする対応が相次ぎ、複数の運送業者はすでに取引を打ち切った。物流網の要である協力会社の離脱は、英真トランスポートの運行体制そのものを揺るがしている。

 25年7月には英真トランスポートに物流倉庫を賃貸していた企業が英真トランスポートを提訴。建物明け渡しや損害賠償など約7,000万円の支払いを求めている。訴状によれば、両社は21年に倉庫賃貸契約を締結し、22年9月から契約していたが、24年4月と5月に英真トランスポートによる賃料の滞納が発生した。その後、謝罪と再発防止を約束した英真トランスポートは、再度滞納が発生した場合、契約解除する旨の合意書を交わした。

 25年4月末に再び未納が発生。これを受けて貸主は契約解除を通知した。これに対して英真トランスポートの親会社・(株)HEARTSホールディングスも貸主に文書を送付。その内容は、HEARTSホールディングスが英真トランスポートをM&Aした際に合意書に関する引き継ぎがなされておらず契約の詳細が不明だったこと。合意書に関する情報提供を求めるものだった。貸主は合意書の写しをHEARTS側に送付し、改めて原状復帰と建物の明け渡しを求めた。

 しかし、その後約1カ月経過しても英真トランスポートが退去しなかったため、貸主は再度英真トランスポートに文書を送付。この間に一部の入金があったものの、必要額には不足していることに加え、合意書の存在を理由に退去を求めた。この際、貸主は即座に退去すれば損害金や違約金の免除を検討する条件も提示していた。それでも英真トランスポートは退去しなかった。

 さらに弁護士を通じて貸主企業に文書を送付。「契約不履行は、M&Aに関連して株式の保有権をめぐって紛争が発生し、HEARTSグループが新たに株主として傘下に収めた後も、債務の全容を正確に把握できない状態にあったことに起因する」と主張。そのうえで、「現在は紛争が一応の決着を見ており、新たな経営陣のもとで契約履行に責任をもって取り組む」として契約の継続を求めた。ここに至って貸主企業はもはや話し合いでの解決は不可能と判断し、英真トランスポートを提訴するに至った。被告となった英真トランスポートは裁判所に提出した答弁書で、退去せず損害金を支払わない方針で争う姿勢を示している。

「やずや」との係争は5年目突入

 英真トランスポート以外のグループも近年法的トラブルを抱えていた。訴額は数千万円から数億円規模におよび、単なる商取引上のトラブルにとどまらず、資金使途や契約実態をめぐる問題が争われている。

 長期化しているのが、健康食品の通信販売大手「やずや」との訴訟である。先にHEARTSが提訴し、やずやが反訴している。訴状によると発端は18年、HEARTSがやずやから13億4,000万円の融資を受けたことに始まる。借入金の使い道は、福岡市アイランドシティでの商業施設開発のためのSPC(特定目的会社)への出資で、HEARTSはこの事業に参画していた。このときやずやはリスクに備えてHEARTSがもつ“優先出資持分”に担保を設定していた。

 その翌年、やずやは「HEARTSが資金を本来の目的と異なる用途に使った」として契約違反を主張し、担保していた出資権を取得する“質権実行”の手続きを行った。やずやはこの出資権を10億円と評価し、自らの債権と相殺した。だがHEARTS側はこの評価に強く反発。「出資権の価値は少なくとも25億円に相当し、やずやは過剰に資産を持ち去った」と主張した。さらに質権実行後、HEARTSがやずやに2,168万円を支払ったが、これについても「すでに債務がなかったにもかかわらず誤って支払ってしまった」として返還を求めて提訴した。これに対し、やずや側は「HEARTSにはなお返済義務が残っている」と反論。逆にHEARTSに対し4億円超の支払いを求める反訴を行っている。

 訴訟では、「出資権の評価額」「契約違反はあったのか」「支払った2,100万円は返すべきか」など複数の論点が争われており、係争は5年目に突入している。

相次ぐ資金提供者との法廷闘争

工事代金を巡り訴訟となったHEARTSバスステーション博多
工事代金を巡り訴訟となった
HEARTSバスステーション博多

    19年6月にも大手住宅メーカー傘下の建設会社がHEARTSの未払い金をめぐり提訴している。訴状によるとHEARTSが運営する「HEARTSバスステーション博多」(博多区博多駅前4丁目)の内装工事を請け負った同社は、工事費総額約4億8,000万円のうち、約1億円が支払われていないとして請求訴訟を提起。HEARTS側は「工事が完成していない」「追加工事の合意もない」などとし、逆に1.5億円超の瑕疵損害を主張して相殺を図ろうとした。この訴訟は22年には民事調停に移行しており、その後の推移が見えなくなった。

 代表・戸島匡宣氏が個人として被告となった出資トラブルもある。22年6月、福岡市の不動産業者が、中洲のカプセルホテルの共同経営事業について戸島氏と(株)ハーツレジデンスを提訴したもの。訴状によると、20年3月、戸島氏が不動産会社に対し「カプセルホテル事業を5,000万円で譲り受ける予定があるので、その受け皿となるハーツレジデンス社の株式を49%持ってほしい」と勧誘。不動産会社は2,500万円を振り込み、追加での出資もした。だが、のちの調査で、事業の譲受先は別の関連会社((株)HEARTSリージョナルデベロップメント)であり、しかも譲渡価格は「無償」であったことが判明した。不動産会社は「出資の前提が虚偽だった」として提訴。今年3月に和解が成立し、不動産会社保有の株式を390万円で戸島氏に譲渡し、解決金110万円をHEARTS側が支払うことで決着した。

 そして20年4月には、免税店運営会社が、HEARTSと戸島氏を相手取り、6億円の資金預託をめぐる詐欺・不法行為訴訟を提起した。預けた資金は、やずやの事案と同じく、アイランドシティにおける優先出資に充てる目的で合意されたものだった。しかし、免税店運営会社は後に「出資は実行されず、資金がHEARTS側に流用された」と主張。加えて、関連する不動産へのテナント入居をめぐり、HEARTSがテナント募集権限をもっていないにもかかわらず「偽の予約契約書」を提示し、4,700万円超の予約金を騙し取られたとして損害賠償を請求した。HEARTSは「6億円は出資に使用した」などと主張して争われた。この訴訟も22年9月に民事調停に以降したことでその後の推移は見えなくなったが、現在、免税店運営会社は運営会社と契約しアイランドシティで営業を行っている。

 やずや、不動産会社、免税店運営会社、いずれもHEARTSグループに資金を提供した立場でありながら、契約内容と実態の食い違いや情報の不開示、資金の使途不明確といった問題に直面し係争に発展している。

元社員が語る
現場の無責任構造

 英真トランスポートをめぐる支払いトラブルの裏側では、外部の取引先だけでなく、グループ内部で働く社員も、労務対応の不誠実さに直面していた。25年春、わずか2カ月間だけHEARTSホールディングスの経営企画部に在籍していた元社員は同社代表戸島氏への憤りを隠さない。

 この元社員は、先述の貸主企業との倉庫賃貸契約トラブルに対応する立場にあった。5月10日にはHEARTS名義で貸主に文書送付を担当した。先述した「英真トランスポートのM&Aに際して、旧経営陣時代に交わされた合意書が引き継がれておらず、内容が確認できないため写しを提供してほしい」という趣旨の文書だ。ところが、やり取りの後、指示された社内のクラウドストレージ内に文書を保存する際、当時の前任者名義で作成された「分割で支払う」旨の文書の存在を知った。「引き継ぎがなされていない」という会社(HEARTS)側の説明は虚偽だった可能性が高いと認識するに至った。元社員はわずか2カ月で退職した理由を、戸島氏によりハラスメント的言動があったことを理由にあげるが、こうした企業体質そのものへの「深い不信感もあった」としている。同氏は「本来支払わないといけないものを支払わないのは理解できない。英真トランスポートの取引先に対して申し訳ない気持ちでいっぱい」と振り返る。

厚生年金保険料を
徴収しながら未納か

 ところが問題はこれだけにとどまらなかった。元社員は退職後に日本年金機構から驚くべき通知を受けた。それは、元社員が「5月1日付で厚生年金保険の資格を喪失し、国民年金への切替を求める」というものだった。しかし、元社員のHEARTSから受け取っていた4月・5月の給与明細には、本人負担分として厚生年金保険料が差し引かれていた。つまり厚生年金の被保険者資格が喪失していたにもかかわらず、保険料が給与から控除されていたことを意味する。もしもこの控除分が年金機構に納付されていなければ、HEARTSグループは違法な天引き(=不当利得や横領)を行っていた疑いが浮上する。元社員は「会社組織ではなく、会社ごっこをしているとしか思えない」と呆れる。

元社員の給与明細書
元社員の給与明細書

 戸島氏は今年、ラジオ番組出演を通じて自社グループを「64社・2,500人規模の地方創生企業」と発信している。しかし、公式サイトに掲載されているグループ会社は16社にとどまり、実態が判然としない。

 「地方創生ベンチャー」という美名の裏で、取引や出資の現場では契約不履行や説明不足が繰り返されており、その事業運営の実態が問われる局面にある。裁判の推移や今後の事業運営次第では、同社への視線はさらに厳しさを増すことは必至だ。

【鹿島譲二】


<COMPANY INFORMATION>
HEARTSグループ

代 表:戸島匡宣
所在地:福岡市博多区博多駅前3-4-8
創 業:1996年3月
業 種:観光・モビリティ関連事業
グループ企業数:公称64

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