公明党が自民党との連立を解消した理由と今後の展望

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

国会 イメージ    26年間におよぶ自民党と公明党の連立は去る10月10日に行われた高市・斉藤党首会談の結果、白紙に戻されました。高市総裁は「自公連立が基本」と主張していましたが、斉藤代表からは「政治とカネ」の問題を含め、対中国政策、歴史認識や靖国神社参拝、さらには外国人排斥につながる強硬発言などに象徴される高市総裁の政治姿勢は「容認できない」との厳しい発言が繰り出されたものです。

 「連立協議」について、高市総裁は「党内調整が必要なので3日間待ってほしい」と述べたようですが、斉藤代表は「このままでは、国会が召集されない。いつまでも自民党だけの都合でだらだらとやっているわけにはいかない。この場で返事をもらいたい」と突っぱねたとのこと。斉藤代表からすれば、政治とカネに関する問題は1年前から提示してきたもので、時間のかけ過ぎとの思いが強かったようです。結局、決断できない高市総裁に正面切って「ノー」を突き付けたという顛末でした。

 公明党の幹部や支持者、そして支持母体の創価学会の間では自民党に対する積年の不信感が払しょくできず、「このままでは公明党そのものが政党として存立できない」との危機感が大きく影響したものと思われます。

 実は、池田大作名誉会長の死後、高齢化する学会員の選挙への関心は低下する一方で、公明党の比例票は2004年のピーク時の862万票から去る7月の参議院選挙では521万票と大幅に減少。公明党の有力議員や支持者の間では、「自民党との連立が足かせになっている」との懐疑論が急拡大。両党共に選挙協力で恩恵を享受してきた過去がありますが、近年は有権者の自民党離れが加速し、公明党にとっては重荷になっていたのです。

 一方、高市総裁の誕生は麻生元総理の思惑のなせる業でした。自民党に残る唯一の派閥である麻生派の議員を促し、「勝てる候補」として高市支持を采配し、国会議員数で対抗馬の小泉氏を蹴落とすことに成功。その論功行賞ということで、麻生氏は副総裁に、義理の弟である鈴木氏は幹事長に就任しました。それ以外にも麻生派からは有村治子氏が総務会長に選ばれています。こうした麻生カラーの蔓延に公明党は不信感を募らせたわけです。

 しかも、政治とカネ問題で物議を醸し、政治資金収支報告書に2,728万円もの不記載が発覚し、政策秘書が裏金問題で東京地検に略式起訴され、本人も自民党から先の選挙では非公認となった萩生田元政調会長が幹事長代行に指名されたことが決定打でした。政治資金問題に一貫してクリーンさを求めてきた公明党には、「どこが解党的出直しなのか」「我慢の限界を超えた」ということに他なりません。

 政治とカネの問題を中心に国民の政治不信は拡大するばかりで、公明党にとって生き残るためには「自民党とたもとを分かつしかない」との判断が下されたようです。もちろん、こうした判断は斉藤代表の一存ではありません。山口前代表を始め、地方組織からも同様の厳しい自民批判の声が届いており、「爆発寸前」状態でした。

 また、公明党にとって平和外交のパートナー的存在である中国との関係について、高市総裁は脅威論に偏り過ぎているとの思いが公明党には強くありました。公明党と中国の間には長年にわたっての信頼関係があるため、できるだけ早い時点で仕切り直しを実現したいと願っているようです。

 公明党とすれば、中国と日本が協力するかたちで、相互の持ち味が十分に生かせるような仕掛けを目論んできたとの自負もあるに違いありません。たとえば、福島の汚染水処理の技術開発や海洋放出に関しても、IAEAとの連携を含め、中国、韓国、北朝鮮などからの反発への対抗策を講じてきたとの自負もありました。

 中国は自国も原発からの廃棄物の海洋放出を行ってきた経緯もあり、福島からの汚染処理水が中国沿岸に漂着する可能性を考慮し、海水のサンプル採取を続けているとのこと。そのようなサンプル水と、福島から流れてくる処理水を含む海水の比較調査を実施し、問題の有無を検証する作業も進んでいます。そうしたデータを科学的に分析することは日中双方にとって有益な試みになるはずだと公明党は受け止めていました。

 実は、公明党には参議院議員で、北海道大学の水産学部で博士号を取得した横山信一氏のような海洋学や環境問題の専門家もおり、これまで福島をはじめ東北各県での汚染物質処理について調査を重ねてきていました。と同時に、地元の漁連や住民との意見交換会も繰り返し行っているのです。残念ながら、そうした対応を自民党の議員は誰も積極的に行っていません。この点でも公明党は自民党の本気度に疑問を呈してきました。

 また、防衛力優先や「戦う覚悟」を大上段で振り回す自民党幹部がいますが、危機をあおるばかりで平和的な外交努力を無視したもので、同調しかねるというのが公明党の考えです。なぜなら、子育てや教育・医療拡充など社会福祉面での予算配分がおざなりになりかねないからです。抑止力の向上のためには軍事費の増大に依存するのではなく、平和外交に欠かせない人材育成と積極的な予算配分も欠かせないとの発想から、多元的な外交を担える人材の発掘と適材適所の対応が急務であることは論を待たないでしょう。

 ところが、高市総裁を含め、総裁選に出馬した5人の候補者のうち誰1人として、「政治とカネ」の問題に限らず、対中政策やアジアとの平和外交の推進の在り方について、正面から向き合おうとしませんでした。麻生派も同様で、裏金問題に関しては、「選挙でみそぎを済ませれば問題ない」との姿勢に終始し、中国に関しては「台湾有事」にこだわるばかりで、公明党とすれば、政策のすり合わせがまったくできないものと判断したものと推察されます。

 こうした「麻生院政」ともいえる麻生派中心の党内人事や裏金問題の隠ぺい工作は公明党にとっては「看過できない」もの。その上、麻生氏は23年、連立のパートナーであった公明党を「ガン細胞」だと公然と批判していました。高市総裁も麻生氏も公明党とのパイプはほぼ皆無のため、「本音で話せる相手がいない」という状況も災いしたに違いありません。公明党とのパイプの太かった菅元総理は高市総裁からは疎遠にされていますから。

 そのため、高市総裁の執行部も「公明は最後には付いてくるはず」とタカをくくっていました。高市総裁本人も公明党内で離脱論が強まっているとの報告を受けた際、「そんなことになってんの」と漏らしたことが明らかになっています。それほど、連立相手の内情に無関心だったわけです。そのしっぺ返しは総理を目指す高市総裁の前途に暗雲を投げかけています。

 衆参共に少数与党となった自民党は公明党以外の政党と連携しなければ、補正予算の通過もままなりません。その意味では、総裁選を戦った5人の候補者はいずれも危機意識が乏しかったと言わざるを得ません。

 その上、高市総裁は、どの野党とどのような政策協議を進めるのかも明らかにしようとしません。これでは臨時国会が召集されたとしても、国会での審議は開店休業に陥ることになりかねません。現時点では、日本維新の会と国民民主党が自民党の新政権と連立を組む相手としては有力視されています。これまで野党第1党の地位を占めていた立憲民主党は埋没する可能性が高く、焦りの色を隠せない野田代表は自民党との水面下の交渉に動いている模様です。

 新たに幹事長に就任した安住氏は「自民党に対抗できるのは立憲民主党しかない」とアピールし、自民党との安定勢力化を目論んでいます。しかし、「ちびっ子ギャング」というあだ名で呼ばれる安住氏の自己中心的な姿勢は自民党の保守派には受け入れ難いでしょう。

 となると、政策面で親和性が期待できるのが日本維新の会です。自民党の幹部からも「最有力の連携・連立候補」と目されています。藤田共同代表もメディアを通じて「自公との連立」に前向きな姿勢を明らかにしているほどです。当然、政策面での合意が大前提になりますが、維新の掲げる「大阪副都心構想」や社会保障改革や安全保障政策については、自民党内にも大きな反対は見られません。

 一方、先の参議院選挙で議席を大幅に増やした国民民主党ですが、玉木代表は憲法改正や原発活用といった政策面では自民党と共通点も多いため、「まずは政策で一致できるか見極めたい」と連立政権入りにはまんざらでもないような発言を繰り出しています。玉木代表は茂木氏や麻生元総理とも良好な関係を売り物にしているほどです。

 なお、高市総裁が唱えた物価高対策や減税政策は国民民主党と共通する部分もありますが、高市総裁と玉木代表は、あまりウマが合う関係ではありません。また、「日本人ファースト」政策を掲げ、政界の嵐となった参政党ですが、神谷代表は「他党との連携はまったくの白紙。すべての党と政策、法案ごとの協議を進める」と独自路線にこだわりを見せています。そのため、連立入りの可能性はなさそうです。

 結果的に、自民党が掲げる「解党的な出直し」はスローガン倒れに終わり、野党との連立にも独自色は発揮できないまま、条件闘争に終始し、国民の政治不信と政治離れは加速する一方になるでしょう。これでは与野党共に共倒れ状態と言っても過言ではなく、残念ながら「何も決まらない」漂流国会が続きそうです。

 見方を変えれば、立憲民主党、国民民主党、維新の会が組めば210議席で、これに公明党が加われば234議席となり、過半数を確保できます。そうなれば非自民の新政権が生まれるはずです。立憲民主党の野田代表は「10年に一度のチャンスだ」と、「公明党は中道路線で、わが党と同じだ」と呼びかけ、野党統一候補の擁立を模索しています。

 また、国民民主党の玉木代表も「公明党の決断には敬意を表する」と述べ、あわよくば非自民の野党連合で総理の座に王手がかけられるかもしれないと、関心を寄せているではありませんか。ただ、公明党は「過去の経験を踏まえ、自民党とは是々非々の立場で個別の法案の支持、不支持を決めたい」と主張し、「先々の自民党との再連立」に含みをもたせているのが現状です。

 要は、自民党の執行部が変わり、その政策を変更すれば、よりを戻す可能性もあるというシグナルでしょう。公明党の西田幹事長は「日本は多極政党時代に入った」と述べ、「多党間の協調が欠かせない」との柔軟なスタンスも明らかにしています。

 これまでは自民党との連立与党であったため、公明党は「利権の温床」とも揶揄(やゆ)される国土交通大臣のポストを維持してきました。公明党が単独でどこまで党勢を回復し、創価学会や支持層の期待に応えることができるかは不明です。立憲民主党を含め、いずれかの野党と連携することになるのか、独自の「アイデンティティ」を打ち出せるかが決め手となります。

 それができなければ、右寄りに走り、中国脅威論に与する高市総裁と「日本人ファースト」を掲げる新興勢力の参政党が連携する政局のなかで、公明党は埋没する可能性もゼロではありません。そうなれば、公明党は共産党と同じような存在価値の薄い政党に転落するリスクも抱えています。

 高市総裁はまだ首班指名を受けていませんが、新内閣では茂木前幹事長を外相に、木原前防衛相を官房長官に起用する意向をチラつかせています。茂木氏は総裁選で争った相手の1人ですが、木原氏は改憲タカ派で高市総裁とは相性が良いのですが、統一教会の関連団体から政治献金を受けていたことが発覚し、問題発言も多く、役職停止処分を受けてきました。

 そうした問題を抱えた議員をまだ発足も不明な新政権の中枢に取り込むような言動も、公明党からすれば「容認できない」との結論につながったものと思われます。さらにいえば、公明党は高市総裁の過去の言動にも「危うさ」を感じていたようです。

 たとえば、ワシントンの連邦下院議員の下でインターンを務めたことを「立法調査官」と、あたかも議会から認定された専門家として活躍したように自身の選挙ポスターに過大な宣伝を行っていたことを始め、統一教会との関係や弟の高市知嗣秘書を通じてのスポンサー企業への融資工作など、スキャンダルのネタがテンコ盛りの高市総裁です。

 遅かれ早かれ、「高市ゲート」が暴露されるであろうと見越し、先手を打って関係を解消しようとしたのかも知れません。いずれにせよ、公明党から三行半を突き付けられた高市総裁の前途は決して明るいものではありません。

 アメリカでは2大政党と言いながら、国内の分裂と分断が収まらないため、一時はトランプ大統領に肩入れしていたイーロン・マスク氏が第3極となる「アメリカ党」を立ち上げると息巻いています。日本にもマスク氏のような経済力も発言力もあるパワフルなリーダーが現れてほしいものです。


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

関連キーワード

関連記事