健口から健康へ(9)若返りホルモンが免疫力を劇的に高める「唾液力」革命

 風邪や感染症から身を守る「免疫力」。この大切な防御システムが、誰でもできる“舌ストレッチ”で高まることをご存じでしょうか。唾液に含まれる抗菌酵素や「若返りホルモン」パロチンの分泌を促すことで、体の防御壁を強化し、若々しさまで得られます。免疫の最前線である“口”から始める、究極のアンチエイジング・メソッドをご紹介します。

唾液の驚異的なパワー

 唾液は単なる消化液ではありません。体内に侵入しようとするウイルスや細菌を撃退する、免疫の「最前線」を担っています。唾液には抗菌作用を持つ酵素が多く含まれており、舌回しや舌ストレッチで分泌を促すことで、その力がいっそう発揮されます。酵素が異物を分解・殺菌し、口腔内を清潔に保つことで感染のリスクを減らすのです。

 さらに、唾液腺から分泌されるパロチンは成長ホルモンの一種で、骨や歯の成長を助け、新陳代謝を活発にします。細胞レベルで若返りをもたらす“アンチエイジング・ホルモン”とも呼ばれ、肌や髪の健康維持にも関係しています。舌を動かして唾液を増やすという簡単な習慣が、免疫力の向上と若々しさを同時に叶えるのです。

骨や歯の健康維持も

 免疫力を高めるには、「リラックス」と「体温」の2つが欠かせません。舌ストレッチは、この両方を自然に整えることができます。唾液には、交感神経が優位なときに出る粘液性と、副交感神経が優位なときに出るサラサラした漿液性があります。ストレッチを続けることで副交感神経が優位となり、リラックスをもたらすサラサラ唾液が増え、心身の緊張がほぐれます。

 また、舌の筋肉を大きく動かすことで深部体温が上がり、血流が促進されて免疫細胞が活性化します。唾液中のパロチンはカルシウムの代謝を助け、ミネラル不足を補う働きもあります。これにより、骨や歯の健康維持にも良い影響を与えます。体全体の循環を整えることが、結果として免疫力の底上げにつながるのです。

手軽な舌ストレッチ

 免疫力は、サプリメントや一時的な努力では得られません。日々の生活習慣こそがその基盤です。ウイルスや細菌の侵入を防ぐ第一の防御は“鼻呼吸”で、鼻腔の粘膜が天然のフィルターとして外敵を防ぎます。また、免疫システムを支えるには「体力」が欠かせません。疲労やストレスが重なると免疫力が低下し、感染しやすくなります。

 「よく噛んで食べる」「歩く」といった基本的な行動も、有効な免疫強化法です。咀嚼は唾液分泌を促し、歩行は血流を改善して代謝を整えます。こうした生活リズムが整うことで、質の高い睡眠が得られ、免疫がより強まります。

 その好循環をつくる第一歩が、手軽にできる舌ストレッチです。鏡の前で舌をゆっくり回すだけでも十分。気づいたときに数回行うだけで唾液が増え、口の中が潤うのを感じられるでしょう。小さな習慣の積み重ねが、健康と若さを守る確かな力になります。


歯科医師 大村豊(おおむら・ゆたか)
大村歯科クリニック 歯科医師 大村豊 氏1964年3月23日福岡県柳川市生まれ。福岡歯科大学卒業後、大学院で舌の発生学を研究。2002年10月に福岡市百道浜で大村歯科クリニックを開業し、予防歯学を重視した診療を展開。オーラルフレイルに早期から着目し、独自の口腔機能向上プログラムを通じて患者の生活の質向上を図る。現在も「口の健康が全身を支える」という信念のもと、研究と臨床の両面から口腔ケアの重要性を訴え続けている。

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