【トップインタビュー】変わりゆく福岡の建設市場 建築と不動産の両輪で持続可能性を高める

照栄建設(株)
代表取締役社長 冨永一幹 氏

 この約10年、人口増と相まって、全国でも類を見ないほど成長を続けてきた福岡。ただ、職人の高齢化や経営者の後継者問題、資材高騰に金利上昇がもたらす民間投資への影響など、全国の建設業界が直面する課題を福岡も例外なく抱えている。25年5月期に売上高約180億円を計上するなど、福岡での建設市場を力強く支えている地場有力企業の1社である照栄建設(株)の冨永一幹代表取締役社長に、現在の活況を総括してもらうとともに、今後の福岡の事業環境について語ってもらった。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

活況を呈してきた福岡
変化の兆し

照栄建設(株) 代表取締役社長 冨永一幹 氏
照栄建設(株)
代表取締役社長 冨永一幹 氏

    ──福岡の建設市場についてお聞きします。この約10年、全国的に見ても顕著に伸びてきたと思いますが、振り返ってどう総括されますか。

 冨永一幹氏(以下、冨永) 時代が良い方向に推移していたというのは間違いないと思います。とくに福岡では、アベノミクス以降の約12年、建設業者は潤ってきたという感覚があります。実際にこの期間、建設業者の廃業というのはほとんど見かけていません。個別にはあるでしょうが、全体としては市況によって支えられた面が大きいと思います。

 建設会社は請負産業であり、自分たちが主導できる領域と、そうではない領域があります。一方で福岡は都市として拡大し続けていて、民間でも公共でも多くの工事案件があります。ただ、そこにどう関わるか、技術と人をどのように配置するかで、会社の業績は変わってきます。もちろん会社としてのイニシアチブがなければ実績を積み上げることはできず、「時代が良かった」ということだけで総括できる話でもないでしょう。

 ──近年は、資材価格の上昇、金利の上昇など、事業環境が変わってきています。

 冨永 価格上昇に関しては、とくに生コンでそうした印象が強いです。供給量が減るから価格を上げるという理屈もありますし、上げなければならない局面だということも理解できます。しかし、すべての工務店がその値上げについていけるかについては懸念があります。

 金利上昇の影響も出てくると思います。金利が上がると、建設投資、とくに不動産投資に影響が出てきます。これまではためらわずに「やろう」となっていたものが、少し考えるようになります。民間では「ちょっと様子を見ようか」ということに必ずなります。住宅も分譲マンションも金利による影響は大きいです。

 実際のところ、今の若い世代は借金に対するハードルが昔ほど高くありません。夫婦で50年ローンを組まれる人もいます。支払い途中で売ればいいという発想もあります。ただ、金利が上がるという経験をしていない世代が住宅を買おうとすると、高いと感じるようになるでしょう。私たちの世代から見ると1%は安い感覚ですが、世代によって感じ方が異なります。

後継者も職人も
人材育成が問われる時代

 ──今後、業界の最大の課題は何でしょう。

 冨永 絶対に避けられないのは後継者問題と人手不足です。後継者問題には多くの企業の経営者が頭を悩ませており、ますます大きな問題となるでしょう。手放す会社は増えると思います。親しい経営者から、子どもに継がせるのをためらっているという話を聞くことも増えています。

 今は経営者に能力がないと難しい時代です。資産面を見て「子どもの代までは大丈夫」なので継がせるという判断をしたとしても、孫の代まで続くかはわかりません。財産もいつどうやって消えるかわからないですから。

 ──後継者問題に関しては、M&Aが増えるという見方もあります。

 冨永 M&Aについては、よく考えないとリスクがあります。良い会社は、すでに市場に出てしまっており、下手をすると不良資産を買うことになりかねません。場合によっては新しく子会社をつくったほうが良い、という発想のほうが良いこともあるでしょう。

 ──人手不足については「量」だけでなく「質」も問われていると感じます。

 冨永 そうですね。人を入れるにしても、できる人を入れないといけません。人数だけそろえても必要な人材がいなければ現場は回りません。建設は現場での監督責任や品質・工程管理という業務があります。そのため採用・育成の難易度は上がっています。

 人手不足の主な理由は高齢化です。とくに職人の高齢化の影響が大きいです。一方で若い職人が入ってくるかといえば、入ってきません。大企業であれば、新卒者向けサイトを通して学生に内定を出すというルートがあります。しかし、職人の世界は異なります。職人になりたいという人もいれば、偶然なったという人もいる世界で、人が減っていく一方です。

 当社では定年は60歳ですが、65歳まで嘱託契約を結び、さらに能力があれば70歳ぐらいまでパートで働ける仕組みをつくりました。雇用期間を延長して対応すればよいのではという議論もありますが、社労士からは、高齢になるほど建築現場での事故のリスクが高まるという理由から反対する意見が出たため、パートという仕組みにしています。

 ──人手不足という状況が生まれているのには、働き方改革も影響していると考えられます。

 冨永 働き方改革の影響を感じます。週休二日にして「土曜日休みましょう」となると、稼働日が減る現場の人にとっては収入が減ります。

 人が減ることで、売上構造そのものも変わっていきます。会社には案件を100%、あるいは120%受注して行える機能があるのに、人が辞めるとその分だけ行えなくなり、売上も自然と落ちていきます。受注が取れないというより、現場を回せる施工体制が組めなくなります。それで人を入れないといけない、ということになりますが、それが容易ではなく、ボトルネックになっています。

 日本には働いて稼ぐ産業が必要なのですが、規制が強まっています。ただ、サラリーマンにはこうした規制が課せられるのに、個人事業主等の一人親方(職人)は関係ないおかしな状況も生まれています。このままでは建設や物流などの基幹産業がもたなくなります。

 ──人手不足をめぐって、AIやロボット活用による省人化で解決できるという期待もあります。建設業ではどうでしょうか。

 冨永 管理面ではモニターの活用や電子化で効率化が進むでしょう。実際、そうした企業は増えています。一方で、現場の手作業には機械ではできない部分が多くあります。たとえば生コンを打つ作業でも、人が要ります。PC(プレキャスト)化の話はありますが、全国で100%PCに変わるとも思えません。仮にそうなると生コン業者の経営も傾くことになります。

建築と販売 2本柱で挑む

照栄建設(株) 本社    ──貴社を含め、業界の受注環境はいつごろから変調していくと見ていますか。

 冨永 当社は建設事業に加え、土地、住宅、分譲マンションの開発・販売などの不動産事業を展開しています。ただ、今後頭打ちになっていくのではないかという予感はあります。今後、金利上昇により、もし民間が案件にストップをかけるようになると、賃貸市場は緩やかながら縮小し始めると思います。

 ──金利の上昇局面では、建設会社として物件を購入できるか、またそれを販売できるか、ということが強く問われてきます。

 冨永 土地は供給されるでしょうし、買う分には買えると思います。しかし、今は高く買う分、いかに価格を転嫁して転売できるかの技術が問われます。どういうルートで誰に売るかが大事です。土地の仕入れには、目利きの技術が問われます。建築の技術とは別に営業の技術があります。

 当社としても独自の土地の仕入れ方、資産のつくり方の技術を磨いてきており、その精度も高いものだと自負しています。それゆえ、衰退しないように受け継いでいく必要があります。この開発・販売の部分は非常に大事であり、請負だけをしているほうが会社としてはやりやすいですが、会社の強みとして維持していかないといけないと思っています。

 ──こうした厳しくなる局面で生き残るためには。

 冨永 人材を、それも世代別に育てることが大事です。しかし、今の建設業で一番できていないのはまさにこの育成です。やらないというより、やれていないのです。しかし、経営者は目先の案件を受注することにばかり目がいきがちです。案件を受注しないと社員に給料を払えないためですが、それで教育が後回しになってしまうという構造があります。そこからいろいろな問題が生じています。

 今は転職を常に意識する時代となっており、とくに若い社員はそういう意識をもっているという前提で考えないといけません。彼らがビズリーチのような転職サイトに登録しているのは自然なことであり、会社としては、彼らが転職しないように、納得して働いてもらうように工夫、努力するだけです。

 人材が育つには10年かかります。20歳で入社したとして、一人前になるのは30歳。それから失敗も経験しつつ、35歳くらいでよい現場員になれます。当社の主力の現場員は40代前半~中ごろで、彼らは約20年会社にいます。建設業とはそれだけ育成・成長に時間がかかる産業です。

 ──雇用に関しては、賃上げをめぐって大手と中小の格差拡大が懸念されています。

 冨永 中小零細企業は上げきれないと思います。固定給を一挙に上げるのは難しいです。固定給ではなく手当を増やすか、ボーナスと年末調整で調整するのが、日本企業で一般的に見られる現実的な対応でしょう。景気は変動するのに給料は一定というのがジレンマになっていて、判断に悩む中小零細企業は多いでしょう。大手は状況が異なり、こうした環境が続けば、格差が出てくるでしょう。

福岡都市圏の最適解は

 ──福岡の都市拡大のフェーズにおいて、チャンスをつかむうえで重点をどこに置きますか。

 冨永 公共事業でまちづくりに貢献したい、という気持ちを強くもっています。参加しているのはそのためです。そこに当社の技術を投入することができるとともに、その過程で人づくりもできます。もし大手と一緒に参加するならば、優れた技術を学んで持ち帰れるという面もあり、企業の鍛錬としても意味があります。

 ──公立学校の案件を地場企業連合で行ったと聞きました。

 冨永 先ごろ、公立学校の案件などを地場企業の連合で実施することができました。監督側も職人も技術が向上し、自分たちでより多くのことを行える時代になってきたと思います。

 一方で、建物はデザイン性が強くなり、施工がより難しくなっています。真四角ではなく、斜めを向いた形状のものもあります。難易度の高い案件を行いながらまちづくりに貢献している、という実感があります。

 ──九州大学跡地周辺のまちづくりについてお聞きします。

 冨永 九州大学箱崎キャンパスについては、敷地の跡地もそうですが、周囲の土地をめぐっても動きが活発になっていくでしょう。たとえば学生寮のような施設について、移転を終えた現在どうするか、建て替えるとして賃貸マンションか、分譲マンションか、という話になってきます。跡地だけでなく、周辺がバッと変わります。周辺の再開発は大きなテーマになると思います。

 ──福岡都市圏の今後と建設業についてお聞きします。

 冨永 交通を例に挙げますと、福岡都市圏は車社会であり、スムーズに移動できることが大切です。インフラ整備・維持は今後、ますます重要な課題になるでしょう。政府は建設の重要性を認識しているようですが、地方ではより具体的な施策が求められると思っています。社会インフラを維持していくためにも、建設業の力を一定に保つ仕組みが必要だと思っています。

【文・構成:茅野雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:冨永一幹
所在地:福岡市南区向新町2-5-16
設 立:1972年6月
資本金:7,000万円
売上高:(25/5)180億537万円


<プロフィール>
冨永一幹
(とみなが・かずもと)
1969年生まれ、福岡県春日市出身。福岡大学大学院人文科学研究科教育臨床心理学専攻修士課程修了。2005年4月に照栄建設(株)入社。07年7月取締役社長室長、16年4月総務部長を経て、17年8月から代表取締役社長を務める。

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