媚米外交で日本没落が加速

政治経済学者 植草一秀

 米国が国際法、国連憲章に違反して実行したイラン軍事侵攻。米国の行動に正当性がない。イランは自衛のための抵抗を示す。ホルムズ海峡封鎖はその一つ。ホルムズ海峡は地球物流の要衝。世界経済に重大な影響が生じる。日本は最大の影響を受ける国の一つ。

 米国とイランの交渉でイランがホルムズ海峡開放を決めた。戦争終結に向けての大きな一歩として受け止められた。原油価格は一時1バレル80ドルを割り込んだ。株価も急騰した。しかし、ホルムズ海峡開放は直ちに取りやめになった。米国が海上封鎖を解かなかったからだ。

 イランでは米国と交渉するメンバーと革命防衛隊との間に断層がある。革命防衛隊は安易な妥協を許さない。イランが海峡を開放するとしたのであるから、米国は海上封鎖を中止すべきだった。しかし、米国は海上封鎖を解かなかった。これに革命防衛隊が反発。再びホルムズ海峡は封鎖された。

米国はイランとの第2回協議を呼びかけたがイランが拒絶。
・イランのホルムズ海峡開放と同時に米国の海上封鎖を解くこと
・イランのウラン濃縮制限を緩和すること
・濃縮ウランの保持を認めること
・イスラエルのレバノン軍事攻撃を終結させること
・ホルムズ海峡の通行料徴収を認めること
などを米国に要求している。

 米国とイランの交渉は妥結に至っていない。文字通りのチキンゲーム。両者が一歩も譲らなければ大惨事に発展し得る。トランプの流儀はTACO。強気の姿勢を示しても最後は引き下がる。この行動が定着している。これに対してイラン革命防衛隊は腰が据わっている。したがって、トランプが譲歩せざるを得ない状況。

 しかし、トランプは大義名分を求める。「負けていない」との口実を求める。1回目の合意ではせっかく同意を得たにもかかわらず、米国が海上封鎖を継続した。最後に自己に有利な条件を獲得しようとした。これで合意が消滅した。だが、チキンゲームが最後にクラッシュを引き起こすことを覚悟する度合いで勝敗は決まる。イランの覚悟が強いと見られる。

 ボールはトランプの側にある。クラッシュが生じて泥沼にはまることをトランプが受容できるか。原油価格は高騰し、戦争は長期化する。米国の損失も拡大する。米国世論は米国の軍事侵攻を支持していない。ガソリン価格の上昇に対する不満が拡大している。中間選挙での共和党敗北が拡大する可能性が高まる。これらを踏まえてトランプが最終的に行動を決めなければならない。

 停戦の延長をトランプが選択したことを踏まえると米国が最終的に引き下がる可能性が高まっている。トランプは「戦争を終わらせること」を掲げて大統領職に返り咲いた。ところが、戦争を終わらせるどころか、逆に戦争を始めた。ベネズエラにも軍事侵攻。大統領夫妻を拉致・監禁した。グリーンランドにも軍事侵攻する可能性を示唆。さらに、中米キューバへの軍事侵攻可能性も示唆する。

 そしてイランへの大規模軍事侵攻。完全にタガが外れた。第二次大戦後の世界秩序安定化の根幹は国連憲章。そしてNPT=核拡散防止条約と平和共存五原則がある。国連憲章は武力行使と武力による威嚇を禁止している。例外は国連安保理が決議した場合と自衛権の行使。

 他方、NPTは戦勝5ヵ国(米ロ英仏中=P5)の核兵器独占保有を認める体制。核兵器の使用を回避する理論的枠組みが「相互確証破壊」。核攻撃は必ず報復攻撃を招く。このことから核兵器使用が抑止されるとの考え方。NPTはP5の核兵器独占保有を認めるものだが、NPT非加盟国の一部が核保有国になっている。インド、パキスタン、朝鮮、イスラエルの4ヵ国。

 他方、多数の国家の安全保障を確保する大原則が「平和共存五原則」内政相互不干渉、主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵などが軸になっている。この体制で世界の平和と安定が確保されるために最重要の条件は核保有国が力による軍事侵攻を行わないこと。これがなければ世界秩序は維持されない。核保有国が弱肉強食で行動するなら核保有国が世界を支配することになる。すべての国が核保有に向かう。

 トランプ大統領は「国際法は必要ない」と述べてイラン軍事侵攻を正当化している。この言動は戦後世界秩序を根底から覆しかねない重大な意味を帯びる。トランプは戦後世界秩序そのものを破壊する方向性を示している。

 この方針が維持されて米国が暴走を加速させれば世界は新たな大混乱の時代に移行する。そのリスクが高まっているのか。しかし、トランプの行動様式の基本はTACO。「トランプはいつも怖気づいて逃げ出す」

 「戦争を終わらせる」と訴えたトランプが「戦争創作」に突き進む背後にイスラエルの影響がある。イスラエルの秘密警察モサドがエプスタイン情報を用いて世界の要人をコントロールしている疑いがある。トランプはエプスタイン事案で揺さぶられていると見られる。だが、11月中間選挙で惨敗すればレームダック化が一気に加速する。トランプはこれを回避する道を選択すると考えられる。

 中国の習近平は「多極化世界新秩序」を目指していると見られる。暴走を続ける米国を背景に中国の国際社会での存在感が上昇している。日本の高市首相はトランプに媚びて米国に隷従する姿勢を示す。同時に中国との平和友好関係の破壊に邁進する。この延長線上には日本の破滅しかない。

 日本も米国同様、基本行動様式を転換する必要がある。戦争を推進する最大の原動力は軍事産業の利益追求である。戦争創作ではなく平和創作に総力を注ぐべきだ。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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