鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗
国家情報会議設置法案が先日(5月27日)参議院本会議で可決・成立した。今回は、国家情報会議の設置によって日本がどのような社会・国家に変容していくのかという問題を考えてみたいと思います。
高市政権下で加速する日本の戦争国家・警察国家化
前節で植草氏が指摘しているように、高市政権の下で日本の暗黒化・戦前化が加速していることは間違いない。
今回の国家情報会議設置法案に対しては、憲法上重大な疑義があることも弁護士会などから出されている。
《現在、直ちに、各機関の連携を強化し、政府のインテリジェンスに関する権限を強化することには、憲法上重大な問題がある。
すなわち、上記各インテリジェンス機関に関しては、次の通り、市民に対する違法な情報収集活動を行ってきたことが明らかになり、強い非難を受けている。
⑴神奈川県警による日本共産党幹部宅盗聴事件
最高裁1989(平成元)年3月14日決定は、神奈川県警警備部公安第一課の警察官らが、日本共産党国際部長宅の電話を盗聴した行為について、「警察官である被疑者Aおよび同Bは、職務として、日本共産党に関する警備情報を得るため、他の警察官とも意思を通じたうえ、…請求人方の電話を盗聴したものであるが、その行為が電気通信事業法に触れる違法なもの」であると事実認定した。
⑵公安調査庁による元職員監視事件
東京高裁2004(平成16)年2月25日判決は、公安調査庁が、退職した元職員に対し、24時間体制で居宅を監視し、外出時には尾行を行ったことについて、プライバシー侵害として国に損害賠償を命じた。
⑶自衛隊情報保全隊市民監視事件
仙台高裁2016(平成28)年2月2日判決は、自衛隊情報保全隊が、医療費負担増の凍結・見直し、年金改悪反対、消費税増税反対等の市民運動や、「核兵器廃絶を求める署名活動」などについても個人情報などを収集していた事実を認定したうえ、原告のうち1名について、本人が明らかにしていなかった本名および職業(勤務先)というプライバシーに係る情報を違法に収集、保有したとして、国に損害賠償(慰謝料)を命じた。
⑷大垣警察署による市民監視事件
名古屋高裁2024(令和6)年9月13日判決は、岐阜県警大垣警察署警備課が、風力発電所建設に関する勉強会を開いた地元住民や、これと無関係の市民活動家らの個人情報(学歴、病歴、親交関係、過去の住民運動参加歴等)を、事業者である中部電力子会社に提供した行為について、収集目的自体が違法であり、社会的相当性がないとして、岐阜県に損害賠償と個人情報の抹消を命じた。なお、警察庁警備局長は国会において、こうした活動は「通常業務の一環」と答弁していた。
⑸大分県警別府署による隠しカメラ設置事件
2016(平成28)年6月、大分県警別府署の捜査員が、参議院選挙の公示前に、野党統一候補を支援する団体が使用する別府地区労働福祉会館の敷地に無断侵入し、隠しカメラ2台を設置して、出入りする者を撮影していたことが、後日、発覚した。大分県警本部長は「必要性・相当性が認められない撮影」であったとして謝罪している。
また、上記各インテリジェンス機関による違法行為に関して、これまで政府はその責任を正面から認めて再発防止の措置を講じるなどはしていない。
これらの点、とくに、対象となった市民はいずれも、政府に批判的な意見を有し、活動を行っていたもので、かかる事実は、単なるプライバシー権侵害にとどまる問題ではない。
民主主義は、政府の政策に対する自由な批判と異議申立てを通じてこそ健全に機能するものであるところ、政府を批判する市民が監視対象とされ、その情報が収集・蓄積されることは、批判的言論への重大な萎縮効果を生じさせ、政府に対する正当な批判活動そのものを抑圧することにつながる。これは、表現の自由(憲法21条1項)、思想・良心の自由(同19条)を実質的に侵害するのみならず、自由な言論を通じた民意の形成という国民主権原理(憲法前文、同1条)の基盤を掘り崩すものであって、憲法秩序の根幹に関わる重大な問題を含む。》(「国家情報会議設置法の制定に反対する会長声明」2026(令和8)年5月22日札幌弁護士会 会長 佐々木 潤)。
今回の国家情報会議設置法の制定を契機に、今後さらにスパイ防止法の制定、「対外情報庁(仮称)」と情報要員育成機関の新設など、日本の言論状況が悪化していくことが予想される。戦前の過ちを再び繰り返さないためにも、今こそ私たち国民1人ひとりが声を上げていかなくてはならない。
(了)








