迫力のライブ感
カナブンの羽音のような甲高い耳障りなノイズ―2026ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの競技を映すテレビ画面を、初めのうちは何だろうと眺めていた。宙を舞う映像そのものや、そこへたまに映り込む雪面の小さな影、あるいはひらりひらりと飛翔するドローンの機体がほどなく確認でき、その飛行音だと納得した。
大会中、このドローンカメラはジャンプやモーグル、エアリアルなどで、迫力ある映像を提供してくれた。猛烈なスピードで滑走する選手を、画面のなかほどに的確に捉える。同時に、スピードに乗った選手目線の緊張感も得られる。解像度が高くブレのない映像は、空中へ飛び出し何回転もする選手に観戦者を同化させる。
操縦する地上のパイロットの熟練度はいかばかりかと、感心させられる。事前のシミュレーション、操作訓練を念入りに行ったというが、アングルを変える映像の切り替えタイミングを含め、追尾開始の瞬間、固定カメラとのリレーションなど、実に楽しめる競技シーンをドローンカメラは供給してくれた。「FPV(First Person View:1人称視点)ドローン」というのだそうだ。臨場感ある映像に大いにしびれ、技術進歩にさらなる期待を抱く。
宙からのマーケティング
観光の対象や形態を広げていきそう
ドローン映像が、観光地やリゾートの紹介PRに使用されるようになって久しい。ヘリコプターやセスナに比べ空撮が安価に得られ、至近から小回りの利く自由度もあって重宝された。狭い場所を、低空飛行しながら通過してみせる撮影も可能だ。単に俯瞰の映像ということではない。それまでお目にかかれなかった距離感や浮揚感といった心湧き立つシーンを、高品質の画で提供してくれた。
観光協会に類する組織やフィルムコミッションの公式サイト、SNS発信などを通じ、あるいは既存メディア、インフルエンサーや旅行代理店招聘のモニターツアー、印刷媒体を携えて、営業先回りやイベント出店でも有効な販促情報として、Bird Viewは魅力的だった。PRの映像や画像に表現力を高め、集客戦略の枠組に革新をもたらした。すなわち、目にしたシーンに惹かれ訪れる観光客に、実際のシーンをきちんと観てもらえる施策、施設、装置、時期タイミングを、現地は用意する必要に迫られた。浮揚感あるシーンに相応しい、あるいは合致した体験商品/サービスを編み出そうという三次元の発想、試行へ結びつく。観光開発というより、インスタレーションアートに近い展開もある。
そして、アトラクティブな皮膚感覚を好む観光客が、フワフワ感かゾワゾワ感か、訪問地での新趣向の体験価値を初めて知ることとなり、期待を上回る評価は、たちまち個々のコミュニケーションツールを通し伝播していく。
神さまの健やかな視界
PR映像に盛った浮揚感、浮遊感、飛翔感をどう伝え、実感させるか。たとえば、崖っぷちから中空へ細くせり出したデッキやスカイウォーク、吊りロープを長くしてスイングの振り幅を大きくしたブランコ、眼下を透かし見せる展望塔などはその方策だろう。足元に突如開く虚空は、えも言われぬゾワゾワ感をもたらし、スキー場のグリーンシーズンに人気を得る。スカイダイビング、パラグライダー(ともにタンデム含む)、バンジージャンプやジップラインは、少しばかり度胸を奮い起こす必要はあるが、生身の空中体験は観光客に新たな物語を付与する。
(出展:NASA ArtemisⅡ)
鳥の目がさらにはるかな高みへ登れば、もうそれは神の眼となる。絶海に覗くハート形の岩礁、特定の角度、時刻だけ特殊な色合いを見せる湖沼や地肌などにとどまらず、思いもよらない地表の姿、大気のうねりに心奪われることがあるだろう。科学技術がもたらした神の眼、すなわち地球軌道上の衛星からは極大スケールの景観を一目で捉え、人智のおよばぬ自然現象すら眺められるようになった。解析度を増した観測カメラは、樹林で覆われた地表の実際の凹凸や温度差なども識別でき、ヒトの視覚スペクトルを上回る能力から発見された景観もある。ペルー・ナスカの地上絵の追加はそうだし、築城の痕跡など。そのうち地下の鉱脈が描く文様も天からうかがい見ることができ、人類未来を占う希望資源になるかもしれない。
実際にヒトが神の眼に近づくには、気球、飛行船、航空機、成層圏をかすめ飛ぶ宇宙体験といった手段か。米英では地上100km付近をロケットで弾道飛行させ、無重力という浮遊体験と地球観察を提供する短時間の宇宙旅行事業がすでになされており、マーケット意識を宇宙へ広げている。九州では、主力ロケットを発射する種子島とは別に、宇宙を身近に感じさせる場や事業がある。大分空港のスペースポート構想では水平型宇宙港を目指し、大隅半島肝付町ではVR技術を用いた宇宙体験プロジェクトなど、宇宙関連需要を民間主導で開拓しようとしている。打ち上げには、多くの見学者が訪れる。世間の耳目も期待も集まる。
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近年、神の眼に映る地上あちこちの紛争模様。資金と度胸を備えた宇宙旅行者は、地球の安寧を願う心情を地上の万民へ触れ回ってほしいし、ドローンが捉える映像、描き出す画像は胸踊るものであってほしい。空は、平和でなくては。
<プロフィール>
國谷恵太(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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