どうなる?アサヒビール博多工場跡地(後)

学校用地も確保しながら
博多工場跡地は住居&商業系に

 こうして、ららぽーとの開業によって、市内でも一躍注目のエリアとなった博多SOUTH。今後は冒頭に紹介したように、アサヒビール博多工場での大規模な再開発が進んでいくと見られ、ららぽーとに続くさらなるインパクトがもたらされることが期待される。

 ただし、すぐ近隣にららぽーとがあるほか、工場の周囲の道路が現状では狭隘なため、おそらく大規模商業施設の開発が行われることは考えにくい。また、いくら工場跡地とはいえ、博多駅から1駅という利便性や道路アクセスなどを考慮すると、別の工場や物流施設の開発というのも考えにくい。現実的なところとしては、JR竹下駅まで約250mという駅前立地を生かして、マンション(分譲・賃貸)や戸建住宅などの住居系の開発や、それに付随した生活利便施設などの小規模商業施設などの開発だろうか──。

狭隘な博多工場周辺の道路
狭隘な博多工場周辺の道路

 なお、実は福岡市が23年8月にアサヒビールに対して、博多工場の跡地活用をめぐって小中学校の用地確保に向けた要望を行ったこともある。前述したように急激な人口増にともなってエリア内の小・中学校の児童・生徒数が逼迫し、新たな学校用地の確保が課題となっていたためだ。

 そして今回、JR九州らグループが博多工場の用地を取得したわけだが、福岡市ではJR九州らグループに対し、アサヒビールに対して行ったのと同様に、博多工場の用地の一部を学校用地として確保するよう要望。これに対し、JR九州の古宮洋二社長は2月の定例会見で、「市の要望を聞きながら前向きに話をしたい」と回答した。また、跡地の利用についても、「学校があるということは住居系が当然良いと思いますし、商業とかいろいろな複合的なものをつくりたい」と述べている。再開発の方向性としては、やはり住居系をメインにということで間違いなさそうだ。JR九州らグループとしても、住居系の開発を行えば、さらなる人口増&小・中学校の児童・生徒数の逼迫を招くことは容易に想定されるため、市からの学校用地の確保という要望については、無碍にするわけにもいかないだろう。

 アサヒビール博多工場から道路を挟んですぐ隣には、(学)沖学園の沖学園中学校・高等学校もある。仮に工場跡地に市の小・中学校が設置されることになれば、エリアに「文教地区」という性格も付加されてくる。それは住居系の開発を進めるにあたっては、大いにプラスに働くだろう。

那珂中学校/沖学園

 なお、今後の跡地再開発に際しては、今回のJR九州らグループのなかに日鉄興和不動産が名を連ねているのが興味深い。同社はこれまで、首都圏を中心とした数々の大規模プロジェクトを手がけてきているが、日本製鉄グループに属する関係上、日本製鉄の工場跡地での大規模再開発プロジェクトの実績も豊富。その代表的なプロジェクトが、北九州市八幡東区の「八幡東田総合開発」だ。同開発は日本製鉄九州製鉄所(八幡地区)の工場跡地である約120haもの遊休地において進められた大規模な再開発プロジェクトで、北九州市と共同でJR九州の新駅(現・スペースワールド駅)を中心とした市街地インフラ整備を行ったほか、大規模商業施設「イオンモール八幡東」などが整備された。産官学民の連携により次世代産業拠点の新たな集積や、環境との共生、低炭素型都市の創造といったサステナブルなまちづくりが進められ、一時は同地を舞台として北九州市が「スーパーシティ」に名乗りを上げたこともある。また、同じ北九州市八幡東区では、官営八幡製鐵所の社宅用地として活用されていた約45haにおいて、同社と北九州市、市住宅供給公社の官民連携による「八幡高見地区開発」を進めたこともある。こうした日鉄の工場跡地や社宅跡地などのこうした遊休地を活用した開発は同社の得意とするところであり、今後、そのノウハウがアサヒビール博多工場跡地で余すところなく発揮されることに期待したい。

再開発の進行を阻む
埋蔵文化財の可能性

 ただし、今後無事に再開発が進んでいくかどうか、1つ懸念事項もある。それは、埋蔵文化財の存在だ。

 アサヒビール博多工場が28年末に操業終了をすると、その後は29年12月に予定されている土地明け渡しに向けて、まずは既設建物の解体が行われるだろう。そのほか、工場跡地であることで土壌汚染調査も実施されるだろうし、地下の埋蔵文化財発掘調査なども行われるだろう。

 だが、先に述べてきたように、博多SOUTHエリアは古代から人々の生活の営みが続いてきた場所だ。近隣には板付遺跡や那珂八幡古墳など、多くの遺跡・古墳が点在している。さらに、アサヒビール博多工場の敷地内にも、横穴式石室を備えた福岡平野で最大級の前方後円墳「東光寺剣塚古墳」が現存。同古墳の周囲には木々がうっそうと生い茂り、工場敷地内でありながらも、きちんと保存されている。こうした土地柄、アサヒビール博多工場の敷地も、「掘ったら何か出てくる」可能性が極めて高い場所なのだ。そして、仮に何かが出てきた場合、その後の再開発のスケジュールに支障をきたすケースも十分考えられる。

奥の木々が茂った場所が「東光寺剣塚古墳」
奥の木々が茂った場所が「東光寺剣塚古墳」

 たとえば、博多区の冷泉小学校の跡地では、校舎等の解体を行った際に埋蔵文化財の発掘調査も行われ、跡地の一部で中世の港の遺構が発見。この遺構は、24年2月に「博多遺跡」として史跡に指定された。そのため、今後の跡地活用に際しては、遺跡部分を避けたかたちで跡地を分割して再開発をせざるを得なくなっている。

 また、粕屋町の九州大学農学部付属原町農場の跡地では、約22.8haもの広大な敷地を生かして、公・商・住などが一体となった複合型の市街地を形成しようという当初計画があった。だが、発掘調査を実施した結果、飛鳥時代から奈良時代の役所跡とされる「阿恵官衙(あえかんが)遺跡」が発見。20年に国史跡の指定を受けたことで、さらなる埋蔵文化財が存在する可能性もあることなどから、現在は再開発に向けた動きが停滞している状況にある。粕屋町では現在、この阿恵官衙遺跡を遺跡公園として整備することで、保存・活用しようと検討しているところだが、その一方で、同遺跡上を通るかたちで計画されていた福岡東環状線の延伸整備もストップ。交通インフラ整備の計画進行にも、多大な影響が出ている。

 こうした事例と同様に、アサヒビール博多工場跡地で新たに何かしらの埋蔵文化財が発見された場合、同地における再開発は停滞せざるを得なくなるだろう。今後、無事に再開発は進んでいくのかどうか、その行方が気にかかるところだ。

車両基地の上部活用で
竹下駅西側エリアも刷新

 最後に、博多SOUTH・竹下エリアの今後についての、妄言を垂れ流してみたい。

 今回、JR九州らグループが取得したアサヒビール博多工場用地は、敷地面積12万6,200m2とされているが、これは工場本体(約11万2,000m2)だけの面積ではない。工場本体から竹下通りを挟んで位置する旧・アサヒビール園博多店などの敷地(約1万1,200m2)のほか、JR竹下駅や線路を挟んで那珂川沿いに設置されている用水処理施設の敷地(約3,000m2)も含まれているのだ。つい工場本体やビール園のほうにばかり目が行きがちだが、この用水処理施設の存在は、意外と侮れないかもしれない。

 というのも、JR竹下駅の駅構内には、JR九州鉄道事業本部直轄の車両基地および乗務員基地である「博多運転区(南福岡車両区竹下車両派出)」が併設されているのだ。この車両基地の敷地面積は、地図上での概算で約3万6,000m2。そして前述の用水処理施設はこの車両基地に隣接するかたちで設置されているため、合計の敷地面積は約3万9,000m2になる。もし、この敷地を利用して、たとえば東区の香椎操車場跡地で新たなまち「千早」を誕生させた大規模再開発のようなことが行えるのならば、JR竹下駅の周辺の様相はガラッと変わるだろう。

竹下駅周辺

 もちろん博多運転区は車両基地として現役利用されているため、すぐに取り壊して再開発、ということは難しいかもしれない。だがJR九州では、採算が合わずに中止に追い込まれたとはいえ、博多駅の線路上空を立体的に活用する「博多駅空中都市プロジェクト」を進めようとしていた。その手法を利用すれば、車両基地としての機能はそのままに、その上部空間だけを活用した新たな開発を行うことも不可能ではないだろう。もちろん、採算に見合うだけの効果が得られるかどうかの問題は残るのだが…。

 仮にこの妄言が実現するならば、アサヒビール博多工場のあるJR竹下駅の東側エリアだけでなく、那珂川沿いの西側エリアでも新たなまちが誕生することになる。それは、JR九州らグループが目指している「竹下駅周辺の魅力的なまちづくり」にも合致するだろうし、ららぽーと福岡開業を上回るインパクトを博多SOUTHにもたらすかもしれない。

 今後、JR九州らグループによって、アサヒビール博多工場跡地がどのように再開発され、JR竹下駅周辺を中心とした博多SOUTHがどのような変貌を遂げていくのか、期待しながら動向を見守りたい。

(了)

【坂田憲治】

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