政治経済学者 植草一秀
政治の役割は大きく二つ。法律の制定・執行。予算の編成・執行。これを決めるのが立法=国会。執行するのが行政=霞ヶ関。法律の制定・執行も重要だが、国民生活に直結するのが予算・財政。政治の役割・機能のなかで国民生活に最大の影響を与えるのは予算・財政と言って過言でない。
財政活動は財政資金の調達と財政資金の配分の両面を決めるもの。国の一般会計予算の規模は120兆円。日本のGDPの5分の1に匹敵する。巨大な規模だ。
国の予算の基本構造を示すと以下のようになる。
社会保障支出 38兆円
社会保障以外の政策支出 23兆円
防衛関係費 10兆円
地方交付税交付金 20兆円
国債費 30兆円
合計で約120兆円になる。
政治活動に対しては国民の不断の監視と批判が必要。その国民が監視する最大の対象は政治が決定する財政活動であると言ってよい。国の一般会計の最大の支出対象は社会保障。社会保障支出は年額で138兆円。巨大である。
社会保障支出の中心は年金・医療・介護及び福祉。その社会保障支出財源で最大なのが保険料収入で80兆円。差額の55兆円が公費。公費のうち国の負担が38兆円、地方公共団体の負担が17兆円である。
国が負担する38兆円をどのように調達するか。よく問題にされる。「消費税は社会保障の財源だから減税すべきでない」と言われるが「真っ赤なウソ」。デタラメだ。財務省がこのデタラメを流布している。38兆円の財源は所得税でも法人税でも国債発行でもいい。
もっとも親和性が高いのは所得税と法人税だ。財政活動のなかで最重要の機能が社会保障。20世紀に確立された「生存権」。資本主義の欠陥は格差拡大。弱肉強食を放置すれば一握りの支配者と大多数の奴隷的国民に分化してしまう。資本主義の欠陥を補う政治の役割が重視された。
所得税や法人税は「応能負担」の考えがベースに置かれる。負担能力の高い者に大きな負担を求める。この制度によって調達した財政資金を社会保障支出に充当する。したがって社会保障の財源としては所得税や法人税の親和性が高い。
消費税の最大の欠陥は「逆進性」。収入の少ない人ほど消費税の負担は過酷になる。収入の多い人にとって消費税は優しすぎる税制だ。したがって社会保障の財源として消費税は必要どころか適正でないものと言うべきだ。
日本財政の活動について国民は基本を理解することが重要。しかし、その基本がほとんど理解されていない。この点の根本的な是正が必要である。
日本財政の基本構造を説明したが注目するべき点は社会保障以外のすべての政策支出の合計金額が23兆円程度であること。この23兆円でありとあらゆる政策支出がカバーされている。公共事業、科学技術振興、文教、食料安定確保、中小企業対策、経済協力費、などのすべての政策支出の規模が年間で23兆円。
他方、防衛関係費は数十年にわたって年間5兆円で賄ってきた。それでもすでに日本は世界有数の軍事大国になっている。この防衛費=軍事費がここ1,2年で急増している。年間5兆円の予算が一気に年間10兆円の水準に膨張している。
メディアが防衛費増大をあたりまえであるかのように報じるから国民の反発が抑えられている。しかし、防衛費を増大させる必要など皆無だ。このような声が噴出してまったくおかしくない。日本財政最大の問題のひとつが防衛費=軍事費の激増。平和主義国家の軍事費が激増する矛盾を国民は考えるべきだ。
もうひとつの日本財政最大の問題が補正予算。年間23兆円で政府の政策支出が成り立っているなかで、法外な規模の財政支出が補正予算に計上されている。
2020年度には73兆円もの財政支出が補正予算で追加された。「コロナ」にかこつけて破滅的な散財が行われた。破滅的という意味は「国民にとって」ということ。財政支出拡大の「甘い蜜」に群がった者にとっては「天国のような放漫財政」だった。ワクチンメーカー、ワクチン接種者、基幹病院、高級旅館だけでない。ありとあらゆる分野で「コロナかこつけ利権補助金」がばらまかれた。
霞が関・永田町と利権業界は「濡れ手に粟」の巨大利益を獲得した。極め付きは財務省。「資金繰り対策」の名目で財務省天下り金融機関に19兆円もの財政資金が投下された。「出資金」という名目の資金贈与が行われた。資金繰りに困っている事業者への資金交付ではない。政府系金融機関への資金贈与である。
補正予算での財政支出追加は20年度から23年度の4年間だけで154兆円。1年あたり39兆円の財政支出が追加された。年額23兆円でやりくりができているのに、それに上乗せして年間39兆円もの財政支出が追加されたのだ。
この大半が利権補助金。産業界に想像を絶する財政資金が注ぎ込まれてきた。この巨大な財政資金投下に対するキックバックが自民党等への献金・裏金供与、霞が関官僚組織への天下りポスト提供になっている。
巨大な国家的汚職構造が構築されている。巨大な利権バラマキ財政支出を社会保障に充当したらどうなるか。日本は世界有数の高福祉国家になれる。日本財政が危機にあるというのも大ウソ。日本財政は巨大な資金余剰の塊。しかし、財務省は日本財政が危機にあるとして社会保障支出を切り込むことだけを唱えている。
年に39兆円の散財をしながら、高額療養費制度では年間200億円の財政支出を削減するために制度大改悪を強行しようとした。これを押し通すための口実が「現役世代の保険料負担の軽減」である。月に100円の負担減と重い病気にかかった際の保険機能喪失とどちらがいいかを国民に問うべきだ。わずかな保険料負担軽減よりもたしかな医療保障を求めるだろう。
高市首相は「責任ある積極財政」を掲げるが決定したのは利権バラマキの再拡大である。税制においては消費税を減税して富裕層と大企業に対する課税強化を推進するべきだが、その方向性はまったく示されない。
財政論議について言えば非難されるべきは自維の与党だけでない。国民、公明、みらいも同罪だ。主権者である国民が予算と財政についての基本構造を理解して根本的な是正を求める必要がある。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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