福岡市はアジアの玄関口として、アジア諸国の繁栄の果実を享受してきた。今後の都市戦略を考えるなら、視線を東アジア・東南アジアからさらに広げるべきだろう。次に見据えるべきは、急成長するインド、そしてその先に広がるアフリカ市場である。
相互補完が見込めるインドとの協力
インドへの投資を行っている福岡県内の企業は少なく、首都圏などと比べるとインド市場への熱意においても情報量においても大きな差がある。しかし、2025年に福岡市にインド総領事館が設立されたこともあり、インドビジネス関連のセミナーなど、インドの現場を知る関係者の話を聞く機会が増えている。
福岡市はこうした環境整備の進展を生かし、インドへの進出を積極的に検討するとともに、インド企業との協業を通じて、さらにその先にあるアフリカ市場にも接続できる新たな国際ビジネス拠点を目指してはどうか。4月24日に先月福岡市で開催された「インド スタートアップとの交流会」においてそうした実感をもった。
当日はITからIoT、宇宙、ヘルスケアまで、幅広い分野のスタートアップ11社の関係者が来日し、約100人の参加者を前に事業を紹介した。
主催者挨拶で在福岡インド総領事のラムクマール・チャクラバルティ氏は、インド政府認定のスタートアップが15万社を超え、ユニコーン企業も多数生まれており、日本企業にとってインドは大きな事業機会を提供する市場だと訴えた。同氏は、インドには巨大市場とコスト効率の高いプロトタイプ製造力があり、日本には技術、R&D、資金力があると指摘。教育、ヘルスケア、防衛、半導体、AIなどの分野で、両国が補完関係を築けるとの期待を示した。
南アジアに詳しいJETRO福岡センターの小濱和彦所長は、インド企業の強みについて、スピード、適応力、実行力があり、社会課題の解決を起点にグローバルなビジネスを展開していることと分析したうえで、日本企業が海外展開に向けて事業を洗練させるうえで、インドのダイナミズムを取り入れることは有効な戦略との認識を示した。JICAで日印共創ビジネス交流促進などに従事する有澤孝治氏も、日本企業は緻密に計画を練り上げるが、インド企業にはカオスのなかで突破するスピード感やリスクを取る姿勢があり、異なる強みをもつと話す。
福岡商工会議所産業・貿易振興部長の田中大輔氏も、同所がインドを会員企業の事業開発における重要な戦略的地域の1つと位置付けていること、インドで活動する有澤氏など福岡出身者のネットワークも活用していることを紹介した。
有澤氏は今回来日したインド企業が「パートナー」を求めて来日した点を強調した。インド企業は日本の製造業の技術力やR&D能力を高く評価しており、自社のIT技術と日本のハードウェア技術を掛け合わせ、共に世界市場を攻める関係を望んでいるという。
彼らの発言は重要な示唆を含む。福岡市にとって重要なのは、インドを単なる巨大市場として見ることではない。インドのスタートアップは、さまざまな社会課題の解決を目指して事業を生み出し、低コストで素早く試作し、現場で改善することで急速に成長している。日本企業は技術や品質管理、R&Dなどに強みを持つ一方、スピードやリスクテイクでは課題を抱えることが多い。インド側からも両者は補完関係にあるパートナーたり得ると呼びかけられたが、福岡市はこの補完関係に基づく協業を都市戦略として取り込んではどうか。
有澤氏によると、福岡市は東京や大阪に比べて都市規模が大きすぎず、関連する行政、経済団体、大学、スタートアップ支援機関の相互の距離が近いことから、来日したスタートアップ関係者らが心理的・物理的なハードルが低いと感じているのも利点だ。日本進出の最初の拠点として有望と認識したのではないかと期待を寄せる。
インドをアフリカへの橋頭堡に
もう1つ重要なのは、インドとの連携がアフリカ市場への橋頭堡になり得る点である。アフリカには南アフリカ、モーリシャス、ケニア、タンザニアなどを中心に約300万人のインド系住民が住む。インド系のビジネスネットワークが建築、ホテル、IT、流通などの分野で大きな影響力を持つ国もある。東アフリカは英語が通じる国も多く、歴史的にもインドとの結びつきが強い。インド企業と組むことは、福岡の企業が単独で進出するにはハードルの高いアフリカ市場へ進出するうえで有効なルートとなる。
アフリカは人口増加と都市化が進み、医療、教育、エネルギー、物流、住宅、農業、金融、デジタルサービスなど、幅広い分野で市場拡大が見込まれる。高品質・高付加価値を得意とする日本企業は、北部や南部の一部高所得層向け市場では大手を中心に一定の実績がある。しかし、ボリュームゾーンであり今後の伸びしろが最も期待できる中間層市場の開拓には課題がある。地方の企業にとって、現地の制度、商習慣を理解し、人脈を築き流通網に入るのは容易ではない。ここで、インド企業の低コスト開発力、現地適応力、アフリカでのネットワークが生きる。
インドは巨大市場であると同時に、このようにアフリカへつながる戦略的パートナーでもある。福岡市がインドとの関係を深めることは、単なる国際交流に留まらず、地場企業の新市場開拓、スタートアップの成長、外国人材との接続、都市ブランドの向上に直結する経済戦略となる。
福岡市に検討してもらいたい点は以下の3点。第1に、インド・スタートアップとの継続的な交流機会の制度化を図ることだ。単発のイベントで終わらせず、地場企業向けのインド市場セミナー、現地視察ツアー、ビジネスマッチングの機会を定期的に設ける必要がある。第2に、福岡企業とインド企業によるアフリカ向け共同事業の創出を支援することだ。医療、教育、再生可能エネルギー、防災、農業、物流、デジタル行政など、福岡企業の技術とインド企業の展開力を掛け合わせられる分野は多くあるだろう。第3に、大学や高専を含めた高度人材交流を強化することだ。インド工科大学など優秀な層の視線は欧米に向けられているが、インドの優秀な人材の力を活用できるよう、半導体、AI、宇宙、ヘルスケア分野で人材と技術の循環をつくるべきである。
「アジアの玄関口」から、「グローバルサウスと日本を結ぶ都市」へ。その転換こそが、福岡市の次の成長を切り拓く。
【茅野雅弘】








