武雄アジア大学の収支計画が明らかに(4)旭学園の資金繰りと事業継続性を試算する
では、前回記事で試算した武雄アジア大学の収支モデル【表9】を用いて、旭学園の収支を試算しよう。
当初計画A:毎年140名が入学する。文科省に提出された収支計画
当初計画B:毎年120名が入学する。想定される採算ライン
モデルA:初年度37名、2年目以降は定員140名が入学する
モデルB:初年度37名、2年目以降は120名が入学する
モデル2:初年度37名、以降は入学生が35名ずつ増加する(便宜的に2年目は70名とする)
モデル3:初年度37名、2年目以降は入学生が70名となる
モデル4:2年目以降も入学生が初年度と同じ37名にとどまる
試算では2年目に資金不足の可能性も
差し迫って重要なのは、旭学園の資金繰りの問題だ。これを確認するために、旭学園の活動区分資金収支計算書【表7】を令和7年度以降に延長し、そこに【表9】の当初計画A・Bと5モデルの収支を落とし込むかたちで、資金繰りの試算表【表10】を作成した。
凡例(各色説明)
グレー:未発表あるいは未来の事項であるため、平成27年度~令和5年度までの9年間の平均を採用している。令和6年度を除外したのは、武雄アジア大学の建設にかかわる大きな勘定の動きが発生しているためだ。
オレンジ:平成27年度~令和5年度までの平均値に対して、武雄市・佐賀県から交付された補助金19億4,809万円を加算し、第1回記事の【表1】に記載された「施設・設備の設置費用」の令和7年度分20億1,629万円を差し引いている。
薄い緑:【表9】で算出されたモデルごとの武雄アジア大学分の教育活動ベースの資金収支差額。
紫:武雄アジア大学がない場合の既存校のみの参考値。
試算表の性質
旭学園が追加借入、資産売却、追加補助、抜本的な支出削減などを行わない場合に、公開資料上の前提から期末資金がどのように推移するかを試算した。通常、資金の動きには波があり、資金繰りが厳しくなるほど平準化から遠のくが、ここでは試算を行うため、便宜的に平準化している。
※本稿における概算試算の目的について(末尾に記載)
見てもらいたいのは、翌年度繰越支払資金(黄)だ。これは期末の残資金(現金・預金)を表している。
当初計画A・Bの場合、4年間は資金収支が苦しいが、5年目に私学助成金が入り、当初計画Bも5年目から武雄アジア大学の資金収支がプラスになると想定すれば、4年間のうちにある程度の資金手当てをすれば乗り越えられる見込みだ。資金の手当て方法としては、資産売却、融資などが考えられるが、重要なことは、当初計画A・Bの場合、5年目以降に採算確保の可能性があるとして、金融機関などに対して説明が可能であったと思われることだ。つまり、旭学園の将来性に対して、資金の手当てを引き出せる可能性がある。
さて、問題はモデルA以下の5つのモデルだ。第1期生が37名であることはすでに確定しているので、現実にはこの5つのうちのいずれかに近い推移をたどると予想される。試算ではいずれも2年目から厳しい資金繰りだ。2年目の新入生を140名あるいは120名と想定するモデルA・Bでも2年目で資金繰りはかなり厳しく、3年目は資金不足に転じる試算となる。さらに、入学生が段階的増加にとどまるモデル2や、70名ないし37名で推移するモデル3・4では、2年目で資金不足に陥る。第1期生の実数が37名になった結果が、武雄アジア大学にとって大きな痛手であることが分かる。
今後、武雄アジア大学が着実に認知を獲得し、入学生数が減少することはないという楽観的な見立てを採用した場合、モデルA、Bは5年目以降、モデル2は6年目以降、採算が取れる見込みとなるため、まだどこかから資金の手当てを受ける可能性はあるだろう。しかし、必要な手当ての額は膨大かつ喫緊であり、楽観的な見立てに応じてくれる資金の出し手を見つけるのは容易ではないと思われる。
一方、モデル3・4の将来性は極めて厳しい。モデル3は5年目以降、充足率が50%を超えれば私学助成金の対象となる可能性があるが、充足率が低いため助成率も低くなる。それでは武雄アジア大学単体も旭学園全体も採算確保は難しい。モデル4は私学助成金の対象にもならない。5年目以降も採算改善の見込みが乏しいとなれば、必要資金を早急に手当てするハードルは一段と高くなる。
旭学園に追加資金を引き出す説明力は残るか
旭学園に対する資金手当ての可能性を考えるうえで、問題となるのは信用余力だ。次の【表11】は、事業活動収支計算書【表8】を令和7年度以降に延長し、【表9】の当初計画A・Bと5モデルの収支を落とし込んで試算したものだ。ここに旭学園の信用余力がうかがえる。
凡例(各色説明)
グレー:未発表あるいは未来の事項であるため、平成27年度~令和5年度までの9年間の平均を採用している。令和6年度を除外したのは、武雄アジア大学の建設にかかわる大きな勘定の動きが発生しているためであり、それをイレギュラーと見なした。
オレンジ:特別収支差額には補助金19億4,809万円を加算し、基本金組入額合計には第1回記事の【表1】に記載された「施設・設備の設置費用」の令和7年度分20億1,629万円を反映している。それぞれ平成27年度~令和5年度までの平均値も利用している。
肌色:オレンジ項目に大きく影響を受けている科目。それぞれグレーの値も加算。
緑:【表9】で算出されたモデルごとの武雄アジア大学分の教育活動収支差額。
紫:武雄アジア大学がない場合の既存校のみの場合の参考値。
黄色の翌年度繰越収支差額は、【表6】貸借対照表でみた繰越収支差額(赤枠)の延長である。
当初計画A・Bでは、旭学園の従来の赤字体質に武雄アジア大学分の赤字が加わり、累積赤字の増加が早まっている。令和11年度には繰越収支差額の赤字が40億円台後半まで膨らむ試算だ。だが、開学後5年目からは私学助成金が交付され、武雄アジア大学の教育活動収支については黒字に転じる可能性がある。そうなれば旭学園として武雄アジア大学を中心とした経営戦略へ切り替え、収支構造全体の立て直しも視野に入るものと思われる。これをどのように評価するかは資金の出し手次第だが、累積赤字は50億円に近い水準であり、外部から追加資金を調達するうえでは、厳しい説明を求められる可能性がある。
しかし、実際にはさらに厳しいモデルA以下のいずれかだ。試算上、2年目で累積赤字は40億円を突破し、4年目には50億円を超える可能性がある。これは旭学園の信用余力が大きく低下する可能性を示している。仮に目先の資金不足に対して資金を手当てしても、それが完成年度以降の経営改善につながるのか、それとも一時的な資金繰りの延命にとどまるのかが問われる状況だ。融資や支援を行う側にとっては、5年目以降の返済原資や収支改善の根拠を慎重に見極める必要がある。
以上をまとめると、武雄アジア大学の収支試算【表9】に基づいて旭学園の収支を試算した場合、【表10】のように目先で資金不足の可能性が迫っているものの、その将来的な信用余力の試算は【表11】の通りなのである。通常の金融判断から見れば、追加資金の調達には相当高いハードルがあると言わざるを得ず、そのなかでどのように資金を調達するかが、旭学園の事業継続性にとって喫緊の課題となるだろう。
追加支援を求められた場合、武雄市はどう対応するのか
この試算結果は旭学園にとってばかりでなく、武雄市にとっても重い問題だ。繰り返しになるが、武雄市は総事業費36億1,436万円のうち19億4,809万円(武雄市負担12億9,873万円、佐賀県補助6億4,936万円)の補助金予算案を、24年6月の定例会で議決した。武雄市の決定がなければ、武雄アジア大学構想は実現することはなかった。武雄市は実質的なスポンサーに等しく、本件構想は武雄市の政策投資の結果にほかならない。大学の経営は旭学園の責任であっても、公金を投じた以上、その事業が継続可能なのか、補助金の政策効果が実現するかは、武雄市にとって重い責任である。
武雄市にとって差し迫る問題は、旭学園が自力で資金手当てできない場合、武雄市が追加支援や何らかの対応を求められる可能性があることだ。武雄市の小松政市長は、25年9月の議会答弁で「大学の運営に対して補助金を出すということはございません」と発言していた。市長がその方針を堅持するかどうかはさておいても、現時点で旭学園の財務状況の厳しさが予想される以上、政策責任の観点から、武雄アジア大学と旭学園の事業継続性は十分に確認が行われるべきだ。
本稿で示した収支試算は、限られた公開情報に基づく概算に過ぎない。武雄市と市議会は、より精密な情報のもとで事業継続性の確認を行うために、①旭学園の25年度(26年3月期)決算、②武雄アジア大学の今後4年間の学生募集見通し、③完成年度までの資金計画、④5年目以降の定員充足率と私学助成金の見込み、以上4つの情報の開示を旭学園に求めるべきである。
そして武雄市は、武雄アジア大学と旭学園の事業継続性を評価し、その結果を市民に示さなくてはならない。必要なのは、曖昧な情報に基づく楽観的な見通しではなく、数字に基づく具体的な説明だ。武雄アジア大学構想は、期待を語る段階から、数字で検証する段階に入っている。
※本稿における概算試算の目的について
本稿の試算は、公開された設置認可申請資料と旭学園の過年度決算資料をもとに、筆者が一定の前提を置いて作成した概算であり、学校法人会計上の正式な予測決算ではない。実際の収支は、今後の学生募集、支出削減、借入、資産売却、追加支援、補助金の交付時期、基本金組入額の処理などによって変動する。
ただし、武雄アジア大学構想には武雄市および佐賀県から多額の補助金が投じられており、同事業の継続可能性は学校法人内部の経営問題にとどまらない。本稿は、令和7年度決算が本稿掲載時点で公表されていないなか、公開情報に基づく検証材料を示し、武雄市議会を含む公共的な議論の足場を提供することを目的としている。
(了)
【寺村朋輝】











