【インタビュー】政治資金収支報告書は権力監視の武器だ 上脇博之氏が語る「政治とカネ」告発の現場
神戸学院大学
法学部教授 上脇博之 氏
自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件は、東京地検特捜部による旧安倍派、二階派事務所への捜索や安倍派現職国会議員の逮捕に発展し、自民党政治を大きく揺るがした。この問題で刑事告発を行い、捜査の重要な契機をつくったのが、神戸学院大学法学部教授の上脇博之氏である。上脇氏は2000年代前半から、政治資金収支報告書の分析、情報公開請求、刑事告発を通じて「政治とカネ」の問題を追及してきた。公開資料から不正の痕跡をどう読み取り、権力監視につなげるのか。告発の経緯、民主主義を支える情報公開、メディアの役割について聞いた。
派閥裏金事件を動かした公開資料の読み解き
法学部教授 上脇博之 氏
──自民党の派閥パーティーをめぐる裏金問題は、上脇先生の刑事告発により東京地検が捜査を行ったことで、大きな問題へと発展しました。
上脇博之氏(以下、上脇) ことの発端は、2022年11月6日号の「しんぶん赤旗日曜版」による裏金問題のスクープ記事について、編集部からコメントを求められたことでした。その記事では、自民党主要5派閥(当時)である岸田派(宏池会)、安倍派(清和政策研究会)、麻生派(志公会)、二階派(志帥会)、茂木派(平成研究会)が開催したパーティーのパーティー券売上について、政治資金収支報告書では金額が少なかったり、記載されていなかったりする事例が複数見つかったことが示されていました。この記事により、自民党で組織的な裏金がつくられているのではないかと考え、時効にならない18年から22年までの5年間について調査を始め、政治資金規正法違反の疑いで、22年11月に安倍派会長を務めた細田博之衆議院議長(当時)らに対する刑事告発を行いました。
死票、情報公開、政治資金 議会制民主主義の条件
──政治が資金力に左右されないために必要なことは何でしょうか。
上脇 私は、大学院在籍時から議会制民主主義の研究をしてきましたが、とくに選挙制度と政治資金を研究テーマにしました。そのなかで日本とドイツの比較研究を行い、日独の比較を通じて日本の議会制民主主義について考察してきました。
日本国憲法は国民主権を掲げています。普通選挙も採用しており、国民の代表である国会もあります。一見すると議会制民主主義に思えますが、現在の選挙制度や政治資金制度を見ると、民主主義とはいえない面があるように思います。世界的には、オランダやスウェーデンのように全議席を比例代表制で選ぶ国もあります。日本は、衆議院が小選挙区比例代表並立制で、参議院が比例代表および選挙区制を採用しています。
私の考える民主主義は、本来、国民が直接国のトップを選ぶ直接民主主義です。しかし、国民全員が一堂に会して議論することは事実上不可能なため、直接民主制の代替として議会が存在します。ただし、真の議会制民主主義とするためには、国会を国民や政策の「縮図」とし、限りなく直接民主主義に近い状態で民意を反映させなければなりません。間接民主主義を機能させるためには、3つの点が必要です。
(1)死票の少ない選挙制度であること、(2)知る権利と政府の情報公開、(3)「政治とカネ」の透明化です。
まず死票が少ない選挙制度という点で、現在の小選挙区制度は、18歳以上の国民が選挙権をもつ普通選挙でありながら、1つの選挙区で1人しか当選者が出ないため、50%前後の投票が死票となっています。選挙制度を比例代表制とすることで改善されます。
知る権利や情報公開という点については、主権者が適切な政治判断を下すためには、政府が保有する情報を公開させることが不可欠です。公文書の適切な管理と情報公開制度の充実が求められます。
政治とカネの透明化については、資金力で政治が左右されると国民主権が損なわれます。企業・団体献金の禁止や、情報公開制度を活用した裏金問題の追及などを通じて、金権政治を打破しなければならないと思います。
収支報告書が示す不正の痕跡 政治家がつくった証拠を読む
──告発の目的は何でしょうか。
上脇 私が取り組んでいる政治資金問題の追及は、国民主権を守るためです。現在の政党助成制度は、1994年に「政治腐敗防止」や政治改革を名目に、小選挙区比例代表並立制の導入とセットで導入されました。しかし実際には、巨額の税金が政党に流し込まれることで、かえって政治家のモラル低下や「政治とカネ」の問題を引き起こしています。
たとえば、政党交付金をもらえる政党ともらえない政党があり、無所属の政治家はまったくもらえません。政党以外の政治団体にも交付金はありません。さらに企業・団体献金により、事実上の賄賂を受け取っていることになります。国民1人ひとりの声よりも、組織・団体の影響力が強くなってしまいます。
現在の自民党は小選挙区で多数を占めていますが、権力を取ると憲法を守らない政治を行う方向に進みます。では、その暴走をどう防ぐかと考えたときに、企業献金が温存され、かつ政党交付金が導入されているなかでは、政治資金規正法に基づいた客観的な証拠として収支報告書が存在しており、そのチェックが重要となります。
政治資金規正法違反は、私が証拠をつくり上げるのではなく、政治家側がつくったものが証拠になるので、告発することが比較的容易です。贈収賄はなかなか表に出ないため告発しづらいですが、政治資金規正法違反の不記載や虚偽記入は、正しく書いた側と正しく書いていない側がいるため、一方が証拠になります。そこで、関西などの弁護士の方々と一緒になって告発を始めました。
──地道な取り組みが、マスコミの報道を通じて広がったように思います。
上脇 政治資金問題の告発を行うと、私に取材が入ります。憲法学者は、大上段の議論が多いです。政党助成金が違憲か合憲か、企業献金が本当に憲法上許されるかといった論点です。ところが、政治資金規正法には細かい規定があります。私が詳しくなくても、記者の方々が非常によく勉強されていて、教えてもらうことがあります。今まで不勉強だった面を勉強する機会も得られ、オンブズマン運動を行うことが自分にとってもプラスとなっています。
弁護士の方々とも連携して取り組めるので、政治とカネの問題で知りたい情報を記者の方々が取材し、記事に書いていただくことで、それが告発の際の証拠になります。
森友、アベノマスク等 訴訟で問う行政の責任
──発売中の「週刊ポスト」にも先生のコメントが載っていますが、それも刑事告発の証拠になるということですね。
上脇 全管協(全国賃貸管理ビジネス協会)や職域支部のちんたい支部連合会による自民党員拡大の問題も、自民党費を党員になる個人ではなく会社側が払っているのであれば、政治資金収支報告書には党費ではなく会社からの寄附と書くべきであり、政治資金規正法上、寄附者の不記載や虚偽記載の疑いがある重大な問題です。
──これまでの取り組みと、現在どのような問題で告発に取り組まれていますか。
上脇 自民党派閥などの政治資金収支報告書のチェックのほか、選挙運動費用の収支報告書についても情報公開請求を行っています。これ以外にも、国に情報公開請求を行い、不開示になったものについて訴訟を起こして開示させるという運動に、市民オンブズマン運動に取り組む弁護士の方々とともに取り組んできました。
安倍政権時代はさまざまな問題が噴出しましたが、有名なのは「森友学園」への国有地売却および公文書改ざん問題をめぐり、財務省による情報公開の在り方を問うため、国を相手取った裁判を行ったことです。近畿財務局に対して「面談・交渉記録」の開示を請求しましたが、一部しか開示されなかったため、財務省と同学園との交渉記録の全面開示を求めて提訴し、数百件の非公開決定を取り消す勝訴判決を確定させました。関連して、財務省による交渉記録の廃棄問題についても、佐川宣寿元国税庁長官らを公用文書毀棄容疑などで刑事告発しました。
新型コロナ対策で2020年に安倍晋三首相(当時)が各戸配布を主導した通称「アベノマスク」についても、契約過程を示す文書の開示を求めて提訴しました。25年6月、国側が期限内に控訴しなかったため、国の不開示決定を取り消して国家賠償を命じた大阪地裁判決が確定しました。
20年5月に辞任した黒川弘務元東京高検検事長の定年延長をめぐり、政府が法解釈を変更した経緯がわかる文書の開示を求めた裁判も行いました。国は当初「文書不存在」としていましたが、24年6月、大阪地裁は国に一部開示を命じました。
それから、旧統一教会問題での開示請求にも取り組みました。22年7月の安倍元首相銃撃事件以降、政治家と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の癒着が問題視されました。長年、国は教団の名称変更を認めてきませんでしたが、一転して15年に、世界基督教統一神霊協会から世界平和統一家庭連合に改称されました。「政治家の意向が働いたのではないか」との疑念から開示請求を行いましたが、国が申請書の一部を黒塗りし、内部文書はすべて不開示としたため、大阪地裁に提訴しました。25年11月、大阪地裁は、不開示とする国の決定を違法として取り消しました。
地元の兵庫県政の問題にも取り組んでいます。斎藤元彦兵庫県知事の問題を内部告発した元県民局長の私的情報が漏洩した問題で、元局長の信用性を低下させたとして、知事や県幹部らを地方公務員法(守秘義務)違反などの疑いで神戸地検に刑事告発しました。また、県知事選の際のポスター製作費などをめぐり、斎藤知事陣営がPR会社へ支払った金額が選挙運動の対価に当たるとして、公職選挙法違反容疑で刑事告発を行いました。神戸地検による不起訴処分を不服とし、検察審査会へ審査を申し立てています。
情報公開に関しては、斎藤知事の疑惑を調査するために設置された第三者委員会の文書などが兵庫県によって「不開示」とされたため、25年3月、神戸地裁に不開示処分の取り消しを求めて提訴しました。
報道が告発の証拠になる メディアと市民監視の役割
──国民が知る権利を行使することは重要だと思いますが、情報公開請求を行う際のポイントやメディアの役割についてはどう考えていますか。
上脇 一般の人ができるチェックと、報道機関の記者ができるチェックには違いがあります。情報公開請求制度を利用する方法と、足で情報を得ながら調べていく方法は、分けたほうがよいと思います。
一般の方であれば、公開されている収支報告書を見る方法があります。たとえば、AがBに寄附したと書いてある一方で、Bが受け取ったとは書いていない、あるいは金額を過少に書いているといった、関係するお金の出入金状況を収支報告書でチェックして問題を見つける方法があります。しかし、これは地道な作業で、問題点を発見するには大変な労力を要します。
報道機関の場合は、収支報告書のチェック以外にも、政治家への取材など足で調べていくことができます。その点で、私の活動には報道の方々との連携が不可欠です。
多くの国民が記事を読んで、表に出ていない問題を知り、「そういうことだったのか」「これは違法とまではいえないけれど、政治的には大問題だ」と気づくきっかけになります。報道は、知る権利という人権の保障にもつながり、主権者を主権者たらしめる原動力にもなるので、重要な役割を担っていると思います。
──授業で教えている学生の反応は。
上脇 授業で政治資金や知る権利などについて取り上げていますが、「〇〇事件は実は私が告発したんだよ」などとは一言も言いません。報道に触れることで、学生の方から興味をもってもらえることは期待していますが、上から目線にならないよう気を付けています。
【近藤将勝】
<PROFILE>
上脇博之(かみわき・ひろし)
1958年、鹿児島県生まれ。関西大学法学部卒。神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得。北九州大学(現・北九州市立大学)教授などを経て2015年から現職。専門は憲法学。「政治資金オンブズマン」代表を務める。「どう思う?地方議員削減」「告発!政治とカネ 政党助成金20年、腐敗の深層」など著書多数。








