全国150万人の歩数データ分析 苅田町と福岡市が九州トップ、小林市は全国最低
東京大学の研究グループは、全国約150万人のスマートフォン利用者の歩数データを分析し、市区町村間で最大3,724歩の格差があることを明らかにした。九州では福岡市と福岡県苅田町のみが平均6,000歩を超えた一方、宮崎県小林市は全国最低の4,026歩だった。研究は、都市の歩きやすさと身体活動量との関係を裏付ける結果となっている。
大規模データで歩数格差を分析
東京大学大学院医学系研究科の鎌田真光准教授らによる研究グループは、全国約150万人のスマートフォンアプリ利用者の歩数データを用いて、日本における歩数の地域間格差と社会経済的格差を分析した。
研究では、ジオテクノロジーズ(株)が提供するスマートフォンアプリ「トリマ」の匿名化データを活用。2023年の1年間に蓄積された20~64歳の利用者154万2,536人、延べ2億6,173万1,501人日分の歩数データを解析した。
市区町村レベルの分析では、利用者100人以上が存在する951市区町村を対象とした。その結果、平均歩数は最少4,026歩/日から最多7,750歩/日まで分布し、自治体間で最大3,724歩/日の差が確認された。最も歩数が多い自治体と少ない自治体の間には約2倍の開きがあった。
歩きやすい街ほど歩数も多い
研究グループは、人口密度や生活関連施設の集積度、道路接続性などから算出した「ウォーカビリティ(歩きやすさ)」指標との関係も分析した。
その結果、歩きやすい地域ほど平均歩数が多く、地域内の歩数格差を示すジニ係数も低い傾向がみられた。
さらに、教育歴や就業状況、世帯収入などの社会経済的要因による歩数格差についても分析。教育歴や世帯収入による歩数差は、歩きやすい地域と歩きにくい地域との間で最大762歩/日の差がみられたほか、就業者と非就業者の歩数差は、最も歩きやすい地域で最大1,514歩/日に達した。
研究グループは、地域環境の整備が身体活動の促進に重要である一方、環境整備だけですべての人の身体活動を増やせるわけではないとして、個人の社会経済的背景も考慮した健康政策の必要性を指摘している。
苅田町と福岡市が九州トップ
今回公開された市区町村別データによると、福岡県苅田町が6,367歩で九州トップ、続いて福岡市は6,287歩だった。ただし、九州・沖縄で平均歩数が6,000歩を超えた自治体は福岡市と福岡県苅田町の2自治体のみだった。
一方、最も歩数が少なかったのは宮崎県小林市で4,026歩だった。これは全国自治体のなかでも最低水準となる。
九州トップの苅田町と全国最低の小林市との差は2,341歩、福岡市と小林市との差でも2,261歩に達する。毎日20分前後の歩行時間に相当するとみられ、同じ九州圏内でも身体活動量に大きな地域差が存在していることが分かる。
都市構造の違いが背景か
今回の結果からは、公共交通網や人口密度、商業施設の集積状況など都市構造の違いが歩数に影響している可能性がうかがえる。
福岡市は地下鉄や鉄道、バスなど公共交通機関が発達しており、通勤・通学や買い物などで徒歩移動が発生しやすい。天神や博多といった高密度な都市空間も、研究でいう「ウォーカビリティ」の高さにつながっていると考えられる。
一方、小林市は人口密度が低く、自動車利用への依存度が高い地域として知られる。日常生活の移動手段として自家用車が中心となりやすく、歩数の少なさに反映されている可能性がある。また、九州トップとなった苅田町は北九州都市圏に属し、自動車関連産業が集積する工業都市でもある。鉄道利用や工場勤務にともなう徒歩移動が比較的多いことが影響している可能性も考えられる。
平均歩数の高さが示す「都市の多様性」
興味深いのは、全国的に平均歩数が高い自治体では、歩数の標準偏差(SD)も大きい傾向がみられる点だ。
一般に標準偏差は住民間のばらつきの大きさを示す指標であり、歩く人と歩かない人が同じ地域内に共存していることを意味する。福岡市の平均歩数は6,287歩だったが、標準偏差は7,693歩に達していた。東京でも、港区、渋谷区、台東区、荒川区などで平均歩数は7,000歩台だが、標準偏差は1万歩を超えていた。
これは人口や産業が多様な都市部ほど、鉄道通勤者や営業職、物流従事者など高歩数層が存在する一方、在宅勤務者や自動車利用中心の住民も多く、歩数分布が広がりやすいためと考えられる。
福岡市の場合、地下鉄や鉄道を利用して日常的に1万歩以上歩く人がいる一方、自動車通勤や在宅勤務などで歩数が少ない人も少なくない。平均歩数の高さは、住民全体が一様によく歩いていることを意味するのではなく、多様な生活様式が共存する大都市の特徴を映し出している可能性がある。
今回の研究では歩数平均値だけでなく、地域内の格差を示すジニ係数も分析対象となっている。今後は「どの地域がよく歩いているか」だけでなく、「地域内で誰が歩き、誰が歩いていないのか」という視点も、健康政策やまちづくりを考えるうえで重要なテーマとなりそうだ。
公開データで自治体比較も可能
研究チームは今回作成した市区町村単位の統計データとインタラクティブ・マップを公開している。自治体ごとの平均歩数や地域内格差を確認でき、健康づくりやスポーツ政策、まちづくり施策の検討資料としての活用が期待される。
<参考>
市区町村別の歩数データやインタラクティブ・マップは、研究チームの公開サイトで閲覧できる。
https://doi.org/10.82337/1000011
【寺村朋輝】









