福島自然環境研究室 千葉茂樹
最近の話題は、連日クマである。先日は、福島市でヒトの包囲網を突破して逃走した「頭の良いクマ」が話題となった。
福島市笹木野のクマ
6月上旬、福島市笹木野にクマが現れ、逃げ惑うヒトを背後から襲った。その後、このクマは工場に閉じ込められたが、警察官や市の職員が監視するなか、窓のカギを外し、窓を開けて逃走した。監視の人たちの想定外の行動だった(リンク1)。
この工場は火気厳禁で、銃による駆除はできなかったという。
読者の皆さんなら、どう対処しますか。
私の直感は2つ。
1つ目は、「二酸化炭素(炭酸ガス)」をクマのいる部屋に流し込む。二酸化炭素は、空気の1.5倍の重さで低い所に溜まる。クマは、床に近い所にいるので、有効だと思う。多分、これで駆除でき、最悪でも気絶させることくらいはできる。余談であるが、古井戸などの底に、この二酸化炭素が溜まっている場合があり、酸欠事故(二酸化炭素中毒)になることがある(リンク2)。
2つ目は、家の外などに巣を張る「クモの狩り方」である。クモは、獲物が巣にかかると大量の糸を吐き、獲物を雁字搦め(がんじがらめ)にする。この方法を応用し、クマの周りに大量の網を置き、クマが動いて引っかかるのを待つ。漁業の廃棄された網を使えば費用もたいして掛からない。場合によっては投網を波状的に行う(機械での打ち出しもある)のも有効かもしれない。
とにかく、頭を使って対応すべきであった。福島市のように、手をこまねいているなど、愚の骨頂(ぐのこっちょう)である。
野生動物は極めて賢い「身体堅牢」「頭脳明晰」
野生動物は自然界の厳しい環境で生活している。日々、生きるか死ぬかである。エサにありつけなかったら飢えて死ぬだけである。病気になっても病院はなく、自分で治すしかない。だから、生き残っている個体は「身体堅牢」「頭脳明晰」である。
私は、ほぼ毎日、里山を散歩している。ここにはハシボソガラスが住んでいる(画像1)。

このなかに、極めて頭の良いカラスがいる。クルミの実を運んでは、空中から急降下して駐車場に叩きつけ、割れた実の中身を食べている。また、駐車場に実を置いて、車に轢かせて中身を食べている(画像2)。念のために書いておくが、毎日やっているわけではない。私が見るところ、気が向くとやっているようである。

これに対し、頭の悪いカラスもいる。先日は、夜間にキツネに食べられたらしく、死骸があった。死骸の写真もあるが、気持ちの良いものではないので掲載はやめる。
私が見るところ、頭脳明晰なカラスは、集団ではなく単独行動をしている。クルミ落としのカラスがそうである。頭の悪いカラスは集団のなかにはいるが、集団から疎外されている。集団の中心ではなく、周りにいる。こういうカラスが、キツネのエサになっている。
なお、カラスは、いつも集団行動しているわけではない。亀ヶ城跡公園(リンク3)のカラスは、多くが数羽の小集団である。たまに大集団で行動していることがある。また、カラスにも序列関係(リンク4)があるようである。ケンカして大けがをしたカラスを見たことがある。
話は戻って、自然界は生きていくのが大変である。別の見方をすれば「身体堅牢」「頭脳明晰」の個体しか生きていけない。当然ながら、「病弱な遺伝子」「頭の悪い遺伝子」は淘汰されて、自然界には残らない。
都市部のクマは賢い「生き残りの戦略」
最近、都市部へ出てきたクマが話題となっている。このクマは、「かなり賢い」と考えられる。賢くなければ、迷路のような住宅地のなかを走り回ることなどできない。しかも先日の福島市のクマのように閉じ込められた工場から脱走している。
別の見方をすれば「生き残りの戦略」である。山にいてもエサは少なく、餓死の可能性すらある。冬は凍死する可能性もある。
それに比べ里の畑にはおいしい野菜があるし果樹もある。こんな魅力的なところはない。人に例えるならば、無料のレストランのような所である。しかも、昔は住民がいて、ノコノコ里に出ていけば捕獲される危険性が高かった。しかし、最近は過疎化で住民もいなくなり、追い払われることもなくなった。
最近の大きな問題は、都市部への進出である。都市部の周辺も草刈りがされずに藪だらけで、ある意味での「けもの道」ができている。
1970年頃の高度経済成長期は、都市は郊外へと拡張していった。しかし、現在、その郊外はゴーストタウン化している。野生動物にとっては、山より住みやすい場所になった。
なぜ都市部は野生動物にとって住みやすいのか
まず「気温」である。都市部は暖かく、凍死する危険性はまったくない。山では冬に凍死する可能性がある。
次に「エサ」、都市部の道を歩けば、いろいろなものが落ちている。食べ残しのパン、ハンバーグ、フライドチキン、挙げればきりがない。クマにすれば、エサを探すことなく、道を歩けばエサがある。クマ的にいえば「エサの道」である。
だから、冬眠をしないクマもいる。都市部は、冬でもエサが豊富で暖かい。人でいえば温泉保養地みたいな所である。
また、野生動物は身を守るため、通常は草の生い茂ったところしか歩かない。また、夜間に行動する。ところが、最近は日中堂々と都市内を歩いている。「エサの誘惑」と「ヒトは怖くない」と学習したためであろう。
都市部のクマ対策「ゴミのポイ捨て厳禁」
クマが都市部へ出てくる最大の理由は「エサ」である。エサが落ちているから、都市部へ出てくる。「ゴミをポイ捨てしている方、あなたが元凶です」。エサがなければ、クマは出て来ない。ポイ捨ては絶対ダメ。
また、生ごみは「匂いが出ないように密封」したほうが良い。野生動物は生きていくのに必死である。だから「五感は鋭敏(えいびん)」。人が感じない匂いにも敏感に反応する。エサの匂いがすれば、クマはそこに行く。
参考まで。私は借家暮らしで、ゴミは収集日まで家のなかで保管するしかない。私はゴミの匂いが嫌いなので、ゴミはビニール袋に密封している。とくに生ごみは小袋に入れて厳重に密封している。
一言付け加えれば、「自然と接しているとヒトも五感が鋭敏」である。昔のヒトは自然のなかで生活していたので、五感が鋭敏であった。別の見方をすれば、自然はいろいろな危険があり、鋭敏でなければ生きていけない。こちらにも書いたが(リンク5「自然と人間」)、私は深い山のなかで、巨岩の崩落を予感し、崩落の約30秒前に逃げている。感覚が鈍感であれば、すでに死んでいた。これに対し、都会生活をしていると身近に危険は少なく、五感は「鈍感」になっていく。都市部で、ヒトがクマに対し脆弱(ぜいじゃく)なのはこのためかもしれない。
まとめ
クマが嫌いならば、都市部をゴミ、とくに「生ごみのまったく落ちていない環境」にしなければならない。クマのエサとなるゴミが出続ければ、クマも出続ける。すべて、ヒトの問題である。
今の都市部では、クマが苦労しなくてもエサをいっぱい食べられる。今後、どうしたらよいか、読者の皆さん、各自でよく考えましょう。
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。








